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君を愛している  作者: シロガネ
EP3 気付きと意識
29/84

3-10

 ついに学園祭の最終日が始まった。本日も快晴。天気予報では1日中晴れると言っていた。ここまでくれば天気の心配はしなくていい。

 もし雨が降れば最終日とはいえ、少しは人が減ったかもしれないが、晴れということで来校者は多い。少しでも利益を出したいと思っている店にとってはうれしいことのようだが。


「さすが最終日。滅茶苦茶人が多いな」

「うん、大盛況だよ」

「列が出来てるくらいだもんな」


 総司、玲奈、浩太がそれぞれ客を見送ったタイミングが重なったためか少し会話をする。

 現在は人手が足りないぐらい人が集まっているということで、とりあえずいいだろうと判断しチラシ配り班が接客や調理を手伝ってる。

 それでも席にはどうしても限界があり、人はなかなか減らない。


「今日はずっとこんな感じだと思う。あと5分もすれば今休憩入っている人が戻ってくるから、それまで頑張ってくれ」


 教室内を見回していた浩太が近くにあるシフト表を確認する。あまりの人の量に予定より究極大幅なシフト変更を行い、バックヤード裏に張り出している。またクラスのLENEグループにも連絡を入れているがそれでも時々混乱が起きている。そういうもの学園祭としての醍醐味だろう。


 現在は昼を少し回った所だが、このままでは終わるまで休憩なしになってしまう。そう判断した浩太が数人ずつ交代で休憩を入れることにした。


「じゃあソウ君。あと5分頑張ろう」


 玲奈はそう言うと新たに入ってきたお客の所へと向かった。そんな玲奈の後姿を見ていると浩太がニヤニヤしながら近づいてくる。


「幼馴染のメイド服姿に見惚れるのはいいが、お前もあと5分頑張れよ」

「わかってる」


 このあと総司は玲奈と一緒に休憩に入ることになっている。

 交代で休憩を取る順番は話し合う時間がないため浩太が単独で決めた。


 休憩をする人は仲が悪い人同士を避け、出来るだけ普段クラス内でよく話している子同士をくっつけるように決めていた浩太だが、なぜか玲奈と総司をくっつけた。


 浩太に聞いたところ、「安心しろ。親友としての気遣いだ」と言われ、困惑した総司だった。

 ただまあ、昨日の帰り道にて一緒に見て回る約束をしていたためありがたかった総司。


 ただ休憩時間はあまり貰えないため、店で出している焼き菓子をいくつか、玲奈と並んで一緒に食べただけだった。




 結局その日は後はまとまった休みを取ることができず、落ち着いたのは辺りが夕日によって少し赤く染まり始めた時間になってから。

 この時間帯になるとさすがに客足がだいぶ減ってくる。提供物に関しては慌てて追加で材料を購入してきたため特に問題はなかった。


 数組の客が残り、落ち着きが出てきた教室を見つつ小さな声で総司と玲奈がバックヤードにて会話をしていた。


「賑やかなのも楽しかったけれど、こういう落ち着いた雰囲気も好きかも」

「ザ・喫茶店って感じがして?」

「あははっ、そうだね」


 ピークは超えたためすでに接客係は減らしている。残って接客をしているのはすでに見飽きたし暇だからやる。そう言った人達のみ。


 調理班の方はこれ以上作っても余るだろうと言うことで、すでに片付けを始めていると連絡を受けている。新たに作り始めることはしないため、飲食物は残っている物しか出せず、別メニューの物同士組み合わせているといったところ。


