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君を愛している  作者: シロガネ
EP2 噂と演技
12/84

2-2

 玲奈に相談されたが結局衣里について何も分からないまま数日が過ぎさった。すでに次のテストに向けてみな授業に励んでいる。

 そんな学園生活を終え放課後。必要な日用品が近くのスーパーで見つからず、少し離れたモールまで総司は足を運んでいた。


 一度学校から自宅に帰ってから着替えた。時刻が夕方と言うこともあってかモール内の食品売り場で買った食品を詰めた買い物袋を手にしている女性や、学校が終わって遊びに来たらしい学生がいる。


 モールの吹き抜けの所に配置されている大型テレビ。その大画面ではちょうど、超大人気の2時間サスペンスドラマの最終回、『ムキムキマッチョマンの捜査最前線~真夏の夜のチンチン電車が暴く、ゴリラ男圧死殺人事件の謎~』の予告をしている。

 それをはた目に見つつ通り過ぎ、目的の場所に向かって歩いていた。


「まあまあ、そんな硬いこと言うなよ」

「せっかくなんだしさぁ? 一緒に楽しいことしようぜ?」


 ふとテナントとテナントの間にある階段へと続く通路から声が聞こえてくる。通り過ぎる振りをしてちらっと見ると、3人の男が女の子に絡んでいた。

 総司から女性の姿は見えなかったが、声の感じから学生あたりと目星を付ける。男たちの服装は制服だったが、総司の着ている制服とは別の物だったため、他校の生徒である。


「イヤだつってんだろ。しつこいぞ」

「そんなこといっちゃって。内心無茶苦茶喜んでるんじゃないの?」


 そんな声を聴きつつ総司は再度通り過ぎる振りをして見る。運がい行ことに男たちの立ち位置が少し変わったため女性の顔が見えた。驚いたことに衣里である。

 同じ学校の、それも同じクラスメイトを放って置くことが出来なくなった。


 付近を通る人はいるが、厄介ごとに自ら突っ込んでいく人などおらず、見てみぬふりをしており、誰も彼女を助けてくれそうにない。当たり前と言えば当たり前である。


 仕方ないか。

 総司はそう判断すると自分にできることをするため――見える範囲の通路に目を凝らす。こういう時は強い味方である警備員を召喚するまでだ。

 だが運がないのか、見える範囲には巡回している警備員はいない。


「いつまでもゴネてねーで一緒に来いよ」

「もうめんどいし無理やりにでも連れていこうぜ」

「やめっ……は、離せよ」


 その声を聴いて「ああ、くそっ!」と内心毒突く総司。巡回中の警備員が偶々通るのを待っているわけにもいかず、かといって呼びに行こうにもその間に何かあったらそれはそれで手遅れになる。

 こうなったらあとの事を考えずに行動するしかなかった。


「あーもうここにいたのかよ探したぞ。それじゃ行こうか」


 強引に衣里の手を取ると歩いて来た道を急いで戻ろうとする総司。周りの男たちがあっけに取られている間に少しでも離れた方がいい。

 だがそんな総司の思いをよそに衣里は動いてくれなかった。


「え? お前なんでいるんだよ!」

「いやなんでって」


 助けに来たと言いそうになっていい留まる。

 形としては『一緒に着ていたがいつのまにかはぐれていた連れ』にしなければならない。思いつく限りでその方法が1番楽だから。


「なんだよこいつ。お前の連れか?」


 3人組の男の内の1人がそのように尋ねてきた。一瞬目を合わせる総司と衣里。総司は祈るしかなかった。

 総司と衣里は示し合わせたかのように同時に口を開く。


「そうだ」

「ちがう」


 それぞれ違う返事をする。言わずもがな、そうだといったのは総司の方。衣里の回答を聞いて「助けに来たんだぞ」とツッコミたい気持ちに襲われる。もちろん口にはしなかった総司。


「おいおい、2人して別々の答えじゃねぇか!」

「俺達をおちょくるのもいい加減にしろよ!」


 そう言いつつ確実に距離を縮めてくる男達。幸いにして総司と衣里の立っているのは先ほどまで総司のいた幅があって人通りのある通路側。

 最悪衣里だけでも逃がして総司が食い止める案が脳内に出るが、それと同時にろくに話したことのない衣里になぜここまでしないといけないのかと自分自身に悪態をついていた総司。気が付くのが少々遅かった。ただ後悔はしていない。


