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君を愛している  作者: シロガネ
EP3 気付きと意識
30/84

3-11

 伎根多摩市にある、海辺にあるとあるショッピング・モール。都会と比べると規模は劣るものの、付近の住人にとってはありがたい存在である。

 また近くにある私立伎根多摩学園からあるいて20分ほどの距離にあるモールは、少し学園から遠い位置だが学園終わりの学生が立ち寄るのには便利である。


 本日は月曜日であるが、会話からして学生らしき男女の姿がチラホラ見える。別に学園をサボったと言うわけではない。


 一昨日と昨日は本来なら休日だったが学園祭があった。そのため代休ということで平日である月曜日が休みとなっている。


 何人かの学生らしき人が入っていく入り口の横の壁に1人の男子生徒がもたれていた。近くにある伎根多摩学園へ1か月ほど前に転入してきた、2年の間宮総司である。

 初めてこの町に来たのではなく、数年前にこの町から出ていく形で引っ越したが、再び戻ってきた。そのためなんとなくだがこの辺りの立地は分かっている。


 どこか小奇麗な服装の総司だがすでに生活に必要な物は購入しており、別に必要なものがあってここにいると言うわけではない。


 ショッピング・モールの入り口近くで壁に寄りかかり腕時計をチラチラ確認する。時計の針は9時45分を少し回った所。つい先ほども時間を確認していた総司だが、その時は9時45分ちょうどだった。ほとんど時間を開けずに時計を確認している。


