2-1
「ねぇ、ソウ君。1つ相談に乗ってくれないかな?」
「いいぞ。解決してやる」
「まだ何も言ってないよ」
放課後、一緒に下校していた玲奈が総司の言葉にクスクスと笑う。
テストが終わり、休日を挟んだ次の週からは次々とテストが返却され始めた。きっと担当の先生方は土日を使って採点したのだろう。学生からすれば感謝しかない。
テストの返却は時間割の都合上、1日ですべて返却されることはなかった。それでも数日かけて昨日ようやく無事にすべてのテストが返却された。
返却時に先生が最高点は誰が取ったのかを言うのだが、すべての教科において衣里が最高点を取っており、クラス全員がおどろいていた。合計点は当たり前だが衣里が学年トップ。
衣里がいないときにコソコソと話声が聞こえたが、カンニングしたのではという話が出た。だがここの学園では試験中の先生の目はきつく、例えカンニングしたとしてもすぐに見つかる。現に過去、カンニングした生徒が何人も捕まっている。つまりカンニングはない。となれば実力である。
「それで相談なんだけど、蘇摩さんって本当に悪い子なのかな?」
以前から総司が疑問に感じていたことを玲奈も考えていたことに少しばかり驚く総司。すぐに総司も同じ風に疑問に思っていると答えようと思ったが、質問が続きそうな気がして黙っていると玲奈が続けた。
「言い方は悪いのだけれど、不良って勉強ができないイメージなんだよね。でも蘇摩さんって勉強できているじゃん? あ、もちろん不良でも勉強できる人はいるか。えっとじゃあ、いつも不機嫌に見えているけれど、授業は真面目に受けているし、遅刻はいっぱいしているけれど、それ以外は校内で悪いことしていないし」
「レーちゃん落ち着いて」
段々早口になり始める玲奈に苦笑いを浮かべる総司。総司に言われてようやく自分が早口になっていたことに気が付いたようで、照れ笑いを浮かべた。
玲奈の照れ笑いを見つつ、さきほど玲奈が言った言葉を再度頭の中で思い浮かべる総司。
遅刻するたびに先生から小言を言われている衣里。その際に授業を一時的に止めてはいるが、すぐに話を再開するためそこまで大きな妨害はしていない。なんなら授業中は誰よりも真面目に授業を受けているように見える。
他の学年やクラスの生徒と喧嘩したなんて話も聞かない。あるのは他校生との出来事ぐらいではあるが、それも他の人が見たというだけであり、総司が見たわけではない。
玲奈自身の口から聞いてはいないが、玲奈がどう思っているかは予想が付いた。
総司は別のところで聞いたことがある。他人にどう思っているか尋ねるときは大体質問をする人の中で答えが決まっている。
それは今回も当てはまり、玲奈は衣里が普通の女子生徒だと予想をつけていることが分かった。その考えは総司と同じである。ならすることは簡単。
「もし本当に悪い子だったら話はちょっと変わってくるかもしれないけれど――いや、それでも良くないよね。実はいい子だったら余計に私たちのやっていることって良くないよね。だから――」
「わかった。考えてみる」
総司も衣里の態度を見て少し疑問に持ち始めていた。転校してきてまだ1か月もたっていない。だから今のクラスメイトの衣里への接し方に、直接的な言い方をすれば気に食わなかった。
総司の回答に満足したのか一瞬笑顔になる玲奈だが、すぐに落ち込む。
「私ってズルいよね」
「なんで?」
「こんな言い方すれば、ソウ君は絶対動くって知っているんだもの」
昔からよく玲奈に相談されては動いた総司。ただそれは自分も同じように思っていたために動いただけ。玲奈と同じ考えであると分かったから決断で来ただけである。
だから。
「気にしなくていい。俺もちょうどどうにかしようと思ってからな」
今回も昔と同じような返事をすると、玲奈は昔を懐かしむように笑った。
部屋に戻ると荷物を置き着替える。今日は珍しく宿題もでなかった。というのも先生としてはテストの復習に割り当てて欲しいのだろう。実際そんなことをぼそっと言っていた。
そう言うこともあって総司はテストの復習をしようと思ったが、今はやる気が起きないのでとりあえず後回しにすることにした。
テストの復習をしないことにした総司。部屋着に着替えるとそのままソファに横になると玲奈との会話を思い出していた。
果たして衣里は本当に悪い奴なのか。玲奈が言っていた理由は総司も同じ考えだった。
だが遅刻以外校内で悪いことはしていないのはその相手がいないからなのではないか。勉強に関しては頭のいいワルだっている。そう言う考えもできる。それならまだなんとか辻褄が合いそうではある。
例えそうだとしても――
「どちらかなんて決めつけるには情報が少ないな」
そうつぶやきながら天井を睨むのだった。
翌日、玲奈と登校していると、「昨日言い忘れていたのだけど、蘇摩さん毎時間体育見学しているのだけど、体調悪いのかな?」なんて言い、さらに混乱させるのだった。