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君を愛している  作者: シロガネ
EP3 気付きと意識
24/84

3-6

 明日から始まる学園祭に向け教室内の机を移動してレイアウトを決めたり、飾りつけに必要なものを確認していく総司のクラスメイト達。

 昨日は2限授業があったのち学園祭の準備へと移行した。そして本日は朝のホームルームが終わるとすぐに準備に移った。


 すでにある程度終わってはいるが、まだ必要なものを確認しつつ最終準備を行っていく。特に総司は昨日やり残した作業があったのでそちらを優先して終わらせた。


 クラスメイトもそれぞれ割り振られている仕事をしつつ、手が空いたものは接客の練習をするなどそれぞれが動いていく。そんなことをしているとあっという間に昼休みに。


 教室は作業中のため、昼食は中庭で食べたりと思い思いに過ごしていく。何ら普段と変わらないはずの昼休み。にも拘らず、何もない平日の昼休みとは違った雰囲気の学園。そんな雰囲気を感じつつ時間は過ぎて午後の作業時間へと入っていった。




 午後の準備が始まりどのくらい立っただろうか。教室内を見て分かる通り準備は順調に進んでいっている。明日は教室にいない調理組も今だけは接客組と一緒になって教室で準備を手伝っている。


「あ、ヤバッ!」

「どうした?」


 クラスメイト女子の1人が声を上げ浩太が尋ねた。

 何かまずいことが起きたのだろうかと不安になったクラスメイトが今やっている作業の手を止め、視線を声を上げた女子に集中させる。


「いや、室内に仕切り作って簡易厨房作るって話してたじゃん? その仕切り用でカーテンを用意してなかったなった思って」

「あれ? 俺誰かに頼んでなかったっけ? もしかしてメモだけしてそのままだったか?」


 ここにきて衝撃の事実が発覚。一瞬焦ったような表情をした浩太だったが、頭を切り替えたのかすぐに指示を出す。


「すまん。誰か手が空いている奴いないか?」


 学園祭前日ということでクラスメイトはそれぞれの仕事があって手空きの人はほとんどいなかった。ほとんど、ということでいないわけではなくその手空きの人が――


「ちょうど手開いているし俺探してくる」

「私も手開いているから探してくるよ」

「わりぃ、2人とも。頼む」


 ちょうど総司と玲奈は手が空いていたため、2人で探しに行くことになった。探しに行くと言っても、物置代わりとして使っている空き教室がある。そこから必要なものを持って行っていいと言われており、その教室へと向かうことになった。もちろん申請も必要なのだがそれは――


「あ、オレも手が空いているから、申請の方はオレがやってくる」

「じゃあ蘇摩さんは申請に行ってきてくれ。訳を話せば多分許可は下りるはずだ。本当は俺が行くべきだが、手が離せそうにない」


 ちょうど衣里も手が空いていたようで、申請の方は衣里が行くことになった。申請の方は生徒会が一任されているため直接伝えに行けばいい。学園祭に向けての準備期間と言うことで、総司たちのクラスのように申請はしていなかったが、突如必要になった物を貸し出して欲しいと言われることがある。

 それに備えて随時、生徒会役員が1人は待機しているので問題はないとのこと。




 生徒役員が待機している生徒会室と物置となっている教室は場所が少し離れている。そのため衣里とは途中で別れて物置となっている教室へと向かった総司と玲奈。多分だがすぐに見つかるだろうと安易な予想を立てていたが、すぐに裏切られることとなる。


 他のクラスの人達も探し物をしたからなのか、それとも元からなのか。教室内には高く積み上げられた段ボールの搭がいたるところにあった。それは決して均一ではなくバラバラで、引き抜けば倒れる木のブロックで作られた搭を思わせている。


 上から順に降ろすにしても、前に来た人がそのまま放置して戻ったからなのか、開けた場所がないほどにはあちこちに段ボールが散らかっている。さらにその段ボールは中身を確認するためなのか蓋を開けられたまま。中にはひっくり返されたように段ボールが転がり、中身が散乱している物もある。


 開いている段ボールの中には、適当に詰め込まれた他の行事で使ったりこれからも使うのであろういろいろなものが。また他にもペンキカンなどが詰まって並んでいたりして――。


