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君を愛している  作者: シロガネ
EP3 気付きと意識
28/84

3-9

 実質本番と言える学園祭2日目。本日も前日と同様に晴天。

 違うのは実際に一般客も来るということ。そしてすでに開会式は終わっており、すでに一般客が校内に入ってきている。

 今日も総司は朝1番のシフトに自分を入れていた。嫌なことは早めに終わらせたかったから。


「……嫌なことってのはちょっと違うか」


 2日目の準備も順調に進む様子を見ながら総司はつぶやいた。


 恥ずかしいだけで接客は楽しく感じていた。恥ずかしいと言っても、上級生から下級生まで年齢を問わず、男子生徒には旦那様と言い女子生徒にはお嬢様と言うのが恥ずかしいだけである。

 実際恥ずかしく思うのは言われる側の相手も同じらしく、視線を逸らされたりなどした。

 そんな姿を見つつ接客をやっていると、だんだんと楽しく感じるようにはなった。


 それに片手で足りるほどの人数だけではあったが、名前は知らないとはいえ、同級生であろう男子生徒や上級生の男子生徒が「似合っているぞ」と言ってくれることに恥ずかしい気持ちはあったが、それと同じぐらい嬉しく感じていた。だからなのだろうか。


 昨日みたいにトラブルがあったら、休憩中でも手伝うか。総司はそう思いつつ、最終確認をして行くクラスメイト達を眺める。


 学園祭が始まってすでに1時間近くが立っている。戻ってきた男子生徒と交代するかのように、総司はこれから自由時間。

 さすがに執事服で見て回るのは恥ずかしく感じていたが、『宣伝のため総司は着て周ることな!』と浩太に言われた。


 売り言葉に買い言葉。総司が着て周る条件に、浩太も着て周るよう言ったところあっさり承諾した。

 のちに聞いた話だが、浩太の彼女である陽菜希のためと発覚。総司含め、一部のクラス男子から恨みの視線を向けられた浩太であった。


 閑話休題。



 1人で周ることも考えた総司だが、執事服なんて着ていたら視線が絶対、1人で周っている俺に集まる。そう考えた総司は、視線をあまり受けないように分散させようと考えていた。

 それに――


「1人で見て回るのはさみしいな。誰か誘ってみるか……」


 数日前にシフト表がLENEにあるクラスのグループで回ってきた。それに書かれていたシフトを思い出しながら、総司は教室内を見渡す。

 すると……


「蘇摩さん」

「なんだ?」


 ちょうど客を送り出しバックヤードに戻ってきた衣里に総司が声を掛けた。どこか楽しそうにしていた衣里だが、総司が声を掛けた瞬間露骨に嫌そうな顔をする。


「おい、そんな嫌そうな顔をするな」

「お前が話しかけてきた時ってろくなことがないだろ」

「そんなことは……。いやそれはそうと、そろそろ休憩だろ。よかったら一緒に回らないか?」


 総司が誘ったのが意外だったのか、驚いた表情をする衣里。


「なんでオレなんだよ。オレより玲奈を誘えよ。玲奈もお前と同じシフトで、休憩のはずだぞ」

「玲奈は友達と回るだろ。お前は一緒に見て回る友達とかいるのか?」

「んな……」


 こいつまじでいっているのか。内心そんなことを思っていたが、口にはしなかった衣里。実際は総司のいう通りだが、衣里は別のことを気にしていた。


「お前まさか玲奈の気持ち……いやなんでもない。わかった。一緒に見て回ってやる」


 どこか諦めた表情をする衣里に総司は困惑していたが、衣里の言葉を聞いてほっとする。


「じゃあ着替えてくるから待ってろ」

「あ、着替えなくていいぞ」

「は?」


 衣里は着替えに行こうとしたが止めてきた総司に驚いた表情をして振り向いた。


「俺この服のまま見て回らないと行けなくて」

「……あぁ」


 それだけですべてを察した衣里は優秀と言っていいのだろうか。

 総司と浩太のやり取りはクラスの人の大半が見ていた。その人の中にはもちろん衣里も入っている。そして総司1人で見て回るとなると視線を集める。じゃあその視線を分散させようとするともう1人生贄が必要で……


