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君を愛している  作者: シロガネ
EP3 気付きと意識
21/84

3-3

 文化祭は2年目と言うことで、去年とは違えどある程度慣れたところがある。そんな風に総司は思いつつ自分の与えられた仕事をこなしていく。


 ただ学生の本業は勉強。そのため日々の授業をこなし、提出物もこなしていく。そしてその合間の限られた時間を使って文化祭の準備が進められていった。

 総司もすでにクラスの一員。そのためしっかりと仕事が割り振られている。


 その1つとして学園祭当日に喫茶店へ来店した人に接客を行うこと。

 衣里の友達が衣里にメイド服を着せたいと言い、結果として総司も接客担当になり執事服を着ることになったから当たり前と言えば当たり前だ。


 接客をすると言うことは接客練習が必要となってきた。

 衣装はすでに計測を行って業者に頼んでいたため届いており、現在は実際に衣装を着てみようということで男子は空き教室を使って、女子は教室を使って着替えを行っている。


「浩太、お前チャラいぞ」


 総司の言う通り浩太マンガに出てきそうなチャラい執事に見える。

 男子達が身に付けるものは黒に近い紺のジャケットとスラックス、ダークグレーのウェストコートとシンプル。それに白の手袋をつけるため執事そっくりである。


「浩太。お前チャラいぞ」

「こうか?」

「ポーズ取るなよ。お前無駄にカッコいいから地味にむかつくんだよ」


 前髪を右手でかき揚げてなんかいい顔でポーズをとる浩太に男子生徒が笑いつつ突込みを入れる。男子生徒の言った通り、容姿は整っている浩太。そのため様になっている。


「でもそういう総司は結構……真面目スタイルだな」

「おい。なんで間を開けた」

「いや、正直どう言おうか迷った。見た目は真面目スタイルだが、蘇摩さんとの会話を見ていたら、お前ただのやばい奴だから」

「「「確かに」」」

「うっせぇ!」


 一緒にいるクラスメイトにゲラゲラ笑われてムカついた総司がすぐ近くにいた浩太の背中を叩き、パーンッ! と乾いた音が空き教室に響く。


「それはそうと……テシ。お前何やっているんだ?」


 ゲラゲラ笑っているクラスメイトから少し離れて、窓ガラスに向かって何やらポーズを取っている清司。そんな清司に浩太が尋ねた。


「いや、可動域を調べているだけだ。こんな風にオリバーを決めたりした際にしっかりとポーズをとれるか。特に――」


 そう言いつつポーズをとる清司。そのままポーズを変え、下半身は横に向け、上半身はガラスの方を向くように変更する。


「メニューを聞く際にやるサイドチェストはしっかりやれないとだめだから、なっ!」

「「「いつからボディール喫茶になったんだよ!!」」」


 クラス全員の叫び声が教室内に響き渡る。

 ちょうどタイミングを合わせたかのように閉めている扉の向こうから声がかかった。


「おーい、男子。着替え終わった?」

「女子の方はもう少しで着替え終わるよ!」

「すまん。今行く」


 浩太はそう言うと、教室内にいる男子が全員着替え終わったことを確認して扉を開けた。さすがにすっ裸の奴がいるにもかかわらず扉を開けるようなことをしたくはなかったから。


「お、出てきた出てきた!」

「結構に合っているね!」


 扉を開けた先には数人の女子がおり、出てきた男子たちに感想を言う。着替え中の女子はまだ教室にいるため、この場にいる女子は調理担当のメンバー。つまりメイド服を着ていない。メイド服を拝めるのはもう少し先だ。

 一部のクラスメイト男子は早くクラスに戻りたい気持ちではあるが、そんな気持ちを知らない女子生徒達はのんきに感想を言っている。


「でも八重柱はチャラいね」

「総司にもそれ言われた」

「やっぱり?」


 それを聞いて笑うクラスの女子たち。

 ひとしきり笑った後、「女子たちの方は着替え終わったからさっそく教室で接客の練習をしようか」と言って教室へと移動していく。

 教室の前まできた女子生徒がふと何かに気が付いたようで、一度男子が教室の中が見えないことを確認したのち、教室の扉を開けて中を確認する。どうやら着替え終えたかの確認をまだしていなかったようだ。声からしてどうやら着替え終えたらしく、教室の中から「OK!」という声が聞こえてくる。

 わざわざ一度扉を閉めた女子生徒が楽しそうに笑った。


「接客の前に、我がクラスのメイド達の姿を見てもらわないとね! ということで、どうぞ~!」


 そう言って教室の扉を開ける。その先には2種類のメイド服に身を包むクラスメイトの女子の姿があった。スカートの丈が膝上までのミニスカタイプと、丈がくるぶしほどのクラシカルタイプ。1種類しかない男子とは違って採寸のときに、事前にどちらか選択できるようになっていた。