「これ、積み上がっている段ボールをうかつに触ると大惨事になりそうだよな……?」

「無理に触らない方がいいかもしれないね」


 床にある段ボールの中以外に、積まれている段ボールの中にあるかもしれないペンキをぶちまければ大変なことになるし、そうでなくてもバランスを崩した段ボールそれこそ雪崩が起きてしまうかもしれない。


 そしてほぼすべてと言っていいぐらいに中身の分からない段ボール。中に何が入っているか分からない以上、下手なことはできない。下手をすれば怪我をしかねない。また怪我をしなくても、段ボールの中には壊れ物がある……かもしれない。その『かもしれない』が多いかもしれないため大変困ったものである。かもしれないだらけである。

 そんなことを考えながら総司と玲奈はどうしようか迷っていた。


「どうする?」


 積み上がったままの段ボールを眺めながら玲奈に尋ねる総司。

 正直なところ、散らかった状態で物を探すことを総司は若干苦手としていた。そのため普段から片付けをしっかりする。

 もし散らかっている状態で探し物をするとなれば探し物をしつつ整理を並行して行う。


 けれども、ほぼ部屋いっぱいにある荷物を、正解があるかどうかも分からない整理の仕方をする。それはもはやパズルの領域といっても過言ではない。

 そのうえ必要な物――簡易調理場用の仕切りに使うカーテン――を探すのはもはや地獄である。



 そうやって途方に暮れそうになっていると、玲奈がじっと総司を見ていた。いくら幼馴染と言えど何を言いたいのか総司は全く読み取れない。


「レーちゃん?」

「え? あ、えっと、何?」

「いや、えっと、これからどうしようかなって思って」

「……うーん。とりあえず端から順じゃダメかな?」

「やっぱりそうなるか」


 玲奈の言いたいことがなんとなくわかった総司。玲奈曰く、総当たりしようとのこと。


 同じような段ボールがある場合、側面や上となる面に中に何が入っているか書いているが、ここにある段ボールのほとんどは何も書かれていない。書かれていたとしても『ボール』や『皿』と大雑把に書かれているだけ。


 順に、手に届くところからコツコツと。探し物の基本はやはりそこからか。

 そんな風に思いつつ、動き始める総司。


「さっさとやるか。もし他の奴らが来たら探すの手伝ってもらったらいいし」


 そう言うと何か考える様子の玲奈。まさか自分が面倒くさく思っているのがバレたのかとなぜか焦る総司。そんな必要はないにもかかわらず取り繕ってしまう。


「あ、れーちゃんはあんまり頑張らなくてもいいよ」

「それ、どういう意味?」

「いや、制服汚れるだろ? あとレーちゃんってそんなに力ないと思ったんだけど」


 じっと見てきたため慌てて理由付けをする。先ほどまでいろいろと準備していたため汚れてもいいようにと体操服の総司に対し、買い出しのために制服に着替えていた玲奈。そのため段ボールを動かすときに汚れが制服に付く可能性がある。


「ともかく、俺ここまで散らかっていると途中でどこに荷物を置くべきか分からなくなってくるんだよな。れーちゃんは指示出しをしてくれないか? なんとなくだけどそういうこと考えるの得意そうだし」


 転校してきてから玲奈とそれなりに一緒にいた総司。そのためなんとなくではあるが、玲奈は案外几帳面であると気が付いていた。

 ほとんど考えなしに言ったが、役割分担は悪くないアイデアじゃないかと心の中で自画自賛する。それにどこに何を置いたか分からなくなり、動かした物を再度動かすという手間を省きたかった。


「あと、カーテン探すついでに――」


 今の状態だといつかは崩れそうである。そうなれば他の人が怪我をする可能性があるので、使えそうなカーテンを探すついでに少し整理しようと思っていた。もちろん良さそうなカーテンが見つかった段階で終了するつもりの総司。