「二人共朝からお疲れ様。休憩行って来て来い。そのまま学園祭の終わりまで」

「いいの?」


 2人に近づいてきた浩太の言葉に驚く玲奈。客はここから増えることはないと思うが、もしもと言うことがあるので心配して当然。


「お店も落ち着いて来てるし、何かあったら呼ぶ」

「まあ何かあったとしても、この僕の尺側手根伸筋を使って解決するから安心して見て回ってきたまえ!」


 浩太と、どこの筋肉を言っているか分からない清司の後ろでいつも玲奈とよく話している女子数人がなぜかいい笑顔でサムズアップする。


「分かった。お願いする」

「まかせろ。あと宣伝の必要もないから着替えてもいいが……その姿のまま見て回りたいのなら止めないぞ? まあそっちの方が学園祭らしくていいと思うが」

「ソウ君ちょっと待ってて。着替えてくるね」


 そういうと玲奈は布製の袋を持つと少しでも早く着替えようと急ぐように教室から出ていく。

 そんな玲奈を見送る総司その総司の後姿は物語っていた。


「メイド服姿が見られなくなるのは寂しいな。そう感じた総司である」

「モノローグを付けるな」

「お、合ってた?」


 玲奈のメイド服姿可愛いからそう感じても仕方ないよね。わかるよその気持ち。

 そう言いながら頷くクラスメイトの女子と自身の間に立っている浩太を睨む総司であるだった。




「それじゃあ行こうか」

「ああ」


 教室を後にした玲奈と総司。

 総司も着替えたが、先に着替えに向かった玲奈より先に教室に戻ってきた。遅れて戻ってきた玲奈と共に教室に荷物を置くと教室を後にする。

 教室を出る前に浩太とクラスの女子から「頑張れよ」となぜか言われた総司は困惑していた。


「わたし行きたいところがあるんだけど、いいかな……?」

「もちろんいいよ。レーちゃんが行きたい所ならどこへでも」

「ありがとう。体育館で行われる劇がずっと気になってたんだけど」

「演劇部がやっていたんだっけ」


 学園祭が始まる前に貰ったパンフレットに、さっと目を通した時に書いてあった説明文を思い出す総司。


「うん、友達に聞いのだけど凄いみたいだよ」

「確かもうそろそろ最後の公演が始まるんじゃなかったっけ?」

「始まるまであと5分もないよ。だから――」

「早速行ってみよう」


 そういうと総司と玲奈は劇が行われる体育館へと向かった。




「演劇、もうすぐ上映します。これでラストとなります!」


 体育館へと続く渡り廊下は人がおらず、恰好が貴族っぽい物ということで劇に出る男子であろう生徒の声が響く。


 一瞬貸し切りに近い状態なのではないかと思ったが、体育館の中から僅かに聞こえてくる声を聴いてそうではないと総司はすぐに分かった。


 総司と玲奈が近づいてくると、3年であろう男子生徒が2人に気が付いた。


「2人入れますか?」

「座席はたくさん用意していますから余裕で。2人で貸切とはいきませんが、お客さんは少ないですよ」

「じゃすぐ入ります」

「上映もすぐ始まりますどうぞ」


 何を勘違いしているのかはわからないが、総司と玲奈をニヤニヤに近い笑顔で案内する男子生徒。

 男子生徒に見られて恥ずかしかったのか、玲奈は俯いて少し顔を赤くしているが、総司は気が付かなかった。




 男子生徒は客は少ないと言っていたが、それでも座席は7割方も埋まっている。

 これで少ないのかと思いながら総司は玲奈と共に、かずすくなくなっている座席へと適当に並んで座る2人。

 しばらくすると体育館の照明がゆっくりと照明が落ち真っ暗になった。


「カーテンしっかりされているんだね」

「暗幕で徹底的に光が入らないようにしているみたいだな。凄いな」


 座った後もどこか恥ずかしそうにしていた玲奈だが、上映が近づいたためか部屋が完全に暗くなった瞬間、小さく驚きの声を上げる。


「ここまでしっかりされていると演劇内容も期待してしまうな」

「大丈夫だよ。友達が言っていたけど、2回は見に来てしまうみたいだよ」


 暗闇に慣れてきた総司の目に、嬉しそうに微笑んでいる玲奈の顔が映った。


「演劇部の劇へようこそ」

「あ、始まったよ、ソウくん」


 映画館でも耳にするような、撮影の禁止や静かにする事等の諸注意が女子生徒の声で流れる。


「それでは演目『ロミオとジュリエット』を始めさせていただきます」


 女子生徒がそう言い終わると舞台の幕が上がる。貴族の部屋を再現しているらしく、それっぽい大道具が置かれている。


 プロの劇団の大道具と比べると学生のものということで出来栄えは若干劣るが、それでもしっかりと作られている。部活動に入っていないと言うことであまり感じることはないが、このような成果物として見せられると、どれほど部活動にも力を入れているか理解させられる。


