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「そう。やっぱり可愛くなっていたのね?」
「まあ……」
夜、夕飯を食べ終わった時間帯に総司の母親から電話がかかってきた。
高校生にも関わらず、こうして電話をかけてくるあたり、母親にあまり信用されていないのかと思ってしまう総司。ただそうは思うものの、引っ越しが無事に済んだことと転入手続きが滞りなく終わったことを伝えるにはちょうど良かった。
ちなみにだがあの後、驚きの再会を果たした間宮だが、なんやかんやすぐに分かれた。
お互いが分かれて空いた真っ白な時間を埋めるべく話したいのは山々だが、分かる通り現在の総司の制服はこの学校の物ではない。
他校の生徒と一緒に学校の敷地内を歩いている。場合によっては週明けにそんな噂が立つだろう。そうなれば彼女に迷惑が掛かるのではないかと思った総司は提案を断った。
それにちょうど玲奈が自販機に行く途中だったから。
その代わり月曜から登校すると言うことと、もしクラスが一緒になるようならよろしくとだけ伝えたところ、SNSアプリLANEのアドレス交換を行って別れを告げた。
家に戻ると角部屋と言うことで1部屋分だけではあるが、お隣さんに挨拶をしようとしていた。だが残念なことに出かけていたのか隣の部屋は誰もおらず。
結局、届いていた荷物をひと通り所定の位置にセット。そこでいったん荷物整理を終え、コンビニで買った弁当を夕飯として食べ終えた時にこうして電話がかかってきたと言うわけだ。
ちなみにネット回線は契約したが、電話は引いていないので携帯の方への着信である。
「久しぶりの再会にしては、あまり喜んでいないみたいだけれど……」
「う、うれしかったよ! 小学生以来だから!」
総司は嘘は言っていない。ただ……
「もしかして、あんまりにも可愛くなりすぎていて、ドキドキしたのかしら?」
「ッ!?」
「あら? 図星みたいね」
「お、あんまりからかうな!」
母親は子供のことをよくわかっているとよく言われるが、総司の母親も例に漏れないようだ。実際、誰であるか分かった瞬間、昔とは違うその容姿にドキドキしたのは確かである。
「お母さん的にはいいのよ? それに昔、玲奈ちゃんのお母さんと話していたのよ。2人が付き合うといいわねって」
苦笑いしつつ勘弁してくれと思う総司であった。ただ心の隅っこでは、美人になった玲奈と恋人。それもいいかもしれないと少しだけ思った。
そんな総司の気持ちなど知らず総司の母親は話を変えた。
「ところで学校はどうだった?」
「思ったより綺麗だったよ。土足で教室内に入って良いというのは驚いたけれど」
前の学校では上履きに履き替えるということで、土足で教室の中に入っていいのは驚いた。
事前に貰ったパンフレットにそのことは書かれていたが、いざ行ってみるとやはり違う。土足で教室内に入るということで汚いと思っていたが、掃除がきちんと行き届いているため大した汚れではなかった。
「そう。……って、こんな長話している暇なんてなかったわ。ごめんなさい。それじゃあ、電話切るわね」
「ああ。電話ありがとう」
そういって電話を終える総司。
荷物を整理しているときに壁に掛けた時計の針は9時を少し回った時間帯を指していた。
さて何をしようか。
そんなことを考えていると、ふと帰りに寄ったコンビニで朝食を買うのをすっかり忘れていたことに気が付く総司。このままでは明日は朝食抜きとなる。できればそれは避けたかった。
スーパーに行こうか迷ったが、総司が住んでいるアパートの近くにあるスーパーは午後9時で閉まる。他のスーパーに行こうとしたら少し歩かなければならない。
「仕方がない。コンビニで済ますか」
そうつぶやきながら立ち上がると、総司は近くにあるコンビニへ向かった。
コンビニ店内に入ろうとしたガラス越し。向こう側には買い物を終え、店外に出ようとしている人の姿が映ったことに総司が気が付く。
電車と同じで、出る人優先のため自動ドアの前で待機をする。ドアが開いた瞬間、僅かだがふわりと柔らかな女の子の香りが漂った気がした。
女の子? にしては……
総司がそう感じるのも無理はない。店から出てきた女の子は上にパーカーを羽織り、下は季節的には少し早い短パンをはいている。そしてストライプのハイソックスを履いている足は無駄な肉をそぎ落としたかのように細い。
顔は整っているが髪は男子にしては少し長く、女性で言うところのショートヘア。
ただ身長はどう見たって中学生。下手をすれば小学生にもなりうる。
辺りは街灯がほとんどなく、時間も時間なので心配になる。注意をするべきか迷ったが、そんなことを考えている間に少女は暗い夜道に消えていった。
コンビニから帰った後、することがないということで少し早いが風呂に入り、新しく行くことになった学校がどのくらいまで進んでいるかわからなかったということで軽く予習をする総司。
その時にはすでに、頭の中からコンビニの前であ出会った女の子のことなどきえていた。