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君を愛している  作者: シロガネ
EP4 出来ること出来ないこと
40/84

4-9

「おはよう総司」

「おう、浩太。おはよう」


 体調を崩した翌日。昨日のことが嘘のように体調がよくなった総司。いつもの時間に登校してくると総司に少し遅れ浩太が教室に入ってきた。浩太は荷物を置いて総司の席へとやってくる。


「お前、昨日休んでたが、大丈夫だったか?」

「え? あ、ああ。大丈夫だった……ゾ?」

「ホントか? ならいいが」


 浩太に心配をかけまいと嘘をつく総司。ただ脳裏に稚奈の顔がチラリと横切った。そのため少し疑問形になってしまう。だからなのか浩太は一瞬怪訝な表情を見せたが、何も言わずに納得した。


「まあいいや。総司は夏休みの予定とかあるのか? 終業式まであと1週間だぞ?」

「俺は夏休み特にすることないな」

「あ、無いんだ」

「彼女持ちのお前とは違うんだよ!」


 小馬鹿にしたような表情をする浩太の脇腹を握り拳を作った右手で小突く総司。その時総司の視界の端に1人の人影が写った。


「ほら、噂をすれば。何か話があるみたいだぞ」


 教室の入り口に時々見かける浩太の彼女が立って、こちらを伺っていた。総司と浩太が話しているためか、話しかけようか迷っているように見える。

 総司に言われて気が付いた浩太が手を軽く上げると、浩太の彼女の陽菜乃がはにかんだ。


「見せつけはいいから、さっさと行ってやれ」

「悪いな」


 本当に悪いと思っているか定かではないが、苦笑いを浮かべた浩太はそういうと教室の入り口へと近づいて行った。そのまま少し会話を下のち2人でどこかへ消えていった。


「彼女、か……」


 そう呟いてため息をつく総司。

 こっちに転校してくる前にいた学校では、彼女どころか仲のいい女子なんていなかった。別に女子から嫌われていると言うわけではなく、男子とつるんでいる方が多かった。


 また、親の転勤によって再び転校することが脳裏を横切り、彼女が出来たとしても遠距離恋愛になる可能性を考えてしまった。別に遠距離恋愛が嫌と言うわけではないが、やはり彼女とはいつでも会いたい。


 そういうこともあってか、総司は彼女を作ろうと思わなかった。

 ただ今回の転校を期に1人暮らしになったということで、転校の可能性はほぼゼロになった。遠距離恋愛になる可能性をほとんど考える必要もなくなり――


「……欲しいな」


 ついそんな風につぶやいてしまった。




 浩太と陽菜乃はどうやらそんなに長く会話することもなかったようで、すぐに浩太が戻ってくる。その時にはすでにほとんどの生徒が登校してきていた。


「帰ってくるの早いな。もっとイチャイチャしてきてもよかったんだぞ」

「バーカ。イチャイチャは他人がいないところでやってるわ! って痛った! 何すんだ!」

「むかついたから。」


 そんなやり取りをしていると、聞きなれた声のあいさつが教室の入り口からした。見れば玲奈が登校してきたところだった。教室の入り口近くにいたクラスメイトの女子とあいさつを交わしながら自分の机へと向かう玲奈。カバンを置くとそのままやってきた。


「おはようソウ君、八重柱君」

「おはようレーちゃん」

「栗生さんおはよう」


 お互い挨拶を交わす。玲奈との会話が嫌と言うわけではない。それでもいつもならクラスメイトの女子と何気ない会話をしに行くのにと思ってしまった総司。そんな総司の疑問はすぐに解決した。


「ソウ君。昨日風邪引いていたみたいだけど大丈夫?」

「大丈夫。昨日十分に休んだから今日は何ともないよ」

「そう、よかった」


 どうやら総司の体調を気にしたようだ。総司の言葉を聞いてほっとした表情を見せる。ついでになるが朝から少しだけ疑問に思っていたことを口にする。


「それよりも稚奈先輩、風邪ひいていない?」

「おねえちゃん? なんともないよ?」


 一晩経っても何ともないのであればある程度は安心できる。

 それに今日の朝に少しだけ稚奈とやり取りをした総司。風邪をうつしていないか尋ねたが何ともないと言っていた。自分のことは言えないが、嘘をついたのではないかと少しばかり気にしていた。