 ショッピング・モールにあるほとんどの店は10時開店。もしどうしても必要なものがあったとしても、もう少し遅くに来ている。

 こんなにも早い時間に、何より購入する物がないにもかかわらず来た理由には訳があった。


「ソウくん!」


 女性の声が聞こえたため総司が顔を上げる。見ると総司の愛称を呼んだ1人の女性が総司のもとへ近づいてきた。


「おはようソウくん。もしかして待たせちゃった?」

「おはようレーちゃん。いや、俺も今来たとこだ」


 総司がレーちゃんと呼んだ少女は栗生玲奈。数年前に引っ越しをしたために音信不通に近かったが、それまでは言わば総司の幼馴染である。

 同じ学園に通うこととなり、再び昔の呼び方に戻った。


 お互い挨拶する2人。

 玲奈はワンピースにカーディガンを羽織っており、総司と同じくどこか小奇麗な服装。


 デートの定番である会話をする総司と玲奈。2人は友達同士という感覚で話しているが、やりとりを見ている人からすればカップルの会話に見える。


「ママ。あの人達、かっぷるなのかな?」

「そうかもね。若いって良いわね。ママも昔ああしてパパとデートの待ち合わせしていたのだけれど、良くナンパされていたのよ」


 ふと母娘の会話が総司と玲奈の耳に聞こえてくる。娘にする会話としてどうかと思う総司と玲奈。


「ママも? それじゃあパパと一緒だね。パパも昔よく海でなんぱしていたって言っていたもの」

「そうなの? パパ漁師だから昔から体引き締まっていたのよね。だからしていたのかしら?」

「パパが言うには、海の上で船が動かなくなったって」

「あの人、本当に難破していたのね……」


 なかなかに凄い会話が聞こえてきた。

 2人の間に何とも言えない空気が出来たが、総司がなんとか持ち直そうと口を開く。


「レーちゃんその服装、似合っているよ」

「ありがとう。そういうソウくんも似合っていてカッコいいよ」

「本当?」

「本当だよ」


 なんとか空気を戻すことが出来た総司。

 さて、2人がなぜショピング・モールに来たかと言うと、話は前日に遡る。






 学園祭が終わったのは午後4時。そこから2時間かけて片付けが始まった。完全とはいかないが、ほとんど元通りに。

 そして片付けが終わった午後6時から約1時間半、午後7時半まで生徒会主催の後夜祭があり解散となった。


 後夜祭は運動場の真ん中でキャンプファイヤーをして周りでフォークダンスを踊るという物だった。恋人と踊ったり、好きな人を誘って踊ったり。実に青春といっていい光景。


 そんな中、総司は遠くから眺めているだけだった。

 玲奈を誘おうと生徒の間を移動したが玲奈の姿は見当たらなかった。結果として楽しそうに踊る生徒を遠くから見ているだけに終わった。


 帰宅後、玲奈に出掛けないかと連絡した。なんとなく一緒に出掛けたい気分だったたため。簡単に言えば打ち上げ。


 既読がついてしばらくしたら玲奈から直接電話がかかってきた。これはアプリについている機能で、無料電話でできるという物。

 実際に話し合いながら詳細を詰めていった。


 途中、衣里も誘おうか聞いたところ、玲奈のテンションがなぜか下がったが『誘ってもいいよ』と玲奈から返事があった。

 そのため総司は通話を切ったのちに衣里に聞いたところ『無理』と来た。


 そのため代休である本日は2人で遊びに来ている。尚、玲奈の義理の姉で生徒会長をしている稚奈は後夜祭の後片付けのため登校しているとのこと。





 あまり長い間立ち話すると時間が少しずつ減るため、2人はショピング・モールへと入っていった。ウインドウショッピングがてら、まずはショッピングモールをしばらくそぞろ歩く。


「どこから見て回る? 見て回りたい場所を考えてきているのなら先にそっちに行くけれど」

「あ、あはは、ソウくんと久しぶりに出かけるのがうれしくて考えていなかった」


 昨日遊びに行こうといった玲奈だが、どこを見て回るか考えていなかったようだ。


 久しぶりに出かけると言っていたが、小さいころに両親に連れられ、玲奈と一緒にここのモールに来たことがある。

 ただ最後に来たのが数年前ということで、モール内の雰囲気とか中にある店などが少し変わっている。そのためモールにある店が分からない。


「それじゃあ……あそこ入ってみたい」


 玲奈は近くにある店を指さした。そこは服売り場。それも女性服売り場であった。




「女性服売り場とか超落ち着かなかった……」

「あはは。でも選ぶの手伝ってくれてありがと」


 服を1着購入し玲奈はご機嫌。本人の言う通り、購入する服を選ぶのは総司も手伝わせて貰えた。

 最初は俺の意見なんてと思っていた総司だが、玲奈が服を試着しては楽しそうに尋ねてくるので、総司もなんだか楽しく感じていた。


「でも本当にその服でよかったのか?」

「え、うん。これでよかったよ。選んでいる段階で私が着たいものを取って、そこからソウくんに選んで貰った感じだから」


 そんなやりとりをしつつ2人で並んで歩く。


「……」


 どこか恥ずかしそうにチラチラと玲奈が総司の方を見ていた。何だろうと思っていた総司だが、依然読んだ雑誌に書いてあったことを思い出し実践する。


「あ。荷物、俺が持つよ」

「あ……ありがとう」


 嬉しそうに、笑顔でお礼をする玲奈。ほんのり顔が赤く染めたまま総司の方を見ていた。


「どうしたの?」

「えっと……会った時もそうだけど、ソウくんはやっぱり昔と違うなって」

「そりゃ――」

「でもやっぱり変わっていないなって思うところもあって」


 微笑みながら総司を見る玲奈。ほんのりと顔を赤く染めていたおとも相まって、総司はドキリとした。だが玲奈はそんな総司に気づいていないようで、話を続ける。


「そんな今のソウ君を見ていると、やっぱりカッ――」


 途中まで言った瞬間、玲奈がハッとした表情をして顔を真っ赤にする。途中まで言いかけた言葉が気になり総司が尋ねる。


「ん? 何て言――」

「なんでもない! 何でもないから!」


 尋ねる総司に玲奈が慌てて答える。

 なんでもないと言われるがそう言われると気になるのが人。でも今の玲奈の状態を見ると、絶対に教えてくれないのはすぐに分かったため、総司は諦めた。


 ただそこからの玲奈の態度が少しぎくしゃくする。総司が会話をしようとして話しかけるたび体をビクッとさせる。

 そんなことをしていると前方に何となく見たことのある背中が見えた。


「あれって……」

「衣里ちゃん……かな?」


 普段は制服と言うことで衣里の私服を見たことのない総司と玲奈だが、後ろ姿がなんとなく衣里に見えた。


「ちょ、ちょっと待っててソウ君」

「え? あ、ちょっ」


 総司が止める間もなく玲奈が駆け足気味に衣里と思わしき人物に近づいて行った。玲奈が声を掛けたのか衣里と思わしき人物――ではなく正真正銘の衣里がふり帰る。

 玲奈にちょっと待っててと言われた総司は、衣里と玲奈が話しているのを遠くから眺める。遠くからの上に周りががやがやしていると言うこともあり、会話の内容はほとんど聞こえない。


