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君を愛している  作者: シロガネ
EP4 出来ること出来ないこと
33/84

4-3

 来週の火曜日から期末試験を迎えることとなった最後の金曜日の放課後。試験勉強のため机やロッカーに必要な教科書などを置いて帰らないように注意しつつ、帰り支度をしている総司の所に玲奈がやってきた。


「ねえソウくん。一緒に試験勉強しない? 衣里ちゃんも呼ぶつもりなんだけど」

「俺としては1人でやってて分からないところがあれば聞けるからうれしいが、2人はいいのか?」

「うん! 衣里ちゃんとも少し話したんだけど、是非って」

「それじゃあお願いしようかな」

「分かった。じゃあ時間についてだったり勉強する科目について話しながら帰ろうか」


 玲奈の提案を飲んだ総司は一緒に帰りながら何時からするのか、何を勉強するのかを話しあった。ついでに衣里も一緒に帰る。分かれ道に差し掛かった時に別れの挨拶をするとそれぞれの家に向かって歩いて行った。




 翌日、少しでも勉強する時間を増やしたいとのことで、9時に玲奈の家へ向かった総司と衣里。

 勉強する時間を増やしたいのは良いが、玲奈の両親や稚奈に迷惑が掛からないか心配した総司。だが玲奈の両親が気を利かせてくれたのかすでに出かけていた。また稚奈も特に困っていない様子で総司と衣里を出迎えた。

 ただ困ったのは総司の方。


「それじゃあ私も試験勉強するけれど、分からないことがあれば遠慮なく尋ねてね。多分教えれるから」

「多分じゃなくて絶対教えられるよね。だってお姉ちゃん頭いいんだから」

「もう、買い被りすぎよ。私にだって分からないことあるんだから」

「そういいながら、毎回試験で複数の教科は満点取って帰ってくるんだから」


 そんな姉妹のやり取りを見つつ、今置かれている状況を再確認する総司。リビングには女性3人に男性は総司1人だけ――それも全校生なら誰もが近づきたいと思う稚奈と一緒に勉強するという状態に少し困っていた。

 そんな総司の気持ちに気が付いていない3人はそれぞれ教科書を開き試験勉強を始める。


「玲奈。数学ってどのページからだっけ?」

「宮野先生が黒板に書いていたけど、メモしてないの? あと全教科それぞれの試験範囲を書いているプリントは?」

「メモしていないし、プリントは忘れてきた」

「それじゃあ場所教えるからメモして」


 衣里と玲奈のやり取りを見つつ、いつまでも今の状況に気を取られているとテスト勉強がおろそかになるため、総司は自分の持ってきた教科書とノートへ視線を落とした。


 一度試験勉強を始めると誰も話さない。そのため静かな部屋にはひたすらシャーペンを走らせる音と時間が過ぎていくことを告げる秒針の音だけが部屋に響き、外からは車が通る音が聞こえる。

 それでも集中しているとそのような音に意識が行かないぐらい集中していた。それでも時々分からないところを尋ねたり、各自小休憩を挟みつつ試験勉強をしていく4人。




「勉強中ごめんなさい。お昼になったけれど、休憩挟みましょうか?」


 稚奈の声で顔を上げる総司。時計を見れば12時を少し回った所。玲奈も衣里も稚奈の声で顔を上げていた。このまま稚奈が昼を迎えたことを告げなかったらあと1、2時間は全員集中したままだった。


「俺はきりがいいので休憩します」

「間宮と同じで休憩にしても大丈夫です」


 ちょうどきりが良かったためシャーペンを机の上に置く総司。同じく衣里もシャーペンを机の置いたが、玲奈は再び教科書へと視線を落とした。


「ごめんね。どうしても分からないところがあるからちょっと待って欲しい」

「玲奈、教えるからどこがわからないか教えて?」

「それじゃあ私は昼食の準備するわね」


 そういうと稚奈が席を立ち上がった。稚奈と入れ替わるように、先ほどまで稚奈が座っていた席に座ると玲奈に教え始めた。教えるのは1人でいい。そのため総司手持ち無沙汰になった総司。もちろんただボーっとするつもりはない。勉強場所を借りているため手伝えることは手伝わなければならない。


「手伝いますよ」

「あらそう? ありがとう」


 稚奈が台所へと向かうので掃除も続く。前日に昼食は用意すると言われていたので特に何も持ってきていない。せめてもと言うことで、総司は手伝うことにした。

 すでに作られていたようで、冷蔵庫からサンドイッチを取り出す稚奈。


「すごくおいしそうですね!」

「ソウ君、お姉ちゃんの作るものは全部おいしいよ!」

「もう。そんなこと言う暇あったら早く終わらせなさい」


 どうやら総司の声が聞こえていたらしく玲奈の声が聞こえてきた。姿は見えないためまだ勉強中のようだ。それでも少し恥ずかしかったのか稚奈は照れた表情をする。だがそんなに美味しいのか気になって仕方がない総司。勉強中の玲奈に思わず尋ねてしまった。


「そんなに美味しいの?」

「うん。料理もだけど、お姉ちゃんが作ってくれるお菓子もおいしいんだ。だからいつもついつい食べ過ぎちゃって」

「それじゃあ期待していいんですね!」

「もう間宮くんまで」


 少し困った表情をする稚奈。今はまだだが、あまり言い過ぎると怒られそうなので総司はほどほどにしておくことにした。




 食器を出したりコップを出したり。微力ではあるが稚奈の手伝いをしていると、昼食の用意が出来るころには衣里に教えてもらっていた玲奈が片付けを終えていた。

 さっそく4人はサンドイッチを手に取って食べ始める。ハムと卵のサンドイッチやベーコンとレタスのサンドイッチ。チキン南蛮を挟んだサンドイッチなど種類が多い。


「そういえば総司君と蘇摩さんは海岸清掃に参加するのかしら?」


 ただの卵サンドだと思っていたら焼き加減が良かったのか驚くほどフワフワ。また新鮮なレタスのシャキシャキ感を楽しみつつ舌鼓を打っていると稚奈が話しかけてきた。静かに食べるのもいいが、せっかく集まり、また息抜きを兼ねているのだろう。

