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君を愛している  作者: シロガネ
EP3 気付きと意識
19/84

3-1

「我がクラスメイト諸君ッ! 今年もついにこの季節がやってきたぁぁああぁぁ!!」

「浩太。普通にやっていいぞー!」

「よーし。それじゃあ、学園祭のクラスの出し物を決めるぞ」

「切り替え早いな、おい!」


 ロングホームルームにて、ノリノリで教壇に立っているのは浩太。

 なぜ立っているかと言うと、テストを終えて次に待ち構えている大きなイベントは、1年に1度の学園祭。そのクラスの出し物を決めるために進行役が必要で、その進行役が浩太だから。


 進行役と言うが実際は実行委員。各クラスから実行委員は2名選出され、その2名がクラスを率いることになっており、その中の仕事としてクラスでの出し物を決める際の進行役も含まれている。


 そんな進行役ではあったがクラスの男子の声で進め方をパッと切り替えた浩太は、クラスの先ほどとは別の男子からのツッコミを無視して進行していく。


「決めるって言っても、その前にとりあえず説明を聞いてくれ。去年も言っていたことだけど、いろいろ制約があるからな」


 総司は最近になってようやく浩太のことを思い出してきたが、昔から浩太はお祭りや体育祭など、楽しいことが好きだった。そのため文化祭委員に立候補した浩太がこうして教壇に立って進行をしているわけである。


 その横に女子生徒が1人立っているが、もちろん同じクラスの女子生徒。クラスからは男女1人ずつが文化祭委員のためこうなっている。

 総司の通っていた前の学校では春に体育祭、秋に文化祭だったため少し違和感を覚える。


 行われる季節以外にも何か違いがあるのではないかと思って浩太に尋ねた総司。転校してきて初めての文化祭ということもあって右も左も分からない。幸いにも前の学校と大して変化がなかったため、対応できないと言うことはなかった。


 ただ総司が現在通う学校は、こういった生徒が一丸となって行うイベントは社会に出た時に役立つという認識で、勉強と同じく大切であるうと考えている。そのためクラスごとの予算も多く、毎年凝った出し物があると浩太やちょうどその場にいたクラスの友達から聞いた。


 もちろんクラスで何をするかはクラス全員で決める。そしてその時間がやって来れば自然と盛り上がるのは当たり前である。


「えっと、文化祭の出し物だが、まず大切なのは学年ごとに飲食店の数は決まっている。去年もそうだったが、大体どのクラスも飲食店は候補に入ってくるから、飲食店の場合は熾烈な争いが予想されるのは覚悟しといてくれ」


 当たり前ではあるが、出店できる飲食店の数は決まっている。やりがいがあって他の店より接客をすることが出来る飲食店は人気があり、下手をすればほとんどのクラスが希望する場合も。何より収益がいい。


 そんなこともあって人気の飲食店の店舗数に制限を設けないと、飲食店ばかりになってしまうことに繋がりかねない。それに加えて調理実習室の空きの関係や衛生指導の関係で全学年全クラスの希望は叶えられない。

 事前に聞いていた内容を思い出しながら前に立つ浩太の話を聞く総司。


「それから、予算やら、毎年使われる物で学校に既にある物の種類は配ったプリントに記載してるからしっかり確認するように。紙に書いてなくても、学校にあるかの確認をしたり持ちより出来そうなものはその都度文化祭委員が確認する。とりあえずは予算内で出来そうなものをいってくれよ」


 そこまで言って真剣な表情を崩し、ニカッと浩太が笑い雰囲気を切り替えた。


「……さてさて、長ったらしい話はこれで終わり。それじゃあやりたい出し物がある人は挙手!」


 急にテンションを上げた浩太に苦笑いを浮かべつつ、我先にと手を挙げるクラスメイト達。みな爛々とした瞳をしているのは、それだけこのイベントが重要なものであるからだろう。学生にとって文化祭というのは一大イベントであり、楽しみにしているものなのだ。

 ただ総司はこの学校では初めてということでとりあえず観察することにした。


「やっぱりここはお化け屋敷を!」

「暗闇を作るから安全面に気を付けないといけないが、それさえクリアすれば通るな」


 男子生徒に賛同する浩太。後ろでは「えっと……お化け屋敷」と呟きながら女子生徒が黒板に『お化け屋敷』と書いていた。


「クレープ屋さんは?」

「予算的に大丈夫だろう」


 それを聞いた女子生徒が黒板に『クレープ屋さん』と書く。

 そのまま順調に『喫茶店』『輪投げ』『射的』『パイ投げ』『雪合戦』と書かれていく。中には『筋肉品評会』があったが、誰の発案かは言わなくてもわかるだろう。

 無茶だとしてもとりあえず書く。そうやって進んでいった。そしてほとんど上がったのではないかと思ったとき、とある男子生徒が手を上げた。


「まだ定番のあれが出ていないじゃないか。ということでメイド喫茶!」


 それを聞いて男子連中のほとんどが、うんうんとうなずいた。提案したかったが、女子の視線が怖く提案できなかったんだなとのんきに考えている総司。

 浩太の後ろではやはり呟きながら女子生徒がメイド喫茶と書いていた。


「メイド服かー。ちょっと恥ずかしいね……」


 1人の女子生徒の呟きに他の女子生徒たち数人が頷く。前の学園の流れだと女子が批判すると思っていた総司だったが、案外受け入れていることに驚いた。そんな総司をよそにいろいろと議論されていく。