 男子がメイド服姿に興味があるように、女子は執事服姿に興味があるらしく近づいてくる。

 そのうちの1人の玲奈が総司に近づいてくる。彼女はクラシカルタイプのメイド服を着ていた。


「ソウ君。似合ってるよ!」

「ありがと。れーちゃんも似合っていて可愛いよ」

「かわっ……ありがと。あとで写真撮ろ?」

「こんな姿でよければ」


 顔を赤くした玲奈。恥ずかしかったのか苦笑いの総司を残して少し離れると別の女子生徒の手を引いて連れて戻ってきた。


「私だけじゃなくて、衣里にも感想言ってあげて」


 玲奈が連れてきた衣里に視線を向ける。衣里は玲奈と違ってミニスカタイプを着ていた。清楚な雰囲気のある玲奈とはまた違った衣里にとても似合っている。


「お、結構似合ってるぞ?」

「に、似合ってない! こんなの似合ってない!」

「でしょ? 可愛いでしょ?」

「ほ、ほんと?」


 総司と玲奈の言う通り結構に合ってるが、着ている本人は納得していないらしい。玲奈曰く採寸時にどちらか迷った末、結局ミニスカタイプにした衣里。それからずっと悩みっぱなしだったらしい。


「……あれ? 蘇摩さん、無茶苦茶かわいいんだけど……」

「俺も、もの凄くかわいく見える……」


 だがその悩みもようやく、他の男子の言葉を聞いて解決したように見えた衣里だった。




 ひとしきりワイワイした後、真面目に接客練習へと移る。事前に接客担当のクラスをまとめる女子がマニュアルを作成してきてくれた。一度それを確認したのち、2人1組になって練習し始める。


「いらっしゃいませ。席までご案内いたしますね」


 一定の間隔で教室内に客役の生徒が入ってきては、接客役の生徒が声をかけて席へ案内する。そんな風にして練習を行っていく。数少ない練習時間でどこまでうまくなれるかが勝負だ。


「いらっしゃいませ。席までご案内いたします」

「お願いします」


 人数の関係上、現在総司は玲奈にお客さん役をしてもらって接客練習をしている。

 接客担当のクラスをまとめる女子の家庭は飲食店をしていると言うこともあってかなり本格的。そのため生徒に一度手本を見せてもらってから練習を始めた。接客担当のクラスメイト達。


「それでは、こちらにお掛けになってお待ち下さい」


 教えられたとおりに笑顔で席を引くと、そこに玲奈が席についた。

 席についたのを確認すると、机の上にあるメニューのうちおすすめの物を告げる。玲奈の注文の品をメモすると、室内にカーテンで仕切って隠してある簡易厨房の方に向かった。

 そこで注文の品を受け取ると玲奈の前に並べるなど接客を行い、退店まで見守り、終わった。



「良い感じだったよソウくん」


 一度教室から出た玲奈が戻ってくると総司に感想を言う。あんまり自信のなかった総司だが、鈴奈にそう言って貰え、少しほっとしている。実はこれで3回目。最初の2回はあまりうまくいかなかったため、ようやく安心できる。だがここからどれだけ自然にできるようになるかだ。


「じゃあ次は私の相手をしてもらうね?」

「ああ。それじゃあ一度外に出るな」


 そう言うと一度教室の外に出る総司。一度大きく深呼吸をする。2回玲奈から接客を受けたが、普段の生活だと体験できない幼馴染の姿。その姿に本来緊張するはずの接客練習中の玲奈より総司は緊張して受け答えが上手にできなかった。

 心を落ち着かせると教室に入る。それと同時に近くに玲奈がやってきて笑顔で声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。席までご案内いたします」




「どうだった?」

「凄くよかったよ」

「よかった。練習なのにすごく緊張したよ」


 出迎えから品出し、そして見送りまでひと通りした。玲奈が尋ねてきたので総司は答えると、ほっとした表情を見せる。


「それじゃあもう1回ソウ君が――」

「出来たらみんな一度相手をシャッフルしてね。相手を変えるだけで結構練習になるから」


 玲奈が言いかけたところでまとめ役の女子生徒の声が聞こえた。何度も同じ人とやっていると慣れが来てしまうとのこと。ちょうどきりがいいので相手を交代することにした総司と玲奈。そこに2人の女子生徒がやってきた。1人は立林六華。普段からよく衣里と会話をしている女子生徒だ。