「――」

「違う違う! デ――」

「――」


 衣里が何かを言ったらしく、ばっと勢いよく玲奈が総司の方を向いた。その際綺麗な長い髪がふわりと広がる。


 総司が肩の高さぐらいまで手を上げると再び玲奈は衣里と会話を始めた。しばらく見ていた総司だが、玲奈が両手を合わせており何かを必死にお願いしているが分かった。


 そのお願いにあまり乗り気ではないようで面倒くさがるような表情を見せたり、その次の瞬間にはどこか呆れたような表情を見せる衣里。

 ただなぜか玲奈は引かず必死にお願いした結果、衣里が折れるのが見えた。


 確証はなかったが、なんとなくそれで会話が終了したと判断した総司は2人のもとへ近づく。


「なんかお願いしていたみたいだが、話は済んだか?」

「うん。済んだよ。それで……ソウ君」

「どうしたの?」

「衣里ちゃんも一緒でもいいかな?」

「一緒……って言うことは、合流するって言うことか?」

「そうだよ」


 確認を取るための総司の質問に、頷いて答える玲奈。

 総司としては一種の打ち上げで遊びに来ており、打ち上げなら人数は多い方がいいだろうとなんとなく思い了承する。


「でも間宮。お前はそれでいいのか?」

「え?」


 衣里の突然の質問に総司が驚く。


「せっかく2人で来ていたんだろ? 邪魔してよかったのか?」

「え? ああ。別に問題ないぞ。打ち上げみたいなものだし……って、どうした?」

「いや、なんでもない」


 衣里が「こいつまじで言ってるのかよ」と言いたそうな表情をしているが、総司にはその理由が分からなかった。そして衣里に気を取られていたため総司は気が付かなかったが、玲奈はどこか落ち込んでいた。



 玲奈が何とか持ち直した後、3人でどこへ向かうか話し合った。その結果、雑貨売り場へ向かうことに。

 シャーペンや小物入れなど日常的によく見る物から、アロマキャンドルなど言葉だけは聞いたことのある物。使用用途どころか名前すら聞いたことのない物もあり、総司は見ていて案外面白く感じていた。


 衣里と玲奈の方も案外楽しそうに会話をしつつ、商品の棚に飾られている商品を手にとっては見ている。時々笑い声が聞こえてくることから、衣里はイヤイヤ付き合っているわけでないように見え総司は安心した。

 結局半時間ほど雑貨売り場にいた3人だが、3人とも何も買わず雑貨売り場を後にした。




 その後3人は近くの飲食店で昼食をとり、その後もショッピングモール内をいろいろと見て回った。途中、玲奈と衣里は2人お揃いの小物を買っていた。

 玲奈が総司も一緒に買って3人お揃いにしないかと言ってきた。値段はそんなにしないとはいえ、お揃いの小物に少し気恥ずかしさを感じて辞退しようか考えた総司だったが、衣里が玲奈側についたため、購入することになった。


 そんな感じで楽しい時間はあっという間に過ぎ、気が付けば時刻は夕方。いい時間になり始めたので、総司は2人に尋ねた。


「そういれば、2人はそのまま打ち上げに行くのか?」

「私はそのつもりだよ。荷物もそんなに多くないし」

「そのつもりでいるが、間宮もか?」

「ああ」


 この後、場所は少し離れるが浩太が抑えた店で学園祭の打ち上げが行われることになっている。

 開始予定の時間まではまだ少しあるが、少ないとはいえ荷物を少し持っている2人が一度家に帰る可能性を考慮して総司は尋ねた。

 ただその心配はなかったようだ。


「今から行くのは早くないか?」

「確かに早いかもしれないね。もう少し見て回る?」

「そうだな。その方がいいかもしれない」


 2人が一度家に帰ることを考慮して尋ねたということで今から行くとなると少し早い。そのためもう少しだけモール内を見て回ることにした。




 ちなみにだが一緒に行ったからなのか。もしくは少ないとはいえ買い物袋を持ったまま打ち上げに向かったからなのかは分からないが、何かを感じ取ったのだろう。

 総司は男子から、玲奈は衣里と共に女子からいろいろと言われたのはまた別のお話。。

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