5-1
「いやー。やっぱ冷房効いていると涼しいな」
「ああ。涼しいな。でもな?」
「ん?」
夏休みが始まって、はや2日目。時間は10時を少し回った所。現在、総司と衣里は向かい合うようにして夏休みの課題をしていた。総司の部屋で。その理由は簡単。
「電気の節約のためだからって言って、わざわざ俺の部屋に来なくてもいいと思うぞ?」
学校があるのであれば部屋の電気の使用量はあまり増えないが、休みに入り1日中――それも部屋の温度を下げるためにほぼずっと冷房を付けていると電気代は普段と比べ必ず高くなる。
衣里はそれを防ごうと総司の部屋へやってきていた。これでゲームをやり始めたら少し考えたが、課題をしっかりやっていると言うことで強くは言えない総司。ついでに自身も課題をやっている。
下手な口笛を吹く衣里を見てため息をついた総司。なんとなく夏休み中入り浸りそうだなと思ってしまっていた。
「にしても意外だな」
「何が?」
「いや、蘇摩って夏休み最後の日どころか宿題なんて1つもやらずに2学期向かえそうなイメージなんだが」
そんなことを言われ笑顔になる衣里。笑顔ではあるが目は笑っていない。
「お前はいったいオレを何だと思っている? 場合によっては少し話し合いをする必要があるが?」
「……不良少女?」
「オレがそんなガラじゃないことぐらいお前がわかってるだろ」
「まあな」
総司がそういうと衣里は視線を課題のプリントへと落とした。邪魔をするつもりのない総司も、課題のプリントへと視線を落とした。
しばらくカリカリと字を書く音が静かな部屋に響く。時々車が通る音が外から聞こえてくるが、2人は集中しているためにきがつかない。
「なあ間宮」
「ん?」
衣里が声をかけてくるが、総司は課題に集中しており上の空。それに気が付いているが衣里は続けた。
「総司って玲奈のことどう思っているんだ?」
「……ん?」
衣里の質問の意図が分からず、課題から目を話して衣里の方を見る。衣里の表情はいたって普通。茶化しているようには見えない。
「いや、玲奈のことどんな風に見ているんだ?」
「どんな風って」
「例えばだけど、可愛い! 付き合いたい! って感じ?」
「え? なぜそんなこと聞く?」
「なんとなく……って言っても納得しないよな」
突然すぎて衣里の考えが読めず総司は焦っていた。また聞かれた内容が内容と言うこともあり、衣里の言葉に全神経が集中しているような感覚になる。
対する衣里はシャーペンを手で器用にクルクル回している。ただ顔は少し斜め上を向いているため何か考えているようである。カチカチと時計の針が進む音が部屋に響く。またわずかではあるが遠くでセミが元気よく鳴く声が聞こえてくる。
10秒ほど悩んだ末ようやく訳を話し始めた。
「見ている限り玲奈と間宮って結構仲いいじゃん? それでどうなのかなって思って」
「なるほど」
「で、どうなの?」
身を乗り出して興味津々に聞くというより、今日の夕飯は何なのか聞くかのように軽く尋ねてくる衣里。それでも聞かれている内容が内容と言うことで総司は言いよどむ。
「可愛いと思うよ。普通に」
「それじゃあ付き合いたい! ってのは?」
「付き合いたい……か」
転校してきてからのことが頭の中をよぎった。
昔に見た姿と比べて見目麗しい変貌を遂げており、すぐに玲奈であることに気が付かなかった。それほどまでの成長を遂げた幼馴染に対し、可愛いとは思った総司だが……
「すまん。なんで俺がこんな話しないといけないんだ?」
途中まで考えていたが、ふと感じた疑問。
対する衣里も首を傾げた。
「……なんでだろ?」
「蘇摩が話を振ってきたんだろ」
若干の間が開いたときに一瞬だが衣里の瞼がピクリとしたように見えたが、勘違いだったのだろうと総司は気にしなかった。
