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君を愛している  作者: シロガネ
EP4 出来ること出来ないこと
31/84

4-1

「あーダルい」


 学園祭の分の代休が明けた水曜日。登校してきた総司が授業の準備をしていると、浩太がだるそうに頭をかきながら教室に入ってきた。


「昨日は休みだっただろ。それで疲れ取れたんじゃないのか?」

「そうじゃない。そうじゃないんだ。学園祭終わっちまったし、またいつもの授業に逆戻りじゃん。しかも大きな行事なんて、夏休み始まるまでテストのみってだるいじゃん!」

「そういうものか?」


 登校してきたときにはさほど気にしていなかったが、総司が周りを見渡すとすでに登校してきている他の生徒たちも一様にだるそうというか、気が抜けた感じになっている。楽しかった祭りの後的な空気というか燃え尽き症候群というか。そんな感じ。


「フンッ! フンッ! フンッ!」


 まあ現在進行形で自分の座席にてダンベルを持ち上げて筋トレにいそしんでいる清司は例外だろう。

 耳をすませば、浩太の言っていることと似たようなことを少し離れたところでクラスの女子が話しているのが聞こえてきた。そこに玲奈が入り口近くにいたクラスメイトに挨拶しながら、教室に入ってくる。


「皆おはよう」

「おはよう玲奈」

「おはよう。玲奈はいつもと変わらないね」

「そうかな?」


 挨拶を返してきたクラスメイトと軽い会話を返した後、玲奈が自分の席に荷物を置く。軽く準備をすると、先ほど挨拶を交わしたクラスメイトの元に戻っていった。


「みんな元気ないけど、どうしたの?」

「学園祭疲れって言うの? なんだかやる気が出なくってさ……」

「ひょっとして楽しくなかった?」

「逆だよ逆、楽しかったから普段に戻っちゃってちょっと……」

「あぁ、確かに普段の戻るのはなんか寂しいよね」


 いつもなら騒がしいクラスだが、全員どこか疲れているのかいつもより会話が少ない。そのため総司のところまで玲奈たちの会話が聞こえてくる。


「どうしたんだ総司。女子たちの方を見て。それとも栗生さんだけ見ているってところか?」

「いや。レーちゃん元気だなって見てただけだ」

「確かにな」


 ふと教室の前の方にいる女子達の方を見ると、何やら話していた玲奈がこっちをちらちらと覗き見ていることに総司は気が付いた。


「そういえばお前。昨日栗生さんと蘇摩さんの3人で一緒に来ていたよな。しかも3人とも同じ袋下げて。デートか?」


 話を切り替えるように、浩太が尋ねてきた。

 実はこの話、昨日の夕方――学園祭のクラスでの打ち上げで浩太に聞かれた。尋ね方もほとんど変わっておらず総司はため息を吐いた。


「だから、ただ遊びに行っていただけだって」

「いや、それほとんどデートだろ」


 今度は逆に浩太がため息をつく。

 昨日は総司と玲奈、それと衣里が打ち上げの場所に現れるなり色々と察したクラスメイトから質問攻めにあったが今日はその心配はないようだった。

 総司と浩太がそんな話をしていると教室の前の扉が開き、担任の先生が入ってくる。


「おはよう。まさか私のクラスにはいないと思うけれど、学園祭が終わって腑抜けた悪い子はいませんか? さっそくホームルーム始めますよー!」

「うちの先生なんでそんなに元気なんだよ」


 誰なのかは分からないが、どこからか男子生徒のそんなつぶやきが聞こえてきた。そのつぶやきをスルーするかのように先生が教壇に立つ。先生が来ていつもの日常が戻ってきた。


「それじゃあ早速だけど、毎年恒例の海岸清掃ボランティアについて。強制ではないけど参加する人は――」

「すいません。遅くなりました」


 全員が席につきホームルームが始まった瞬間、教室の前の扉が開く。

 一瞬誰かと思ってみて見ると、声の正体は衣里。今までの衣里なら来ない時間帯。

 だからなのだろう。誰なのかは分からないが驚驚いてしまったのか「え?」っという声が聞こえる。


「え? 蘇摩さん? おは……よう?」

「おはようございます」


 先生も驚く中、衣里は挨拶を返すとそのまま自分の席へ――総司の隣の席へと座った。その様子を総司はじっと見ていた。


「おはよう」

「あ、ああ。おはよう」


 総司の視線を感じたのか、衣里が挨拶をする。一瞬遅れて総司は返した。そんなやりとりをクラスメイト達はポカンと見ている。だがこうしている間にも時間は過ぎ去る。


「えっと、それじゃあ続けるね。先ほども言ったけれど――」


 少ない時間を無駄にしないよう、驚いていた担任の先生は何とか気持ちを切り替えるとホームルームを続ける。


 主な内容は毎年行われている海岸清掃ボランティアについて。衣里も総司も初めてということもあって担任の先生が復習がてら説明を行う。


 期末試験終了後から数日間、短縮授業がある。その期間中はほとんどテスト返却のために使われ、空いた時間で大掃除が行われる。

 その大掃除のついで――とは言わないが地域貢献という名目で、近くにある海岸清掃を行うとのこと。夏になるとにぎわうため、夏休み前に掃除を行うのが習わしとなりつつあるとか。


 そんな説明をもう少し詳しく聞き、最後に参加申請はいつまでかを聞いてホームルームは終わった。ホームルームが終わるとすぐさま、衣里の席には数名の女子がやってくる。


「衣里衣里。今日はいつもより早かったけどどういう心境!?」

「そうそう。ホームルームが始まるときに来るとか!」

「ん? なんとなくじゃダメなのか?」

「いや、それでもいいんだけど」


 衣里の回答にどこか腑に落ちないクラスメイト。気になったのか、気が付けばクラスメイト達は全員衣里の方を見ていた。

 何かを考えた衣里が再び口を開く。


「うーん、ようやくクラスに馴染んできたし、学園祭っていう学校行事があったし、これを機に少し自分を見直そうかなって」

「ううっ……。衣里が成長した。これでようやくお嫁に出せるぅ……」

「んな大げさな」

「いやいや。凄い成長だと思うよ。まあ衣里が登校しずらかったのは私達にも原因があるんだけど……」


 そんな会話が隣から聞こえて来る。自分はほとんど関係ないが総司は何となくうれしく感じ、ついニヤつきそうになった。

 そこに次の時間は移動教室のため、必要な教科書やらを持った浩太と清司が近づてくる。


「おい総司、次の時間――って何ニヤついてんだよ。気持ち悪いぞ」

「うっせぇ! 俺は生まれつきこういう表情なんだよ!」

「そうだったのか。なんか……悪かった。まあいい。次、移動教室だからさっさと行くぞ」

「おい」

「頬筋や口角拳筋、口角下制筋が弱っているかもしれない。良いトレーニングを――」

「いややらないからな!?」


 話の途中でやってきた清司にも突っ込みつつ、次の教科の準備をすると総司。荷物をまとめると浩太と清司、2人と共に教室を出てた。


「あ、そうだ総司。今度他のクラスのやつと遊びに行くんだけど、どうだ? 前に遊んだ奴らとまた一緒に遊ぶんだが。もちろんテシも――」


 学園祭は終わり、始まる時のような活気はなくなった。それでもいつも通りの騒がしい雰囲気が学園に戻ってきた。

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