4-8-AnotherView
本日2/2話目となります。
「ただいまお姉ちゃん」
「おかえりなさい」
玄関から玲奈の声が聞こえたので返す。稚奈が帰宅してからしばらくしたタイミングで玲奈が帰ってきた。稚奈がちょうどリビングから自室へ戻ろうとしたタイミング。
一度部屋に行くと思っていたが、そのままリビングへと来たようでカバンを持ったまま。
「ソウ君どうだった?」
「間宮君? 朝は辛そうだったけれど、帰ってくるときにはかなり元気になっていたわよ。明日には登校してくるのじゃないかしら?」
「よかった」
担任の先生から聞いたようで、総司が風邪を引いているのはもちろん知っていた。だがいくらなんでも学園を休んでまで行けない。そのため悶々とした気持ちで授業を受けていた玲奈。
それは稚奈もある程度わかっており、昼休みのタイミングで一度連絡を入れたが、どうやらあまり意味をなさなかったようで髪型が少し崩れている。どうやら走って帰って来たようだ。
そんな玲奈を微笑ましく思いつつ、しっかり言っておく。
「もし間宮君の看病に行くのなら、連絡ぐらい入れるのよ」
「え?」
「寝ていたらどうするの?」
「あ、そっか。ありがとうお姉ちゃん」
そういうと自室がある2階へとバタバタと登っていく玲奈。そんな姿を見て子供を見守るような微笑みを浮かべつつ、稚奈も自室へと入った。
総司の看病をするために学校を早退したときからスマホは触っていない。ちなみにだが早退出来たのは保健室の先生に訳を説明し、かなりの無理を言って体調不良を偽ったから。これも稚奈の元生徒会長としてのものだろう。
もちろん保健室の先生にはあまりいい顔をされなかったが、海岸清掃の時にいた先生の1人。そのため仕方ないなと言った顔をしつつもOKを出してくれらた。
早退したときから触っていなかったスマホは持ち主に必死に通知を知らせるかのようにライトを点滅させていた。稚奈はスマホを手にすると画面をつけてLENEを確認する。
そこには仲のいいクラスメイトを始め普段からよく話す人達や、可愛い後輩が稚奈の体調を気遣う言葉が表示されていた。
申し訳ない気持ちになりつつ、体調は大丈夫であることと明日には学校に行けそうであることを連絡してくれた人達全員に丁寧に返していった。
ちょうど最後の1人に連絡を送った瞬間、玄関の方から「いってきます」という玲奈の声が聞こえてくる。どうやら総司のお見舞いに行ったようだ。
机の上にスマホを置いてふと助けられた時のことを思い出す。
後先考えず飛び込んで助けに来るのではなく、しっかりと浮きとなる物を持って助けに来た姿。安心させようとしたのか、体を大の字にして浮こうとした結果沈みかける姿。安心させようと笑顔で話しかける姿。
そして何より、自分の身を危険にさらしてまで必死に助けに来てくれた姿。
稚奈に対してだけではない。
血を流してでも玲奈を怪我から守る、自分がへんてこりんな子になろうとも衣里をクラスに溶け込めるように頑張る。
衣里のことも玲奈のことも事後報告。実際にその場面を見たことはないが、他の人からの報告や本人からの報告を聞いていると、全部総司が危ない立場に立っている。
にもかかわらず、当の本人は笑って済ませている。風邪に関しては心配をかけないように嘘を付いている。
他人を助けるためにあえて自分が犠牲になろうとしているように見えなくもない。
そんな姿を見て稚奈が抱いた感情は――
「恋愛感情……じゃないわよね」
自分に尋ねるようにというより、言い聞かせるに近い感じでつぶやく。
恋愛感情というより、どちらかというと放って置くことのできない弟を見なければならない。そんな感情。それに――
「姉として玲奈を応援しなくちゃ」
いつの間にか家から離れたところを歩いている玲奈の後姿を見つつ、スマホを握っていた右手に少しだけ力を入れて決意するのだった。