「わかった。でもそれならちょっと待って。太めのペンと紙って無い? 中に何が入っているか書いていた方が他の人も分かりやすいと思うし」


 何を考えているか伝えると、玲奈も意見を伝えてきた。

 他の人がこの後この物置に探し物をしに来た際の手間を考えると確かにその方がいいと思った総司はその提案に頷いて賛同する。


 教室を見回す総司と玲奈。残念ながらノートみたいなものはない。

 ふと段ボールと段ボールの隙間から奥の方に長テーブルがあることに気が付く。ペンやノートぐらいならどこかに埋まっていそうではある。


 足元に気を付けつつ近づくと、長テーブルの下にある段ボールにノートとペンがあった。それを手に取って玲奈の元に戻る。


「あとソウ君。あの上のほうの段ボールは多分届かないから、この脚立を使った方がいいかも」


 たまたま近くにあった脚立に手を添えながらそう玲奈は提案した。






 役割分担をしてペンとノート、それに脚立も手に入れたために、いざ捜索を始めてみるとこれがまた――


「……まああってもおかしくはないけれど」


 体育祭用なのであろうダンボールいっぱいの万国旗。いつの物だよと言いたくなるほど古ぼけたクリスマスツリーの飾りだろう色々な装飾品。この辺りはあってしかるべきだと思う。


 けれども、バラバラにされて押し込まれた人体模型と同じ箱に、上下そろった金ぴか衣装。腰を心配したくなるようなヨボヨボジジイが無理してジョジ〇立ちしている小さい人形50体ほど。

 他には食器などの割れ物が詰まった箱があったり、明らかに仮装の衣装があったり。その衣装の種類もジャンルもバラバラだし、明らかに今見つかっても仕方がない物ばかり。コスプレ喫茶ならまだ必要性があったかもしれない。


「う、ぉお!? 重っ! なんでこんなもん上に積んであるんだよ……!?」


 持ち上げてみて、底の抜けそうな重さに動かすことをためらうものまであった。しかもほぼ搭の上の方と言っていいところにあり、まさかそんなところにあるとは思ってもいなかった総司は軽いものを持ち上げるつもりだった。そのため脚立の上で一瞬バランスを崩しそうになる。だがなんとか踏ん張り、体勢を立て直せた。


「えっと、下ろせる?」

「お、下ろす! 下ろすからちょっと離れて!」


 想像以上の重さに内心「ぬおおおおお」と気合を入れつつ、総司は何やらやたらみっちりと詰まった重い箱を抱えて下ろす。


「は、はぁ、ぜぇ、はぁ、これ、なんだ……紙?」

「何かの台本みたいね」


 劇でもやったのか。見ればこの学園の名前と演劇部作と言うことが書かれていた。


 なぜこんなものがと思いつつ、台本をここに置いておくものだろうか。

 総司は疑問に感じていた。こういうのは演劇部の部室にある物のように思える。今もこの学園には演劇部があるが、きっと何かしらの理由があるのだろうと思いつつ、表紙に書かれている劇の題名を見る総司と玲奈。


 表紙には題名であろう『駆除剤ころりん』というよくわからないものが書かれていた。総司と玲奈はカーテンを探す仕事があるので演劇部の台本を段ボールに戻すと作業に戻った。






「これどこに置いておけばいい? 結構重いけど」

「そこの隅、重いから壁に寄せて」

「了解」


 腰に気をつけながら重い箱を持ち直すと教室の隅に置く。

 こんな形で総司が完全に力仕事。玲奈は指示を出しつつ段ボールの中に何が入っているか確認して紙に書いて行く作業をしていた。


 さすがにあっという間に整理が進む……とは言わないものの総司としては荷物の移動に集中できて、ある意味楽な作業ではあった。総司1人じゃ何がどこにあるかとかどうするかとか迷ってしまってこうはいかない。きっとこの物置となっている教室はさらに悲惨な光景になっていただろう。


 カーテンを探すために中身を確認しつつ段ボールを移動させるが未だに見当たらない。一度腰回りを伸ばしたりしながら総司は部屋の中を見回す。さすがに時々休憩しないときつく感じ始めてきた。


 ふと大きなはめ込みガラスの向こうに目をやる。離れているとはいえ、位置的に教室棟と向かい合わせ。遠くのために何をしているかは分からないが、1階から3階まで各階の廊下を生徒がせわしなく動いているのが見える。どのクラスも順調に進んでいそうだ。