「……私、着替えてくる」

「待て待て待て!」

「ふざけるな! オレは着替えてくる! 教室内ならいいが、こんな姿で外に出歩けるか! 恥ずかしいわ!」

「大丈夫だから。俺もこの服装のままだから」


 それはお前の責任だろと言いながら、総司に捕まれた腕を振り払って着替えに行こうとする衣里と、それを防ごうとする総司。そこに1人の男子生徒が近づいてきた。


「あの、お2人さん? ごめんだけど、ちょっと……というより結構邪魔」


 笑顔だが目が笑っていない。なんならこめかみをヒクヒクと痙攣させている浩太に言われて動きを止めた2人は――


「「すいません」」


 仲良く謝った。


 結局ほとんど放り出されるようにして教室から追い出された総司と衣里の2人。

 休憩と言うことで食べ物が帰るようになんとか財布だけは持ってきたが、見て回る場所の目星を立てていなかったと言うことで行く当てもなくぶらついていた。


 ちなみにだが、ちょうど2人が教室を後にしたタイミングで休憩に入った玲奈。

 残念ながら総司はすでにおらず、仲のいいクラスメイト女子に「どんまい!」となぜか言われつつ、その友達と一緒に回ることになったが、それを総司と衣里は知らない。


 学園祭2日目である今日は一般の人も来ており、教室棟の廊下も野外の模擬店付近も来場者でにぎわっている。周囲を建物に囲まれるように位置する中庭も、休憩するためやイベントを見るための人が数多く座っている。


「どこもいっぱいだな」

「そうだな」


 なんとなくつぶやいた総司の言葉に衣里が頷いた。列の出来ている他のクラスの教室内を見ると、担当に当たっている生徒が忙しそうに動き回っていた。


「やっぱうちのクラスの方が大変そうだな」


 衣里の言う通り、教室内に入り切らなかった来場者が待つため、外で列になっている。だが総司達『メイド・執事喫茶』ほどに人が並んでいるというクラスはなかった。やはり喫茶店は偉大だ。


「それよりも蘇摩さん」

「蘇摩でいいよ」

「蘇摩。せっかくだし、なんか食わないか?」

「おごりか?」

「……おごりだ」


 片方の口元を上に上げ、ニヤッと笑った衣里に、総司は苦笑いを浮かべるのだった。

 アルバイトはしていないが仕送りはしっかりとしてもらっている総司。また普段から浪費が激しいと言うわけではないので、別に学園祭の日に1人分ぐらいおごったとしても痛くはない。


 食べ物屋を探すため2人は場所を移し外に出た。一瞬自分のクラスで食事をしようかと思ったが、メイドがメイドにお嬢様と言ったり、執事が執事にご主人様という絵面になりそうだったためやめておいた。

 またお腹が膨れそうな焼きそばやたこ焼き、焼き鳥など匂いの出る食べ物は基本的に外で焼くことになっている。


 いろいろと購入した2人は中庭で食べることにした。

 案外並んで食べる2人。


「……あ、このたこ焼き美味しい」

「こういうときに食べる屋台の食べ物ってなんでこんなにおいしいんだろう?」

「わかんねぇ。でもまあ、おいしいからいいんじゃね?」


 そういうと再び衣里はパックに入っているたこ焼きを頬張った。

 なんだかんだ云いながら、「借りを作りたくない」と言った衣里の言葉によって、それぞれ自分のお金で買った。


 学生を含めて行きかう人達が総司達を……正しくは衣里を見る。調理班らしき人たちが時々エプロン姿で通り過ぎるがメイド服姿の人はいない。

 そのためこの場での衣里は少し目立っている。


「……」


 衣里は恥ずかしがるような困るような表情をするが、クラスメイトの望みの通りかなりいい宣伝になっているのは間違いない。そして隣で恥ずかしがっている奴がいると人は案外冷静になれるものであった。