 さすがに食事中も試験の話をするのはどうかと思ったのか海岸清掃の話を振ってきた。


「はい。参加します」

「オレは考えてます。一応参加する予定ですが」

「そう」


 総司と衣里がそれぞれ答えると2人の返事を聞くと稚奈が嬉しそうに微笑んだ。玲奈には聞かなかったところを見ると、すでに知っているのか予想が付いているのだろう。

 せっかく話題を出してくれたからということで総司も返す。


「稚奈先輩は新生徒会の補佐で参加するんですよね?」

「ええ。私が生徒会長になった去年も、今は卒業していないけれどその時の先輩方が手伝って下さったの。その先輩方もその前の先輩方に手伝ってもらったみたいだし。毎年恒例ね」


 そういって説明してくれる稚奈。聞いたことがあるなんて無粋なことは言わず、それよりも稚奈先輩との会話を楽しむ総司。


「やっぱりお姉ちゃんがいるから今年も多いのかな?」

「もう玲奈ったら。私が原因みたいに言わないでくれる?」

「だって去年無茶苦茶人が集まったよね? そのせいで逆に割り振りが大変になったって聞いたよ」


やりとりを聞いていると、稚奈と一緒に海岸清掃を狙った男女で溢れかえったのが容易に想像でき、総司は心の中で苦笑いを浮かべたが、それを表情には出さなかった。


 そんな感じで話しながら食べ、食後は紅茶を飲みつつ少し食休みを取る。このままずっと話すのもいいのではないかと心の中で思ってしまった総司だが、玲奈が話のタイミングを見てテスト勉強の最下位を切り出してきたため総司も再度試験勉強を開始する。


 結局日がもう少しで隠れそうになる夕方まで勉強した4人。もちろんずっとテスト勉強をやりっぱなしと言うこともなく、3時ごろに再度大きめの休憩を入れた。またそれ以外でも各自小休憩を取りつつ進んでいった。


 4人がどのくらい試験勉強をするか分からなかったため両親は夕飯を外で食べてくるとのことで帰りは遅いとのこと。そのため稚奈と玲奈は2人を夕飯に誘ったが、総司と衣里は昼食はともかくさすがに夕飯もお世話になるつもりはなかったため辞退して栗生家を後にした。




 住んでいるところが同じ方向というより、隣同士ということで一緒に帰る総司と衣里。夏が近づいて来ていると言うことで半袖でも十分に過ごせる気温。先ほどまで4人が集まっていたということで知らぬ間に部屋の温度は上がっていたようだ。時より肌を撫でるようにして吹く風が心地よい。


 さすがに帰ってからはもういいかなと昼間のテスト勉強を思い出す総司。ただ前回のテストの点を見てやはりもう少しだけやるべきか。そう考えていると前回のテストのことで少し気になることが出た。


「そういえば気になったんだけど。蘇摩、この前の試験点数凄かったな。やっぱり普段から勉強していたのか?」

「いや、病気が原因で入院して――って知ってたっけ」

「稚奈先輩から聞いた」

「そうか。ともかく入院が長くてすることなかったから、勉強してたんだよ。それに留年もしたからある程度は授業ですでにやっている。だから2年の分は全部わかる。さすがに3年の分は分からないがな」


 知っているなら全部言っていいや。そんな感じで衣里が話しているのを総司は感じ取った。言葉で表すには難しい空気が2人を包む。そんな空気を払拭させようと総司が話す。


「あれ? それじゃあ衣里って俺より年上!?」

「お前、留年のこと知ってたよな? 知ってたら年上ってわかるよな?」

「いや、完全に忘れてた。あれ? じゃあ稚奈先輩より年上だよな? じゃあ呼び捨てじゃあ」

「確かにできるのはできるが、学園でやってみろ。また問題起きるぞ。さすがに嫌だろ」


 その言葉を聞いて総司が納得した。稚奈はそのぐらいじゃあ怒らないだろう。学年で考えると稚奈が先輩となるが年齢で言うと衣里の方が年上になる。じゃあ結局どうしたのかと尋ねようとしたら衣里が先に話す。


「で、結局どうしたかって言うと、お互い同い年のようにやり取りしようってことになった。もちろん同い年だとタメ口でもいいんだけど、稚奈さんの性格上タメは難しいしオレはオレで女子の反感買いたくないからお互い『さん付け』になった。お前が稚奈さんに俺のことを報告した後ぐらいにそんな話をしてな」


 そんな話を聞いてなるほどと納得した総司。お互いの年齢と学年を考慮してそうなったのかと納得した。衣里と稚奈が総司の見えるところで話したのは何気に今日が初めて。今日もお互いがさん付けで呼び合っていたが特に違和感はなかったのでいい呼び方なのではないかと思った。

 そこでふと気が付く総司。


「あれ? それじゃあ衣里っておばさんか!」

「ふざけんじゃねぇ! まだ二十歳にもなってないわ!」


 考えなしに口から出てしまった総司の言葉にキレた衣里が声を少し荒げる。それとほぼ同時に、ドスッという鈍い音がわずかに響いた。少し遅れて――


「痛っっっったぁぁぁあ!!!」


 総司の叫び声が夏を迎えようとする夕方の町に響いのだった。

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