 だから玲奈の言葉を聞いてようやくホッとした総司。


「まあ確かに先輩も海に落ちたからな。風邪の心配はあるよな」

「それもそうだけど違うよ、八重柱君」

「ん? どういうことだ?」

「ソウ君。昨日休んでたでしょ? それで心配したお姉ちゃんがソウ君の看病に――ってごめん。お姉ちゃんから連絡来たから少し席外すね」


 携帯の着信音に会話を遮られた玲奈は教室の外へと出ていった。ただ聞いていたクラスメイトに衝撃を与える発言を残していったのは確かであり――


「おいちょっと待て間宮! どういうことだ? なぜお前が栗生先輩に看病されてんだよ!」

「そうよ! 確かに稚奈先輩を助けたのはよかったわ! でもお礼が釣り合っていないじゃない!」


 一気に騒がしくなり始める教室。

 話が聞こえていたクラスメイトが男女関係なく総司の元へ詰め寄る。見れば廊下から何事かと教室内を覗いている生徒もいるが、総司はそれどころではなく気が付かなかった。


「え、何? もしかして転校生補正とかそんなのなのか? 俺も転校して来ていれば稚奈先輩に看病してもらえたのか!?」

「ばーか。お前じゃ稚奈先輩を助けるどころか逆に迷惑かけるだけだろ」

「ふっざけんな! 俺だってな! 俺だってな!」


 一部血の涙を流しそうな男子がいるが、ほとんどの生徒はそれを無視して総司に詰め寄っている。

 多くのクラスメイトに囲まれていたために総司は気が付くのが遅れたが、知らぬ間に浩太が近くからいなくなっていた。


 総司の元に詰め寄ったクラスメイトから逃れるため、詰め寄る寸前に総司の席から離れた場所――教室の入口近くへと避難していた。そしてどこか楽しんでいるかのような表情をしながら一連を見ている。


 教室の入り口近くに避難していたことと、廊下から教室の中を見ている野次馬達の様子が変わったことにより、この場にいるはずがない人の訪問に真っ先に気が付いた。


「ごめんなさい。間宮くんはいるかしら?」


 叫んだわけではないにもかかわらず、クラスメイト達が口々に文句を言っている教室内につい最近までよく聞いていた声がよく響く。その声を聞いた瞬間教室内が一瞬で静まり返り、ついでモーゼの海割りのように、教室の入り口から総司の席までクラスメイトが左右に分かれた。

 そこを稚奈が真っ直ぐ歩いてきた。見れば先ほどまで経っていた稚奈の近くには玲奈が立っている。


「ごめんなさい。通るわね。おはよう間宮くん。昨日にはよくなったみたいだけど、今日は大丈夫かしら?」

「稚奈先輩! おかげさまで完全に回復しました」

「そう。よかったわ」


 総司の言葉を聞いて稚奈が安心したのか微笑む。全員ではなかったが、稚奈の表情が見える位置に立っていたクラスメイトからはため息が漏れる。

 また、男女問わず数人が「稚奈先輩に心配されるなんて羨ましい!」と呟いていたが総司と稚奈は会話を続けた。


「でもなぜ尋ねに来たのですか?」

「玲奈に連絡を入れて間宮くんが登校して来ているって聞いたの。玲奈は間宮くんは大丈夫そうって言っていたけれど、昨日の間宮くんを知っているとどうしても心配で」

「なんかすいません」

「気にしないでいいのよ。でも元気そうな表情を見れてよかったわ」


 そういった稚奈が再び微笑む。どうやらお互い嘘をついていたのではないかと考えていたらしい。ただこうして顔を見せ、何ともないことを確認したからか総司も稚奈も安心した表情をした。


 そんな時、朝のホームルームを告げるチャイムが鳴った。それとほとんど同時に担任の先生がやってきた。


「みんな席に座って――って、栗生さん? どうしたの?」

「本堂先生。昨日、間宮くんが熱を出して休んでいたのですが、今日登校してきたって聞いて見に来ただけです」

「なるほど。ならいいんだけど。でももうチャイムなったし早く教室に戻ってね」


 その言葉だけでいろいろと納得したらしい先生だが、チャイムが鳴っていると言うことで稚奈に教室へ戻るよう促す。少しだけの会話とは言え、総司が無理して学校へとやってきたわけではないことが分かったようでその言葉に従う。


「わかりました。それじゃあ、間宮くん。くれぐれも無理はしちゃだめよ?」

「はい。ありがとうございます」


 総司がそういうと稚奈が微笑んだ。そのまま振り返ると――


「皆も体調には気を付けてね」

「「「はーい!」」」


 最後にクラス全員へ、にっこりと全校生徒が憧れるお日様のような笑顔を残して稚奈は教室を後にした。


 少しざわついていた教室だがホームルームが始まると言うことでクラスメイト達が席についていく。さすがに前に座っている人は後ろを振り返ったりしないが、斜め前にいる生徒が時々振り返ると言うことがあった。

 休み時間には総司の机の周りに人が集まり、根掘り葉掘り聞かれるのだった。

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