 そんなことを思っていると声から声がかかった。


「ソウ君。よさそうなものがあったよ!」


 玲奈の声で振り返ると、そこそこ大きめの布を手にした玲奈が笑顔で立っていた。

 色は濃い紅色。実際に広げてみないことには分からないが、ぱっと見十分そうな長さがある。


 そんな玲奈の向こう側には総司が運んだ段ボールが積まれている。かなり移動させたと思っていたが、パッと見たところ運んだ段ボールはまだ1割にも満たない。

 そしてその段ボールには側面に何が入っているか文字が書かれていた。総司とはまた違った綺麗な文字で。遠くからでもしっかりと分かる大きな字。これならわかりやすい。


 移動済みの段ボールと移動前の段ボールを見比べつつ、これほど早く見つかったのはいいことだろうと思っていると、総司の元に玲奈が近づいてきた。


 玲奈が手にしていたのは綺麗な布だった。カーテンではないが案外しっかりとした布。無地ではあるが、色がきれいなので玲奈の言う通り使えそうである。

 というより、クラスの人達にこれがダメだと言われたくない。


「レーちゃんも来てくれて良かった。俺1人だと大変だったかも」

「ありがと。でも私何もしてないよ?」

「俺は中身確認して紙に書いて貼り付けてとか、段ボールを置く場所を考えたりする方が疲れるよ」


 こういう作業だと頭を使うよりも体を動かしていた方がよっぽど楽だった。

 それに――


「それにさっきも言ったけどレーちゃんに力仕事とかさせるとこっちが不安になる」

「ごめんね非力で」

「いや文句言ったわけじゃないんだけど」

「大丈夫、わかってる」


 総司が謝ると若干睨んでいた表情を和らげて笑う玲奈。本当に分かっているのか心配で、うむ言葉というのは難しいなんて内心思いながら総司は首をひねっていた。そんな総司の内心を知らない玲奈が苦笑い気味に微笑む。


「ソウ君ってなんだかんだ言って自分が損するように動いているよね?」

「かもね。だけど今のところ後悔はないかな」


 昔っから人助けのために動いた結果、なんだかんだで周りから変な目で見られることがある総司。じゃあそんなことやめて他の人に押し付け、自分は周りの人と同じように普通になればいいのではと言われるとそうでもない。


 その場合結局、俺がなんだかんだで片付けられたのならそれでいいのだろう。他の人だと片付かなかったかもしれない。なんて思ってしまっていた。

 また今日の所は別の理由があった。それは――


「それに今日のところはレーちゃんはできないだろ? スカートで脚立に登るわけにもいかないし」

「あ、うん。そうだね」


 反射的に動いたのか意識して動いたのかは分からないが、スカートの端を抑えて総司から一歩離れる玲奈。別にやましい気持ちがあってそう言ったわけではないが、それをされると余計に見えっぱなしの太ももに意識がいってしまうのは仕方ないと思いつつ、なんとか見たいという気持ちを消し去って総司は少し視線を逸らす。

 それに気が付いた玲奈が少し顔を赤らめた。


「そう目をするのは、幼馴染として……どうかと思う」

「今のは気遣いをしたんだけど!?」

「そうだと良いんだけどソウ君、気遣い以外の視線を感じたんだけど、気のせいかな?」


 スカートのすそを抑えるためか少しだけ前かがみになりつつ、戸惑いを見せる玲奈に何も言い返せなかった。なんだかんだ言って今は女の子と、それも可愛い幼馴染の子と2人きりは年頃なら意識してしまうだろ。そんなことを思いつつ、視線を彷徨わせる総司。

 そんな考えが返事をしなくても漏れてしまったのか少し顔を赤らめた玲奈がさらに一歩後ろに下がった。


「あ――」


 気が付いた総司がそんな声を出すと同時に、下がった方向が悪かったのか、とんっと玲奈の体が横に積まれていたダンボールに当たる。それでようやく気が付いた玲奈。


「え?」


 小さな声だったが玲奈が驚く声が確かに総司の耳には聞こえた。玲奈がぶつかった積み上がっている段ボールの搭は、先ほどまで総司が別の場所へと段ボールを移動させていた作業をしていたところ。そのため上の重石が取り除かれ知らぬ間に一部が不安定になっていた。


 もちろん移動させる前の段ボールのためまだ中を確認しておらず、中に何が入っているか分からない。そんなものがぐらりと揺れた。


 玲奈は体のバランスを崩して支えられずにそのまま崩れていくのが見える。そして段ボールの搭も玲奈の方向へと倒れていく。

 玲奈の上に段ボールが崩れる前に、そうだろうなと総司が頭の中でそう思った時には咄嗟にその体に覆いかぶさっていた。

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