 私語は禁止と言われていたが、近くには人がいないと言うことで、小さな声で話すぶんには問題ないと思った総司と玲奈は会話をする。


「すごいね」

「本当にすごい。まるでプロの劇を見ているみたい」


 ロミオとジュリエットが初めてであった場面へと移り変わった。総司と玲奈は小さな声で話をする。パンフレットに書いてあったが、毎年全国大会に出るだけはあるものだった。

 そしてついに有名なあのシーンへと入る。



「ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜあなたは、ロミオ様でいらっしゃいますの? お父様と縁を切り、家名をお捨てになって! もしもそれがお嫌なら、せめてわたくしを愛すると、お誓いになって下さいまし。そうすれば、わたくしもこの場限りでキャピュレットの名を捨ててみせますわ」

「 黙って、もっと聞いていようか、それとも声を掛けたものか?」

「わたくしにとって敵なのは、あなたの名前だけ。たとえモンタギュー家の人でいらっしゃらなくても――」


 そんな時、総司が自分の手に変化が起きたことを感じ取った。

 ん? 手に温かくて柔らかい感触がしたような。そう思って総司は薄暗い中しっかり見ると玲奈が手に自分の手を重ねていた。


「――今日からはもう、ロミオではなくなります」


 ロミオ役の男子生徒がそういいうが、総司はすっかり舞い上がっていて劇中のセリフは耳に入らない。気が付けば劇も終盤。ロミオとジュリエットは重なるように息を引き取り、そのまま静かに上映を終えた。




「ありがとうございました」

「とても感動しました。こちらこそありがとうございました」

「……」


 ロミオ役の男子生徒と玲奈がそんな会話をしていたが、総司は玲奈が触れていた自分の手をじっと見ていた。


「ソウくん、どうしたの?」

「いや、何でもない」


 玲奈が首を傾げながら尋ねる。その様子から気付いていないのかと判断した総司。


「時間も少なくなってきたし出来るだけいろいろ見て回ろう」

「うん」


 玲奈が頷いたのを確認した総司は歩き始め、横に付き添うように玲奈も歩き始めた。


「でも驚いたね。まさか本当にキスするなんて」

「え? あ、ああ。確かに驚いた」


 劇中に何度かロミオ役の男子生徒とジュリエット役の女子生徒がキスをするシーンがあった。玲奈はそれのことを言っているが、集中で来ていなかった総司はほとんど覚えていない。


「友達にロミオ役の男子生徒とジュリエット役の女子生徒は付き合っているって聞いていたけれど、劇とはいえまさかみんなの前でキスするなんてね」

「劇とはいえ2人とも凄いよな」

「じゃあ、さ。もしソウくんがロミオ役で」


 総司よりもいくらか背が低い玲奈が見上げる。


「みんなの前で私に……ご、ごめん! なんでもない!」


 途中まで言いかけた玲奈がリンゴのように……リンゴより真っ赤名のではないかと思うような顔をして俯く玲奈。尋ね返そうとした総司だが、玲奈が先に行ってしまうので聞き返せなかった。




 その後、いろいろ見て回った総司と玲奈だが、玲奈がどこかぎくしゃくしたままだったため、会話がほとんどなく見て回ることとなった。


 そのまま学園祭は終わり片付けのため教室に戻った2人。クラスメイトの視線を集めることとなったが、気を使ったのか使っていないのか。誰も何も尋ねることはなかった。

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