 衣里をかばうように体を移動させる。

 いつの間にか総司の手首を握っていた衣里から小刻みな振動が伝わってきた。視線を衣里に向ける総司。男たちを睨みつける衣里のその目元には、薄っすらとだが涙が浮かんでいた。


 さてどうするか。最悪殴り合いでもしてやるか。

 少女の涙を見たからか、考えが過激な方向へ向いてしまった総司。だがそんなことを考えていると、男3人組が何かまずい物を見たような表情をする。それと同時に総司の背後から声が聞こえた。


「君たちそこで何をしている」


 振り返ると見回りをしていたのであろう警備員が立っていた。

 不利だと悟ったのか、舌打ちをして階段の方へ消えていく男3人。助かったと思いつつその3人を総司は見送った。




 警備員からは特に何も言われないですぐに開放された総司と衣里。すでに警備員は巡回に戻っており、2人の間に無言の時間が流れる。先の口を開いたのは総司。


「悪かったな。出しゃばって」

「あー、いや、別にいい。本当に助かった。ありがと」


 そうはいいつつ、衣里は何か諦めたような雰囲気。それでも助けたこと自体は迷惑に思っていないようだった。

 衣里の目にうっすらと浮かんでいた涙はすでに消えている。それでも僅かにだが目が赤いまま。いじるつもりのない総司は衣里がわずかに泣いていたことに触れないようにする。

 これからどうするかと考えていた総司をよそに衣里が総司に背を向けるようにして歩き始めた。


「おい待て。どこ行くつもりだ?」

「どこって買い物だ」

「それじゃあ俺も付いて行ってもいいか? というより付いて行くぞ」

「はぁ?」


 こいつ何言っているんだと言いたげな表情の衣里。総司も考えなしで言ったわけではない。


「あいつらが帰ったって確証ないだろ。また会ったら面倒だからせめてここでは一緒に移動した方がいいと思うが?」

「……チッ」


 総司の提案を聞いて露骨に嫌そうな表情をする。それでもじっと自分の方を見てきたため、拒絶はしていないのだろうと判断した総司。一緒に買い物することにした。




 よく話すクラスメイトと言うわけではないためお互い無言で歩く。さすがにそんな空気に耐え切れなくなった総司。タイミングを見計らって恐る恐る声をかけた。


「蘇摩さん?」

「なに?」

「……えっと、何買いに行くんだ?」

「食いもん」


 衣里は総司と話すつもりがないのがひしひしと伝わってくる。それでも総司としてはお互い無言になるのはなんとなく嫌だった。


「食い物か。お菓子か? それとも惣菜か?」

「……なあ間宮」

「なんだ?」

「お前はオレが怖くないのか?」


 突然の言葉に衣里の言いたい意味が分からず、何を言っているのか疑問に思う総司。一瞬だが何かの冗談かととらえてしまう。

 だが、衣里の真剣な表情を見るとそれが冗談で言っているわけではないことに気が付く。真面目に答えようとしたが、どのような意味で尋ねてきたのか分からない。


「すまん。どういう意味かわからない」

「お前のことだから仲のいい奴に聞いているだろ? いろいろとオレのこと」


 それでようやくわかった。衣里は、自分が簡単に言えば不良でそのため怖くないのか。そう聞いていると。一瞬ごまかそうと考えたがすぐに考えを改める。自分が実際に思ったことを総司は正直に話すことにした。


「いや、怖かったよ? まじで」

「それならなんで」

「だから言っただろ。怖かったって。蘇摩さんだって普通のクラスの女子と同じってわかったんだから今は怖くないな」


 授業態度とかそういう物を見てほとんど普通の女の子だと思っていたが踏ん切りはついていなかった。それでもようやく踏ん義理が付いたのは、普通の女の子だとそう確信したのは男たちと対峙したとき。衣里の眼もとに薄っすらと浮かんでいた涙を見たから。

 あまりにも他校の生徒と喧嘩するような奴から遠くの存在に見えた。


「そうか。それでも――間宮だっけ? オレにはあんまり関わるなよ。せっかくいいクラスメイト達に出会えたんだから」

「……そうか」


 そこで会話が途切れる。

 とりあえず衣里の買い物に付き合うという流れになっているので、衣里に並んで付いて行く形で歩く総司。そのため確かに衣里の言葉が聞こえた。


「普通の奴と……同じ、か」

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