ふと衣里が時計を見る。それと同時に何かに気が付いたような表情をする。総司も遅れて視線を向けると、時刻は12時を指していた。
「間宮、なんか食い物ない?」
「お前図々しいな!」
露骨に話題を逸らした感じがしないでもないが、そこに触れない総司。衣里に図々しいといいつつも冷蔵庫の中身を思い出す。
つい先日買い物を下ばかりの総司。そのため
「作ればあるな」
「カップ麺は?」
「あるが、それでいいのか?」
「作れなんていわねぇよ」
作れと言われるかと思っていた総司だが、衣里の返事に少し驚いた。
基本的に総司は自炊をしているが、時々面倒に感じる時もある。そう言う時のために少しではあるがカップ麺を置いている。そのカップ麺を棚から取り出し、お湯をケトルで用意する。
「ご飯はいるか?」
「いや、いい。今から炊いていても時間かかるだろうし、そこまでしてもらうつもりないから」
「そうか」
本人がそういうのであれば総司は無理に押し付けるつもりはない。結局その日の昼食はカップ麺で済ますことになった。衣里はそれで足りたようだが総司は足らなかったためカップ麺を2つ食べる。
その間、テレビ番組を適当に流しておく総司。ちょうど朝放送される美少女アクションものとは違ったものがテレビで流れていた。
「若い者にはまだ負けない! フリブラック」
「年金にこまっている! フリパープル」
「まだまだ若いの! フリイエロー」
「魔法少女コスプレがしたかった! フリブルー」
「可愛い姿になりたかった! フリピンク」
「「「「「5人そろって! テリブル! フリキュア!!」」」」」
ちょうどそれぞれが変身を終えて決めポーズをとった所だった。
最後の名前の通りこの番組は『テリブル! フリキュア』という日曜日の昼に放送さされている人気ドキュメンタリー番組。つい最近15周年を迎えたシリーズものである。またアニメーションで放送されることから現在に至るまで高い人気を誇る番組で、「美少女アクション物」の代表作でもある。
この『フリキュアシリーズ』と呼ばれる番組はフリキュアと呼ばれる女戦士が悪の組織と対峙する様子を1年かけて取り上げるドキュメンタリー番組。他のドキュメンタリー番組との大きな違いは、本編は実写映像を用いず完全アニメーションで放映されているのが特徴である。
ほかにも語るべきことはあるが、この特徴が何よりも他のドキュメンタリー番組にはない特色の1つと、某インターネット百科事典では書かれている。
ただ絵面がいろいろと凄いのが、今期のフリキュア。
若い者にはまだ負けないと言っているフリブラックは100歳の老婆。年金に困り始めフリキュアのバイトを始めたと言っているフリパープルは80歳の老婆。まだ若いのと言っているフリイエローは50代女性。魔法少女コスプレがしたかったフリブルーに至っては30代男性だし、可愛い姿になりたかったフリピンクは男の娘。
そのため変身後の決めポーズをとった瞬間フリブラックが戦線離脱。そこから戦闘が始まって10秒も経たずフリパープルが戦線離脱。年よりの体にはよほどきついようだ。
フリイエローに至っては「悪の組織によるDV反対!」とプラカードを持って悪の組織を非難し、フリブルーは脂肪の付いた体を懸命に動かして悪の組織と戦う。フリピンクは後方からフリブルーを応援するというカオスっぷり。
そんな中でも男の娘のフリピンクは大きなお友達に1番人気。ブツが付いているからお得とのこと。
閑話休題
「なあ間宮。これ見てて楽しいか?」
「逆に聞くが楽しいと思うか?」
「……チャンネル変えていいか?」
なんやかんや言いながらテリブルプリキュアを見つつ昼食を終えた後、適度に休憩を挟みつつ夕方まで学校で出された課題を行った。
まさか初日でここまで課題をすると思っていなかった総司であった。