 そんなことを総司が考えていると、通り過ぎた人達が「メイド喫茶があるみたいだぞ」なんて会話をしているのが2人に聞こえてきた。耐え切れなかったのか衣里が提案する。


「なあ、移動しないか……?」

「なんで?」

「お前絶対分かっているだろ」


 そう言いながら睨んでくる衣里。

 恥ずかしがっている衣里を見るのが楽しい総司はとぼけるが、なんとなくこれ以上はやめておいた方がいいと直感的に感じたため、諦める。


「じゃあ着替えに戻るか」

「いや、クラスの奴には最近よくしてもらっているし、ここでちょっと恩返ししたい」

「どっちだよ……まあいいや。このまま校内を色々歩いてみるか」

「ああ」


 総司が提案すると衣里が頷いた。衣里のわがままに総司は付き合うことにした。

 そこからさらに焼きそばを食べたり、教室棟にあるとある学年のとあるクラスで行われているバザーを見に行ったり。


 なんとなく面白そうじゃないかと衣里が言ったために、科学部の実験を見に行ったり。


 そんなことをしていると昼過ぎになろうとする。なんやかんや楽しい休憩時間は終わった。ここからの時間帯は忙しくなるためクラスへと戻った。衣里は接客を総司は調理担当のヘルプとしてメイド喫茶を手伝った。




 そして2日目があっという間に終わった。

 片付けや掃除、そして明日の準備を終えると、誘われたため総司は玲奈と2人で下校していた。衣里はクラスの女子と帰るとのこと。


 玲奈と一緒に帰っていた総司だが少し気になることがあった。玲奈が先ほどから何か様子を伺っているように感じていた。ただなぜ様子を伺っているのかが分からない。

 とりあえず適当に話題を振ることにした総司。


「今日も無事に終わってよかったな」

「本当だよ。トラブルとかも特になく、みんなの手際もよかった」

「やっぱり2日目だから慣れたみたい」

「やっぱそうなんだな」


 1日目はかなりの頻度でトラブルが発生したが2日目はトラブルというほどの物がなかった。1日目である程度慣れたと言うことが大きのだろうか。そう感じていたが玲奈と同じで自分の考えが間違っていなかったことを確認する。

 2人とも慣れたと言ったが、慣れないものもあり……


「注目されるのは平気になった?」

「それは恥ずかしいよ」

「でも夢中で働いたら知らない間に忘れちゃうね」


 やはりメイド服姿は恥ずかしいらしい。だが玲奈の言う通り、総司が一度ちらりと働いている玲奈を見た時は、見られているという恥ずかしさを忘れて夢中に楽しそうに接客をしていた。

 かくいう自分も同じなので笑えない。気が付けば会話が続いていた。


「話し少し変わるんだけど、ソウ君」

「何?」

「時間があったら明日一緒に見て回らない?」

「え?」


 突然、玲奈が提案してきて驚く。

 友達と見て回るという予定はなかったため、総司は大丈夫ではあったが、しっかりと大丈夫と言わなかったためか勘違いさせてしまった。


「ダメかな? もしかして誰かと約束していたり――」

「いやない。大丈夫だよ!」


 慌てて大丈夫だと伝えると、よかった。そういって玲奈がほっとした表情をする。

 それと同時に玲奈から出ていた雰囲気がちょっと変わった。先ほどまではどこか緊張しているような雰囲気は無くなっていた。


 その後も少し話す。どうやら明日の学園祭で一緒に見て回っていいかを尋ねることに緊張していたらしく、尋ね終えた後は会話が弾んだ。

 そうこうしている間に分かれ道に差し掛かる。お互い、お疲れ様と言うとそれぞれの帰路に着いた。

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