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君を愛している  作者: シロガネ
EP1 出会いは突然に
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1-4

 入り口の上にある札が生徒会室となっている部屋。その部屋の床には近くの棚から落ちたであろう本や紙が散乱していた。そしてそこには生徒会にかかわりのある人であろう女子生徒が1人いた。


 つい先ほど音がしたため本は落ちたばかりだろう。音から想像していたが、案外落ちている。


「凄い音がしましたが、大丈夫ですか?」

「ああぁ……タイミングが悪いわねぇ……」


 両手の指を自分の頬に手を添え、恥ずかしさのあまり今にも泣いてしまうのではないかと思ってしまいそうな女子生徒。

 見た限り大きな怪我はない。ただ床は散乱した本で悲惨なことになっている。すぐ近くに何も並んでいない棚があるためそこから落ちたと思われる。


「……片付け、もしよければ手伝いましょうか?」

「え? でも部活が……」

「俺今日転校してきたばかりで、部活に入っていないので気にしないで下さい」


 もちろん多少の下心ゼロで総司は手伝いを申し出たわけではない。

 それでもあまりにも悲惨な子の状況に、少々お人良しすぎる総司に女子生徒はどうしようか迷っている。


「ただ見てはいけない書類があるっているのであれば止めておきますが、重たそうな書類もありますし」


 何が書かれているかは分からないが、ちょっとした分厚い辞書ほどの本が何冊かある。女子生徒が持つにしては少し大変そうだ。また量も多く1人でやると時間がかかりそうである。


「それじゃあお願いしようかしら」

「任せてください」


 にっこりと天使のような笑顔を浮かべられたためか、総司のやる気が上がる。単純だと思うが男子はほとんどがそんなものである。


 重たい資料は総司が棚に戻し、散らばった紙の書類は女子生徒が整理する。

 散らかすのはあっという間でもそれを直すとなると1時間ほどかかった。外はすでに赤く染まっている。


「ごめんなさいね。手伝わせてしまって」

「いえ、気にしないでください」


 申し訳なさそうな顔をして謝る女子生徒に笑顔で接する総司。

 整理しているときはそれにかかりっきりだったためか、ここで女子生徒が何かを思い出したようだ。


「そういえば、生徒会に何かごようかしら?」

「……え?」

「あら? 用があったら来たのではないの?」


 散らかしたところを総司に見られたために少しパニックになっていたのか、しっかり聞いていなかったらしい。


「今日転校してきたと言うことで隣の図書室を見に来たのですが、隣の部屋で大きな物音がしたので尋ねただけです」

「そうだったの。ごめんなさい」

「いえ、気にしないでください。結構楽しかったですし」

「楽しかったのならよかったのだけれど……」


 総司の楽しかったという言葉にちょっと苦笑い気味の女子生徒。まさか片付けを楽しく感じてくれたなんて思わなかったと、女子生徒は心の中で思っているが、総司の言った意味は綺麗な人と一緒に作業が出来たという意味である。


「そういえばまだ名乗っていなかったわね。ようこそ、伎根多摩学園へ。私は生徒会会長の栗生稚奈(くりゅうちな)

「栗生……」

「どうしたの?」

「あ、いえ。俺は間宮総司です。よろしくお願いします」

「そう。よろしくね……って、あ。君が玲奈の言っていた幼馴染君ね」


 まさか自分のことを玲奈から聞いているとは思ってもいなかった総司は少し驚いてしまった。

 総司が内心驚いているなんて知らず、柔らかい笑顔を見せる稚奈。そんな稚奈に総司は尋ねる。


「俺のこと聞いていたんですか?」

「聞いたというより成り行きで玲奈が話してくれたの。土曜日に玲奈と会ったでしょ? 玲奈ったら帰ってきたときに嬉しそうな表情をしていたから聞いちゃって」


 そういうと稚奈は窓際に近づいていく。そのまま窓に手をかけると空気を入れ替えるためか窓を開けた。外の空気が室内に入ってくる。その時、僅かにだがふんわりとだが甘い良い匂いが風に乗って漂ってきた。

 少しだけ風に当たった稚奈は再び総司の方に振り返る。振り向いた動作に合わせて、ふわふわの髪の毛とスカートが優雅に舞い上がった。


「玲奈の幼馴染だし、せっかくだから玲奈の昔のことを聞きたいのだけれど、時間はあるかしら? もしかしてまだ荷物整理できていないのなら無理には止めないけれど」

「いえ気にしないでください。俺も栗生さんのことを聞きたいですし」

「栗生さんって……どっちのことかしら?」

「あっ……えっと……」


 ちょっと困った顔をする稚奈に遅れて気が付く総司。

 今この場には稚奈しかいないが、話には玲奈のことも上がっている。二人共同じ苗字のためわからない。


 一瞬、稚奈の名前を言おうとする総司。

 だが()()付けだったとしても下の名前を呼ぶことがなんだか恥ずかしく感じてしまう。そのため――


「お、お2人ともです」

「そう。それじゃあお話ししましょうか。紅茶いれるからちょっと待って頂戴ね?」




 稚奈が紅茶を入れ終えると向かい合うようにして座った2人は紅茶を飲みながら玲奈のことについて話し始めた。総司からは昔の玲奈について。稚奈からは玲奈と会ったときからについて。玲奈と言う共通の知っている人がいるからなのか、初対面で話しているにも関わらず話題は尽きなかった。

 そうしているあいだに日は徐々に暗くなっていく。まだ貼ると言うことで夜が近づくのは早い。


 暗くなり始めていると言うことで、稚奈を心配した総司だが、親が近くまで車で迎えに来ているということで学校で別れた。初対面ということで総司は踏み込んでいくつもりはなかった。


 2人とも自分の知らない間の玲奈を知ることが出来て満足はしていた。特に稚奈に関しては、どうやら聞けていなかったこともあったようで、総司が話す内容によっては驚いていた。


 自宅に帰った玲奈が稚奈にからかわれるということがあったが、総司は知る由もなかった。




 すでに辺りは暗くなっているが休日は荷物整理で潰れ、買い出しになんて行っていなかった。そのため家に食材がなく総司は近くのスーパーに向かう。


 総司は自炊ができる男。

 オリーブオイルのオリーブオイル煮込みを作るなんてことはない。また白米に白米の味噌汁、白米の漬物に白米の炒め物というネタ料理ではなく、しっかりとした料理が作れる。

 野菜や魚、肉を始め調味料も見て回る総司。


「おっ! たまごが結構安いな。野菜はさすがにうちの地元の方が安いか」


 総司がいまいる町も東京と比べると田舎だが、それでも本当の田舎と比べるとまだ都会である。そのためか一般的な食材以外にも、見たことがない珍しいものもそれなりに扱っている。さすがに使う予定はないため買いはしない。

 いろいろ見て回るうちに必要だと思う食材がそろってきたため会計を終え、総司は帰宅した。


 食材を冷蔵庫に入れ、作る。そのままお皿に盛りつけると、食べ、そして食器をすべて洗い終わった総司は復習を始めた。

 成績はある程度ないと1人暮らしをやめ、叔父と暮らさなければならない。

 そのため今まで以上に予習復習をするのであった。

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