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君を愛している  作者: シロガネ
EP5 意識と魅力と告白と
45/84

5-4

 図書館から本を借りて数日後。読書感想文という名の敵に頭を悩ませていた総司。やはり文章を考えるとなると難しく、本を借りてすでに数日たっているがなかなか手が進まない。

 ここ最近ずっと部屋に来ている衣里は今日も来ており、総司と同じく読書感想文を書いていた。書くと言ってもスマホのメモ帳に打ち込み、字数が足りるか確認しつつ行っている。


 今だとスマホで文章を打ち、文字数が足らない場合は間に文章を打ちこむ。そんなことを出来るが、小学生の頃は違った。小学生の時は、裏が白紙の広告用紙にとりあえず箇条書きで書き起こし、そこから文章として成り立つように書く。それから清書だった。時代の進歩は素晴らしい。


 そんな時代の進歩に助けられつつ朝から読書感想文をやっている2人。先ほど昼食を取り総司は再びスマホのメモ帳に打ち込んでいるが進みは悪い。

 対する衣里もソファーにもたれ掛かって同じくスマホのメモ帳に文書を打ち込んでいる。


「なあ蘇摩」

「ん?」

「読書感想文の進みはどうだ?」

「今、終わりの方を書いている」


 スマホの画面から目を離さないで答えた衣里に総司が驚く。本を借りてきてまだ数日しかたっていない。ほとんど同じぐらいの進み具合だと思っていたが、そんなにも早いとは思ってもいなかった。


「お前もう終わりかけなのか!?」

「ああ。ただ、いい感じに書けないから考え中」

「マジかよ……。それじゃあ終わったら少し手伝ってくれ」

「……頑張れ」


 返事に僅かだが間があった。一瞬悩んだようだが読書感想文は自分でやれと言うことなのか手伝うのが嫌なのかは分からないが、手伝うのはやめたようだ。

 確かに普通の課題ならまだいいが、こんな大変な課題手伝うのは嫌だろうな。

 そんな風に思いつつ総司は自分の読書感想文に何を書くか再び考え始めた。


「なあ間宮」

「ん?」

「読書感想文の存在理由ってなんなんだろうな」

「哲学始めるな」


 そう言ったが確かにこれまで何度も考えたことはある。以前、読書感想文の存在理由を調べたことがあり、それをふと思い出した。ただほとんど忘れてるためなんとか思い出そうと僅かな記憶の破片を思い出していく。


「読書離れを抑えるためってネットに書かれていたような」

「ふーん……」

「あとは本を買わせて司書の給料確保っていう話も聞いたな」

「うわぁ……。闇を感じる」


 総司の方を見ていた衣里が苦笑いを浮かべた。

 本離れを抑えるためならまだしも、司書の給料確保が目的というのはあまり聞きたくない話である。例えるなら、着ぐるみの中の人が50代のおっさんであると知った時のようなそんな気持ち。


「ただ給料確保は噂みたいだけどな」

「噂かよ」


 そういいつつ伸びをする衣里。どうやら集中力が切れたようだ。僅かにだが服が捲れあがり腹部の素肌が見える。


「なあ間宮。集中力切れた」

「俺にどうしろと?」

「テレビ置いている台……あれテレビ台っていうのかな? その棚に映画置いてあったが、見ていいか?」

「俺の見ている物とお前の見たいものが合うか分からないがいいか?」


 趣味の1つに映画がある総司。

 以前いた学園では友達はいた。それでも休みの日に遊びに行くほど友達と深い付き合いはなく、部活動にも参加していなかった。そのためすくことがなく、映画を見るようになった。


「タイトルからしてB級映画らしきものもいくつかあったよな?」

「まあな。親父の影響だな」

「ふーん」


 映画を見るようになったのも、父親が映画をよく見るため。映画はいくつかディスクで購入しているが、それはすべて父の物でありおさがりでもある。

 転校してくるまでかなりの数があったが絞り、有名なタイトルからB級と呼ばれる映画まで薄く広く持ってきた。


「じゃあ見させてもらうぞ?」

「ああ。大丈夫だ」


 総司だって年頃の男子。見つかるとヤバい物は持っている。それが棚に入っていないよなと、と持ってきたものを頭の中でチェックしながら返事をした。そもそもしっかりと見つからばい場所に隠しているから安全なはず。


 いままで溶けるのではないかと思うほど脱力していた衣里がゆっくりと起きあがり、テレビの前まで行くとしゃがみ、テレビ台の戸を開けてゴソゴソと音を立て始めた。衣里の背中しか見えないため総司は分からなかったが、衣里は作品名だけでなくパッケージも見て選び始めた。


「なあ間宮。見たことない映画もあるが、どれがおすすめだ?」

「サメが空から降ってくる映画は?」

「ああ。あれか。案外面白かったぞ。あとオレとしては今はあんまりうるさい物を見たくないな」


 思い出しているのか半分笑っていた衣里だったが、途中で真面目な声が聞こえてきた。何を持ってきているかすべてを把握していなかったため、しばらく考え込む総司。


「どういう系が見たい?」

「うるさくない奴ならなんでも」

「なんでもが1番困るんだよ」


 そう言いながらソファにもたれるように座っていた総司は立ち上がり衣里の隣に行く。自分自身何を持ってきたのかは完全に把握していない。そのためパッケージを見つつ思い出そうとしていた。


