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君を愛している  作者: シロガネ
EP4 出来ること出来ないこと
37/84

4-7

 岸についた瞬間、心配する声や拍手で出迎えられる総司と稚奈。船から降りる際、どこか怪我しているのではないか。総司は少し心配したが稚奈は大丈夫だというと自らの足で歩いた。

 船から降りると同時に、稚奈はすぐに女子たちに囲まれて声を掛けられる。


「栗生先輩、すいません! 私達がもっと気を付けていたら……」

「気にしないで。私は大丈夫だから。心配かけちゃってごめんね」

「本当にすいません……」

「ああ、もう。泣かないの。せっかくの綺麗な顔が台無しよ」

「それよりも稚奈。全身びっしょりだから着替えないと」


 そう言って同じ学年を始め女子達に連れられ、濡れた服を着替えに更衣室へ向かっていく稚奈。

 遠くから聞こえてくる話を聞いている限り、稚奈は念のため病院の方へ足を運ぶ流れになるであろう。


「おまっ!? ボートライセンス持ってたのか!?」

「持ってない。ただ動かせはするぜ!」

「まじかよ無免はダメじゃーん! つーか今度俺も乗せてくれよ!! 沖の方で釣りとかしようぜ!!」


 ジョージの方も同じ学年の男子に囲まれている。外国人だからと言うわけではないが一部の人からは話しかけられていなかったジョージ。だがこの出来事で彼にもさらに友達ができそうだった。そんな様子を見ていた総司の隣に浩太がやってくる。


「ジョージ、あいつ外国人の血を引いているだろ。だからって訳じゃないが、友達少ないんだよ。栗生先輩には悪いが、ああやってみんなに囲まれてるところ見るとよかったと思うよな」


 そう言いながらニカッと笑う浩太。確かに浩太の言っていることはどうかと思うが、確かに少しばかり良かったのではないか。そう思ってしまい総司も笑おうと思ったが――


「お前らちょっと待って! 実際海飛び込んだの俺なんですけど!! もっと俺を褒めろ、讃えろ! 称賛の声を浴びせてくれ!!」

「そういうのってお前、自分から言い出したら全部ぶち壊しだろ」


 雰囲気ぶち壊しの発言に浩太が呆れた表情をする。だが総司の意見に賛同まではいかないが納得するやつは何人かいた。

 同じクラスの男子が総司の行動を分析し、同じクラスの女子は衣里との会話を思い出したのだろう。


「でもお前が何気に1番冷静だったような。ちゃっかり浮き輪まで用意してさ」

「うん、かなり意外だった! クラスでの出来事を見ていると、正直頭かなりいっちゃってる人かと思ってたけど」

「ええ!? ちょ、お前ら! それひどくない!? マジでひどくない!? 同じクラスの人間にそれは!」


 さっきまで半分漂流していた人間なのか疑いそうになるが総司の様子を見て何ともないと思ったのか周りの奴が笑い声をあげる。そこに玲奈の声が聞こえてきた。


「ごめんなさい、通して――ごめん! ソウ君!」


 ギャラリーをかき分けて駆け寄ってきた玲奈に、突然抱き締められる総司。


「え? えぇぇえぇ!?」

「大丈夫だった? どこもいたくない?」

「いや、大丈夫なんだけど」


 目に涙を浮かべている玲奈に、ペタペタと体を何度もさすられる総司。もちろん周りには何人もの人がいる。さすがに恥ずかしくて止めようとする総司だが、にも拘らず玲奈は触り続ける。


「ヒューヒュー! 玲奈ってば大胆! いきなり抱き着くとかやるわねっ!」

「いやー見せつけてくれるわねぇ、お二人さん!」

「俺は全然大丈夫だからレーちゃん、とにかく落ち着いて」

「あ、うんっ。ごめん、私ってば取り乱しちゃって……」


 玲奈が総司から体を離した際、さすっていなかった方の手にハンドタオルが握りしめられていることに気が付く。玲奈も思い出したのかそのタオルを差し出してきた。


「あ、そうだソウ君。濡れた体をこのタオルで拭い」

「お、サンキュー」


 玲奈から受け取ったタオルでごしごしと頭をこする総司。そこへちょうど衣里がやってきた。


「総司、お前大丈夫なのか? 海に飛び込んだって聞いたが」

「ああ、大丈夫だ。衣里もありがとな」

「そうか、よかった。で、玲奈」

「ん?」


 まさか声を掛けられるとは思っていなかった玲奈が少し驚く。そんな姿にため息をついて呆れた顔をする。


「お前……総司に抱き着いて濡れてんじゃねぇか。お前の分のタオルないんだけど……」

「え? ああっ!? そっか、私ってばぬれてるソウ君に抱き着いちゃったから、少し濡れて。ごめんね」

「別に構わないが、レーちゃんどうするんだ?」

「早く戻ってタオルで拭かないと……くしゅん!」


 可愛らしいくしゃみをする玲奈。

 すでに夕方と言ってもいい時間帯で、夏とは言えだんだんと冷え込んでいく。濡れたまま置いておくと風邪を引きそうである。


「俺の使ったやつでわるいけど、これ使えよ」


 そういうと総司は玲奈の頭にタオルをバサッとかけてやる。

 突然かけられたため何をされたのか分からなかったが、一瞬遅れて総司に何をされたのか分かったようだ。どこか恥ずかしそうな表情をする玲奈。


「あ、ありがとう!」


 それを見て外野の女子が騒ぐ。


「きゃーーーっ! あんなことされたら、そりゃ女子としてはたまりませんねぇ」

「そうだねそうだね。帯刀君ってば、いざとなるときは冷静に判断して行動し、助けてくれそうだよね」

「凄いイケメンってわけじゃないけど、全体で見れば上の方にはいってもおかしくないよね?」

「おいおい、なんかいきなりライバル登場臭いんですけどーっ!?」

「へっくしょい!」


 誰かが噂をしているとくしゃみがでる。そんな話はあるがまるでそれを証明するかのように総司がくしゃみをした。それをみて何かに気が付いた玲奈。


「ごめん、私がタオル使っちゃったから。すぐ返すね」

「いいって、俺の方がレーちゃんより丈夫だから」

「あ――うん。ありがと」


 周りで何やら女子が騒がしいけど、そんなことより玲奈だ。総司は自分の方を後にして、濡れてしまった玲奈を優先した。それを見ていた衣里が尋ねてくる。


「それよりも総司。お前怪我とかはないのか? 玲奈の話を聞いたが、準備運動なしで飛び込んでいったみたいだが。筋肉とか痛めてないか?」


 同じことを思ったのか玲奈が総司の方をじっと見る。

 言葉ではなく実際に見せた方が早いだろう。そう思った総司は、無駄に屈伸運動と反復横飛びをその場で披露し、怪我もなく無事健康体やることアピールする。


「見ての通り俺の方は怪我もないし平気だから。心配しなくても大丈夫だ」

「本当か? それならいいのだが」

「うん。よかった」

「二人とも、ありがとうな」



 その後、駆けつけた男性の先生はいたが念のため先生による事情聴取があったり、全員で集めたゴミを回収し、予定より少し遅れて海岸清掃は終了した。

 いくら濡れたところを拭いたからと言って、着替える服はなかったため、帰宅して着替えるまで総司は濡れた服のままであった。

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