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君を愛している  作者: シロガネ
EP2 噂と演技
15/84

2-5

 週が明けた最初の月曜。

 上空には青空が広がる私立伎根多摩学園。その敷地内では本日も女子生徒に囲まれて話をしている稚奈がおり、それを遠目に見つつ総司は教室へと入っていった。


「総司おはよう!」

「間宮君おはよう!」

「おはよう浩太と本庄さん。相変わらず元気だな」


 入ると総司と入れ替わるようにちょうど教室を出ていこうとする浩太と浩太の彼女である陽菜季に出くわした。


 陽菜季とはクラスが違うため、浩太に用があって尋ねてきた陽菜季とタイミングが合えば話すことがある程度になるだろう。そう思っていた総司だが、これが案外話をする機会が多かった。浩太だけではなくなんやかんやこのクラスの女子に話しにきたりしているため。


 2人のために教室の入り口から早めに離れると2人はそのまま教室から出ていった。仲良さそうに手をつないで。総司に彼女が出来たとしても、学園では恥ずかしくて手なんて繋げなさそうである。そんなたらればを思いつつ、教室の入り口から目を離した総司は自分の席へと付いた。


 教科書を机の中にいれつつ、頭の中では別のことを考えていく。

 衣里がクラスに溶け込めるようにする方法は決まった。ただ総司1人でやる場合、状況によって玲奈の協力が必要になってくる可能性がある。

 昨日の間にそう結論付けた総司は授業の準備をするまえに先に玲奈の席へ向かおうと確認せずに立ち上がった。


 そこでふと気が付く。見れば玲奈は残念ながら友達と会話中。何やら会話が盛り上がっているようで、時々笑い声が起きている。そんな中にさすがに割り込んでいくほど急ぎの用事ではない。


 別に休み時間中に話せる機会はあるだろうと立ったばかりだが再度座り直そうとする総司。だがそれよりも早く、玲奈と会話中のクラスメイト女子の1人が総司が立ち上がったことに気が付いたらしい。総司の方を向いたまま玲奈を指さした。


 なんとなくではあるが、意味が分かった。クラスメイト同士だから通じるのか、この前テレビでやっていたように日本人特有の察しなのか。ふとそんなことを脳裏に通り過ぎる。


 すぐにそれを追い払い、考える総司。

 できれば会話の邪魔をしたくはなかった。そのためどう反応すればいいか一瞬迷ってしまって何とも言えない表情をしてしまう。

 

 それをクラスメイトの女子は『YES』と捉えたのか、女子生徒は笑顔で頷くと玲奈に何かを話す。薄っすらとだが「間宮君が話したそうにしている」という会話が聞こえてきた。

 ちょうど総司に背を向けるようにしていた玲奈が振り返ると同時に、一緒に話していたクラスメイト女子も総司の方を見てくる。


 さすがにここまで注目されると総司は恥ずかしく感じ、何より会話を邪魔した申し訳なささで苦笑いを浮かべた。


 玲奈は気が付いていないが、彼女背後ではクラスメイト女子たちがニヤニヤと総司に視線を向ける。あとで玲奈が根掘り葉掘り聞かれるだろうな。少しだけ申し訳なく思ってしまう総司。

 そんなことを考えている間に、また休み時間ね。そんなことを言うと女子生徒たちは各々の座席へと去って言った。


「おはようソウ君。どうしたの?」

「おはよう。えっと……邪魔したみたいで悪かった。あとさっき話してた子達にも謝っておいて」

「気にしなくていいけど、分かった」


 それで何の用だったの? と玲奈に視線で促されたため、衣里の件について話始める総司。


「少しお願いがあるんだけれどいいかな?」

「お願い?」

「蘇摩さんについての」


 そこで総司は衣里がクラスになじめるようにする計画を話し始めた。主に動くのは総司1人だが、どうしても1人だと難しいと感じたら玲奈に手伝ってもらうつもりでいる。


 別に他の人に聞かれても問題はないが、自然と小声になる総司。それにつられてか玲奈の声も小さくなる。

 その様子が気になったのか、周りにいた生徒がチラチラと見て、数名の男子が嫉妬の目を向けているが、説明している総司は気が付かなかった。


「えっと……それ本当に大丈夫かな?」

「わからん」


 総司が大雑把に伝えたところ、困った表情を隠すため無理やり笑顔にしようとしたが失敗した。そんな表情を玲奈はする。


 総司はどこか、大丈夫だ出来る! というような雰囲気で話していたが、明らかに問題点だらけで、幼馴染である玲奈としては止めたく感じていた。

 ただ、総司も同じように感じていたとはいえ、最初に言い出したのは自分。だから玲奈は止めるよう言えなかった。


「まあ大丈夫だろ」

「ちょっと適当すぎないかな――あ、おはよ!」


 話している途中に、友達が玲奈へとあいさつをしてきたので顔の横なで軽く手を上げて挨拶を返す鈴奈。


「ああ。その時は頼むよ」


 笑顔で言う総司に玲奈はどこか諦めた表情を見せる。

 ちょうど総司が言い終わったタイミングで、担任の先生がやってきた。

 それを見て朝のホームルームが始まると判断した総司は席に戻る。


 相変わらずと言うか、やはり今日も衣里はホームルームが終わって授業ギリギリのタイミングで登校してきた。




「ほのかに~! うちぃ光りていくもぉ~! をかしぃ~ッ!!」


 4時限目の古典の授業もあと少しで終わろうというとき、清司の音読を聞きが教室に響いていた。元気のある声を出しているため、しみじみとした趣もへったくれもない。平安時代に生きていたと言われているこの作品の作者はきっと泣いている。