「じゃあアニメで」

「アニメか。じゃあこれなんてどうだ?」


 ほとんどが洋画を閉めるタイトルの中から、数少ない日本のアニメを取り出す総司。どうやら知らないらしく反応が薄い衣里。


「なんだそれ?」

「あれ? 知らないか? 数年前に上映されたアニメなんだけど……」

「ああ、そう言えばやってたなそんな物。興味なくて見なかったけど」


 タイトルとパッケージからどういう話か思い出した衣里。ただあまり興味を示さない。


「まあ俺も結局見なかったけどな」

「じゃあなんで持ってんだよ」

「前の学園の友達から貰った」


 観賞用、保存用、布教用の3枚を持っていた友達から貰った総司。

 アニメにはあまり興味はなかったが、なかなか感動できるとその友達に押し付けられるように勧められ貰ったが、今まで再生どころか開封すらしていない。そのため未だに保護フィルム――シュリンクフィルムが張られている。


「見ないのか?」

「ん? んー……じゃあそれ見る」

「分かった」


 テレビ台の棚に並んでいる映画を端から端までサッと目を通した衣里だが、これと言ったものがなかったようだ。

 総司がDVDプレイヤーにセットしている間に、衣里はテレビを付けてソファーに座っていた。


「再生していいぞ」

「わかった」


 衣里が再生ボタンを押したようで映画が始まる。それと同時に総司もソファーに腰掛けた。


「「……」」


 本編が始まると、2人とも口を閉ざした。どちらかが口を開くのを舞っているのか、それとも単に集中しているのか。


 前半は主人公の男性とヒロインの女性が出会い、交流をして行く場面が。それでも後半に差し掛かると、ヒロインの女性が高熱に倒れうなされているところだった。


「なあ間宮」

「ん?」


 突然衣里に呼ばれる総司。それでもあまり総司が驚かなかったのは、映画に集中しているからであろう。そのことに対して別に衣里は怒ることもなく続ける。


「こいつ……死ぬよな」

「ああ。死ぬな」


 終わりまで残り約4分の1といったところで、徐々に体調を崩していったヒロイン。すでに何度か入退院を繰り返しており、作中に出てきている医師も助からないだろうと言っている。

 にもかかわらず、助かったなんてなれば逆に気持ち悪く感じる展開。それでもほとんど終わりまで主人公とヒロインの話は進んでいき……


「あ、死んだ」

「ああ」


 ラスト10分ぐらいで死んだ。その後は主人公の様子や、周りの人の様子を流してスタッフロールに入った。2人の間に変な空気が流れる。


「はぁ……やっぱこれ系の映画だったか」

「まあ、友達に勧められただけあって、それなりに良かったと思うぞ……って、蘇摩?」


 テレビを消してディスクを取り出しケースに仕舞った総司が振り返ると、衣里は背中をソファーにつけるようにもたれるだけではなく、頭の後ろもソファーにつけるようにして、天井を見上げて目を閉じていた。


「疲れたのか?」

「いや、映画の内容が……」


 そこまで言って衣里は口を閉ざした。


 映画の内容は、主人公とヒロインが出会って途中からお互いのことが気になり出し、主人公はアプローチを駆けるがヒロインは病気のこともあり最初は戸惑っていた。それでも結ばれた2人だが、結局病気で死ぬ。そんなどこにでもあるような話だった。


「なあ、間宮ってこの映画……感動したか? 良いと思ったか?」

「まあ、それなりに?」

「……そうか」


 映画を色々持っているというだけあり、恋愛映画もある。そこに出てくる男女がドラマを見たり映画を見たりして感想を言いあうシーンがあるが、今の衣里と総司の間にはそのようなシーンと同じような空気は流れていなかった。

 恋人ではないから流れなくて当たり前だが、それ以前の問題。もっと別の問題があるように感じた。


「残す人と残される人。どっちが辛いんだろうな」

「どっちってそんなの……」


 総司はそこまで言ったが、どちらかとは言えなかった。

 小学校へ上がるときぐらいに総司の祖父母が亡くなった。今では亡くなったときの気持ちなど覚えていない。また祖父母がどのような人だったかも覚えていない。


 小さいころに祖父母を亡くした以外に知っている人がなくなったということはなく、残される人の気持ちなど分からない。

 そのため簡単にどちらが辛いかなんて言えなかった。


 途中まで言いかけた総司の言葉に興味がなかったのか、体から力を抜く衣里。そもままソファーの肘掛けを枕にするかのように総司の向こう側へと頭を倒した。

 しばらく無言の時間が過ぎる。総司は考えていたが、結局答えは出なかった。ふと、衣里はどう考えているのか気になる。


「なあ、蘇摩?」

「……」


 どのように考えているのか聞こうと思い総司が衣里を呼ぶが、本人は無反応。


「蘇摩?」

「すぅ……」


 試しに衣里の顔を見ると静かに寝ていた。友達とは言え男がいるところでよく寝れるなと、顔を引きつらせる。さっきまでの空気も聞こうと思ったことも一瞬で頭から吹き飛んだ。


 寝ていることをいいことにイタズラをしようとは思わないが、言葉にできないような気持ちになる。

 そんな総司のことなどお構いなく、寝息を立てながら寝ている衣里。肩を揺するが起きる気配を見せない。都計を見ると時刻は2時半を少し回った所。


「ほんとうに無防備すぎるだろ」


 ため息をつきつつ、寝室のクローゼットからタオルケットを持ってくると衣里にかけた。いくら夏とはいえ冷房をかけているため冷える。


 人の――クラスメイトの男子の部屋のソファーで気持ちよさそうにで寝ている。

 ここ最近、衣里の所為でろくに睡眠が取れていないため気持ちよさそうに寝ている姿を見ていると、総司自身も眠たくなってきた。

 少しだけ。そう思って床に横になると、そのまま寝てしまった。


 結局、総司と衣里は夕方まで熟睡。衣里はというと起きた後もゴロゴロ。その時には映画を見終わった時のような雰囲気はなかった。

 部屋に戻った衣里だったが、自炊が面倒に感じたのか食材を分けるから作ってと総司の部屋に戻ってきて、結局夕飯を食べて帰った。

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