 それに、と女子生徒が言い――


「メイド喫茶も普通にやるんじゃ、つまらなくない?」

「メイド喫茶だけでも普通じゃないと思うけど」

「というより女子だけメイド服ってどうなの?」


 女子が次々と意見し始める。ちょっと雲行きが怪しくなってきたな。そう感じる始めた総司。

 浩太としては無理に話を止めるのではなく、ある程度話をさせていい意見を出そうとしているのか黙って様子を見ていた。時々男子も声を出して提案しては、それに女子が他の提案をする。

 そしてついに――


「女子がメイド服着るんだったら、男子は執事っぽい衣装着てみたら?」

「それよりも男子もメイド服着たら?」

「あははははっ! それいいかも! じゃあ女子は男装?」


 そんな声を聞き浩太は後ろにいた女子生徒に頷く。それに頷き返した女子生徒は黒板に『メイド喫茶(男子はメイドもしくは執事。女子は男装かも)』と書いた。もちろん喜んで女装する奴なんているわけもなく……


「「「女装とか勘弁してくれ!!」」」


 クラスの大半の男子が黒板に書かれた文字を見て声を上げた。まだ何も発言していない総司も同じように願いながら観察を続ける。


 結局、男子がメイド服を着るのは嫌だという男子の要望により、女子はメイド服を男子は執事服を着ることとなった。ただまだ喫茶店をするのは確定ではない。

 それでも男女共に盛り上がりは見せているので大方決まりになりそうではある。


「なあ総司。前の学校では何をやっていた? あと何かやりたいことあるんだったら言っていいぞ?」


 なんとなくではあるが、振られるのではないか。そんなことを考えていた総司に浩太が案の定尋ねてきた。やっぱりなと思いつつ、クラスメイトからの視線を受けながら再度黒板を見る総司。


「出し物だよな。今黒板に書かれている物と大して変わらないぞ? というより、こっちの方が意見は多いぐらいで俺自身驚いている。やりたいことに関しては全部出たな」


 こちらの方が予算が多いためか、前の学校より意見がよく出ていて正直羨ましく感じていた。さすがにそれを口にはしなかったがそんなことを内心思いつつ、総司は黒板に書かれている意見を眺める。

 ふいに隣の席に座っている衣里が発言した。


「嘘つけ。間宮、お前やりたいことあるだろ」

「え? いやもう全部出たんだけど?」

「お前弁当食ってるときにデ〇・スター建造したいっていってたじゃん」

「ちょっと待って! それ結構根に持ってるの!?」


 衣里がニヤッと笑う。見れば一部のクラスメイトがクスクス笑っている。衣里に完全に遊ばれている総司。ため息をつく。

 それでも心の中ではうれしく感じていた。衣里が冗談を言えるようになり、そんな冗談にクラスメイトが笑う。まさしく総司が望んでいた形である。

 そんな総司を放って浩太が提案をしてきた。


「いや。でもやりたいなら黒板に書いていいんじゃないか?」

「いや、あれは単なる冗談で、実際にやるつもりは――」

「デ〇・スター建造っと」


 総司の言葉を遮るかのように女子生徒がそう言いつつ黒板に『デ〇・スター建造』と書く。明らかに予算オーバーではあるが、きっと書いた女子生徒は天然なのだろう。


「ちょっ! 書かなくていいから! とんでもない黒歴史になるから!!」


 総司の叫び声と共にクラス全員の笑い声が上がった。




 デ〇・スター建造という意見以降、アイデアが出なくなったので浩太の進行によってアンケートをとり始める。黒板に書かれた出し物のうち、やりたい出し物を書いた投票用紙を小さな箱に入れていく方法。

 全員分が入ると、浩太が1枚出して読み上げては集計していく。黒板に『正』の文字が少しずつ増えていく。


 男子は女子のメイド服姿が見たい。女子は男子の執事服姿が見てみたい。双方の思惑が一致したためか、メイド喫茶(男子執事服)の票だけが伸びていった。


「その辺で止めて置いたらどう? 残りの票がすべてお化け屋敷でも結果は喫茶になるから」


 担任の言う通り、残り全部の票が2番人気のお化け屋敷だったとしても、僅差の差で、メイド喫茶(男子執事服)が勝つ。


「えーじゃあメイド喫茶が得票最多なのでメイド喫茶に決定だけどいいかな?」

「「「いいとも!」」」


 どこかで聞いたことのあるフレーズの元、満了一致で『メイド(と執事)喫茶』に仮決定する事になった。もちろん完全に確定と言うわけではない。メイド喫茶というだけあり一応飲食店に入る。しかもメイド喫茶だ。倍率はかなり高くなることが誰の目から見てもわかる。

 もちろん全員分かっているだろうが、浩太が今後の流れの説明をする。


「ただまあ、これから生徒会に決定を伝えてそこからは恐らく抽選になる。抽選から漏れたら2番のお化け屋敷になるから忘れるなよ。それに他のクラスの奴と被ったりしたらくじ引きになるし、それも逃せば3つ目が俺達のするものになる」


 浩太がそう伝えると教室内がざわつきだす。やはりやるからには第1希望が望ましい。無事に『メイド(と執事)喫茶』になることを願う声があちこちからあがる。その声に書き消えないように浩太が続けた。


「あと、衣服に関しては確実に予算内で用意出来るものじゃないし、ツテ探す事になるから心当たりのあるやつは先にそのツテに聞いておいてくれ。なければ普通の喫茶店になるから覚悟しとけよ」


 進行を任されている浩太が、てきぱきと必要事項、注意事項を伝えると生徒会に伝えに行くのか教室を出ていった。


 ちなみにだが、クラスにはかならずふざける奴は何人かいる。そんなやつらが原因で3つ目の候補が『デ〇・スター建造』となったが、そのあたりはどうにかなるだろうとクラスの人達は皆思っていた。

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