 それでも清司の元気ある声のためか普段つまらない古典の授業もいまはどこか、をかし。そんな授業中ではあるが、古典の授業が早く終わらないかと総司は少しだけソワソワしていた。


「三つぅ~、四つぅ~ッ!! 二つ~三つなどぉ~ッ!! 飛び~急ぐさへ~ッ!! あはれなりぃ~ッ! !」


 ちょうど読み終わった瞬間、4限目のチャイムが鳴る。昼休み開始のチャイムである。

 次回の授業では何をやるかを軽く説明した担当の先生がクラス委員長に声をかけて授業終了のあいさつをさせる。あいさつを終えて先生が教室を後にするなり、いたるところで友達同士が席をくっつけ始めたり教室を出ていき始めた。


 総司も事前に買っておいた惣菜パンとお茶を持つと衣里の席へ特攻。といってもすぐ隣なので時間はかからない。


「ねえねえ蘇摩さん。俺と一緒に飯食わない? お互い転校してきたばかりだろ?」

「ア"?」


 衣里が睨んできたために一瞬止めようか考えた総司だがすぐに再び声を掛けた。

 総司が考えた方法は、衣里と昼食を一緒にするといういたってシンプルなもの。話している様子をクラスに見せ、大丈夫アピールをするつもりでいた。最初からその作戦が失敗しそうだが。


「いや、だから俺と一緒に食わない? せっかくだし」

「食いたきゃお前1人で食え」


 そう言って包みを手にして手に席から立ち上がろうとする衣里。十中八九中身はお弁当。一緒に食べるチャンスを逃すのではないかと内心焦る総司。


「そんな悲しいこというなよぉ! 俺転校してきたばかりなの知っているだろ!? 友達作りに躍起なんだよ!!」

「お前転校してきてかなりたってるだろ。他の奴と食え。あとうるさい」


 転校して今日までのキャラと今のキャラがぶれてきているが、それを気にしている暇はないほど総司は必死であった。


 キャラがぶれるほど必死の総司と学園ではいつも通りの荒い口調で会話する衣里。その2人を遠巻きから玲奈が見ていた。


「大丈夫かな、ソウ君」

「うーん。彼なら大丈夫でしょ。ただちょっと口調がナンパ男になってきているけれど」

「確かに」


 少しではあるがいろいろと事情を玲奈から聞かされたため、落ち着いて好き勝手言っている玲奈の友達。ただ玲奈はこれがうまくいくことを望んでいる。


 と言うのも姉である稚奈から、衣里の噂はあくまでも噂であると聞いた玲奈はクラスになじめない衣里のことをずっと心配していた。

 最初は自分でどうにかしようとしていたが、衣里の強い口調に押され、結局どうもできなかった。


 人任せは良くないと分かりつつも、ソウ君に任せてみよう。もし助けて欲しそうなら助ける。だって私だって蘇摩さんと楽しくお話をしたいから。

 そう思いながら玲奈は、総司を見守っていた。


 総司と衣里の様子を伺っているのは女子だけではなく男子も。ただ見守るというよりも話題にしていると言った方がいい。そのためかなり適当なことを言っている。


「すげぇな、あいつ。蘇摩さん相手に喧嘩売っているぞ」

「いつかあいつ蘇摩さんのパシリにされるんじゃね?」

「おいてめぇ。ジャンプしろ。ポケットに小銭入っているな? ジュース買ってこい。的な?」


 そんな周囲を放って置いて総司と衣里の会話は進んでいたが、突然衣里が立ち上がる。

 怒鳴られるのではないか。そう感じ取ったクラス全員は会話を止めたため静寂が訪れた。


「お前1人で勝手に食ってろ」

「どこに行くんだ?」

「どこでもいいだろ。それと――オレに関わるな」


 総司にすっと顔を近づけてくると静かに、だがドスの聞いた声で衣里はそう言った。そのまますぐに弁当を手に教室から出ていった。




「やっぱり難しそう?」

「今日の状態が続くなら難しいかもな」


 放課後、総司と一緒に帰宅していた玲奈が尋ねてきた。お互い教室を出るタイミングが同じだったと言うことで、一緒に帰ることにした2人。

 最初は取り留めのない話をしていたが、自然と昼間の話に移った。


「まあ明日ももう一度声をかけてみるよ」

「そう。わかった」

「もし今日と同じようになりそうならレーちゃんを呼ぶよ」


 そんな話をしつつ、2人は肩を並べるようにして歩いて行った。

主人公ただのやばい奴……

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