3-7-AnotherView
本日2/2話目となります。
明日から学園祭。夕飯を食べるときにテレビで流れていた天気予報を見ていたが雨の心配はなく快晴とのこと。気温もほどよく過ごしやすいとのこと。
本来なら明日の客入りはどうかとかどこ見て回るかなど話を仲のいいクラスの女子のグループでLENEをしていただろう。実際去年の文化祭前はそうだったし、体育祭前もそんな話をしていた。
だが今日に限って簡単に「そうだね。私も楽しみ」と返したっきりLENEを見ず、玲奈は自室のベッドに寝転んでいた。
すでに部屋着に着替え、制服はハンガーにかけている。その制服には先ほどまで窓から差し込む夕日の光で赤く染まっていた。だが外はすでに日が落ち、カーテンも閉めてている。
玲奈がベッドに寝転んでいるのは何も体調が悪いと言うことでもなく、怪我をしており安静にしていると言うわけでもない。ただ単に学校であった出来事が脳裏に張り付いて他のことに集中できないだけである。
段ボールが落ちてきた際に、庇われた時に感じた総司の――男の人の感触。
総司の親の関係で同じ中学校に進学することはかなわなかった玲奈。お別れ会に行ったが、すごく悲しかったことを今でも覚えている。
それから数年。どのような運命かは分からないが、再び戻ってきた総司。学園内で出会ったときは驚きとかいろいろあったが、小学校の時のように一緒に学園生活を送れるかも。そんな風に思った。
学園生活を一緒に送ったが、久しぶりに会った総司の雰囲気はほとんど昔のまま。体だけ大きくなった。そのように感じていた。
だからなのだろう。玲奈はもしかしたら昔みたいな関係に戻れるのではないか。中学校では過ごせなかった分を取り戻せるのではないか。そんなことを思っていた。
確かに総司のことを好きだと思っていた玲奈。だがそれは恋愛感情というより友達として好きという気持ちだった。そうだと思っていた。だが――
「やっぱり昔のようには戻れないよね」
この部屋には玲奈以外誰もいない。だから玲奈の問いに答える人など誰もいない。
向かい合って話すことは幾度となくあった。そのたびに感じていた体格の違いや声の違い。そんな男女の違いをなんとなく感じていた。
だが今日、総司に庇われた時にそれをより感じた玲奈。
自分よりも明らかにあちこちが固くて。その上、動いていたからなのか、総司からはなんだかむせそうな匂いがして。そしてなぜかそれを、ほんの少しだけ……好意的に感じてしまった玲奈。
いや、違う、あの時は庇われたから。雰囲気がそうさせた。そんな風に記憶を思い返して整理しようとするが――
「あぁ、もぉぉぉ……」
先ほどから整理しようとすると意識してしまう。そのたびに変な感情に、恥ずかしいとはまた別の言葉にできない変な感情に玲奈は襲われていた。
その感情を抑えようとベッドの上をゴロゴロするが、ついに耐え切れなくなって近くにあったペンギンのぬいぐるみを抱き寄せる。そしてそのままペンギンの後頭部に顔をギュッと押し付けた。
先ほどまで見えていた自室の風景は見えず、視界が真っ暗になる。にもかかわらず脳裏に焼き付いた光景が、総司に庇われていた時の一連の光景が思い浮かぶ。
自分だと絶対にもてないであろう重たそうな段ボールをしっかりと持ち上げる姿。太ももを見て視線を逸らした姿。そして自分のせいで崩れてきた段ボールから怪我をしてまで守ってくれた姿。
自分では気が付いていないが、玲奈は無意識に自分の唇を人差し指でなぞっていた。総司が頭突きしそうになって慌てて首をひねった際に頬を押し付けた場所。総司は気が付いていなかったが、本人の玲奈はしっかりと分かっていた。
「~~~ッ!!」
顔が一気に熱くなったように感じ、ぬいぐるみを顔に押し付けたままゴロゴロとベッドの上を転がる。それでも脳裏からは離れない。
「どうしようぅ……」
そんな玲奈の悩みに答えてくれる人はおらず、部屋には時計の音と、グループで話が盛り上がっているのか連続してLENEへの通知を知らせるスマホの音のみ。
どうやら今夜はあまり眠れそうにない玲奈であった。