「ねぇねぇ、れいなっち。一緒にやらない?」

「私? うん、いいよ」

「そういうことで、じゃあ間宮くん。衣里ちゃんの相手よろしくね?」

「あ、ああ」


 驚いている総司をよそに、六華が隣に一緒にいた衣里を差し出してきた。衣里の方も少しばかり驚いている。


「んじゃ、さっそく練習しよっか。最初私が接客するよ」

「分かった」


 玲奈は頷くと教室の外へ出ていく。

 その後ろについていこうとしていた六華だが足を止めると総司に近づいてきて小声で話しかけてきた。


「あ、そうそう間宮君。衣里ちゃん接客結構上手いんだよ。だからちょっと困らせてあげて?」

「困らせるってどうやって?」

「それは考えて」


 そんなこと急に言われてもな、と呟いている総司を放置して六華はひらひらと手を振ると玲奈の後を追いかけるようにして離れていった。

 半分強引に衣里を押し付けられた総司。別に嫌ではないのでそのまま衣里と組むことにした。衣里の方も別にいやそうな顔は――少しだけしている。こいつと組むのかよと言ったような表情。昼食の件がきっと影響しているのだろう。


「じゃあやるか。蘇摩さんが接客でいいか?」

「あいつに何言われたか知らんが、それでいい」

「わかった」


 どうやら六華に何か言われているところをしっかり見ていたようだ。少し怪しんでいる衣里だったが、納得したらしく配置につく。総司は先ほどまでと同じように一度教室の外に出た。

 数秒開け、教室に入る。


「いらっしゃいませ」


 普段見せることのない衣里の接客用の笑顔に総司は一瞬だが見惚れて動きを止めてしまった。また総司が悪いとはいえ結構口の悪い衣里だが、接客用の普段より高く一層女性らしい声を出す姿は、普段の衣里からは想像できない。

 気が付けばドキドキしている総司。そんな総司の内心なんて知らない衣里は笑顔のまま尋ねる。


「お客様、どうされましたか?」


 僅かに小首を傾げ不思議そうな表情をする衣里。すぐに接客練習中だと思い出した総司は気持ちを切り替える。それと同時にどうやって困らせようか考えた。


「エ、エガンギィーッ! ブフェッ、ウヴァンゴギァァー!」

「ヒッ!」


 衣里にドキドキして動揺してしまい加減を間違えた総司。ビクッと体を固まらせ顔を引き攣らせた衣里だが、すぐに表情を戻して対応を開始する。


「お、お二人様ですね? 席までご案内いたします」

「キョエ、キョエェェーーッ!」


 とんでもない声が聞こえたと言うことでクラスメイト中の視線が集まる。だが総司も衣里も気が付いていなかった。ただやってしまった以上もうやり切るしかない。1人設定のつもりだったのになぜか2人設定になってしまったため慌てて声を変えつつ、対応する総司。


「え? あれ接客の練習だよね? 一体何が来たの!? しかも何気に1人2役こなしているんだけど!?」

「宇宙人にも愛される店。響き、なんか……いいよな……」


 接客練習をしていたクラスメイトでさえ、手を止めて2人のやり取りに目を奪われていた。対する2人は周りから視線が集まっていることに気が付かないまま接客練習を続ける。もはや人が来たのかどうかさえ怪しいが、最初こそ動揺を見せた衣里だがマニュアル道理に接客をする衣里。そうしている間にも衣里は総司を席に案内し、席を引くと総司が席につく。


「当店がおすすめするメニューはこちらの『焼き菓子と紅茶のセット』になります」

「ゴゥロギィ! モンギャロヴォロヴェー!!」

「『焼き菓子と紅茶のセット』を2つですね。わかりました」

「キキッ、キョキョ、キョエェェェー!!」

「ありがとうございます。それではご用意いたしますので、少しお待ちください」


 そう言って衣里は簡易厨房に戻ろうとして――


「ちょ、ちょっとストップストップ! ソウ君死にそうになってる!」


 タイミングを見計らうかのように玲奈が慌てて止めに入った。玲奈の言う通り喉の酷使によって総司が今にも死にそうになっていた。

 結局途中で止めて教室の隅で水を飲みつつ休むこととなった総司。


 休憩しつつ現在練習をしているクラスメイトを見る。すでに何度かやったためかほとんどの生徒は問題なく出来ている。もちろんほとんどと言うことで全員ではない。やはり慣れないためかなかなかうまく出来ないクラスメイトもいたりする。


「いらっしゃいませぇぇえぇぇ!!」

「だからなんでテシ君はポーズをとるの!?」

「すまない。どうしてもポーズをとりたくなってしまって」

「私言ったよね!? ここはボディビル喫茶じゃないんだって!」


 一部全く別のところに問題がありいろいろと諦めが必要そうな人もいるが、このまま行けば接客組は問題なく学園祭を迎えられそうであった。あとは調理班の出来栄えと飾りつけをどうするかだ。

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