1-10
教室の空気は、夏に近づきつつあるにもかかわらず、雲1つなく晴れ渡った冬の早朝のようにピンと張りつめていた。伏せられた問題用紙と回答用紙を目の前にするのも3日目。それでもなれることはなく毎日、1時間ごとに緊張する。
それでもこの時間が、中間テスト最後の科目である。
「それじゃあ、はじめ!」
チャイムが鳴ると同時に試験官の男性教師がコールする。それと同時に教室中に紙をひっくり返す音が響き、続いて勢いよくペンを走らせる音が続く。
その音を出している1人である総司は、問題用紙を見ては回答用紙に次々と回答を書いていった。
家で勉強したり、教室で玲奈や浩太を含むクラスメイト達に質問したことのあるやつばかり。
そのため少なくとも赤点を取るような真似にはならないと確信し、総司は回答用紙を埋めていった。
チャイムが鳴ると同時に試験官の男性教師が「手を止めて!」という声が教室に響く。それと同時に全員が机の上にペンを置いた。
テスト勉強には何十時間と打ち込んでいても、本番はわずか1時限分限り。終わってしまえば早く感じていた総司。
1番後ろの席に座っていると言うことで、立ち上がると前に進みつつ自分の列の人の回答用紙を回収して、それを試験官の男性教師に渡す。
全員分集まったかの枚数確認したあと、教師は教室を後にした。
その瞬間、教室内が急に騒がしくなる。クラス内の中のいい奴と回答の確認をする者。テストが帰ってこなくとも赤点が確定して机に突っ伏している者などいろいろ。
そんななか玲奈が総司の席へとやってくる。
「お疲れさまソウ君。テストどうだった?」
「今日の分も変わらず大丈夫だった。全教科の赤点の心配はないと思う」
「総司って案外勉強できるのか?」
遅れて近づいてきた浩太に「ちょっとだけな」と総司は答えた。
ちなみにだが衣里はすでに帰っている。
「2人はどうなんだ?」
「私はいつも通りかな」
「総司騙されるな。栗生さんのいつも通りは80点台が出るぞ? 俺の方はいつも通りだと平均はあるっていったところか」
つまり玲奈は結構しっかり勉強はできるし、浩太もそこそこ出来ると言ったところ。
実はと言うと浩太には彼女がいる。ずっとイチャイチャして勉強を疎かにしそうだが、浩太はどうやらそんなことはないようだ。
彼女いるのによく勉強を疎かにしないなと言ってやりたかったが、なんか自慢してきそうに感じたため総司は結局言わなかった。
「で、2人はこのあとは帰るだけか?」
「私は友達と遊びに行くつもり。ソウ君は?」
浩太の質問に答えた玲奈が総司に尋ねた。
総司としてはそのまま帰るつもりである。テスト勉強をしていたと言うことで、最近は家の掃除を疎かにしてしまっていた。そのため部屋が少し汚れてしまっている。
「帰って家の掃除か。最近テスト勉強でやってなかったし」
「1人暮らしだもんね」
「いいな1人暮らし。まあ俺は家事が出来ないから無理そう――っと」
視線を逸らした浩太だが、何かに気が付いた。そしてほぼ同時に顔が緩む。
「やっほーコータ、それと玲奈。テストどうだった?」
総司が振り返れば髪をポニーテールにした少女が近づいてきた。雰囲気からして活発そうな少女である。総司が知っている少女たちとは違ったタイプの美人である。
「あ、ひなちゃん! テストはいつも通りだよ」
「俺もだな。ひなはどうだった?」
「私もいつも通り」
総司を置いて会話をする3人。総司が浩太に視線を向けているとそれに気が付いた。総司は何も言わなかったが、浩太の彼女っぽい少女と会話をしたことがない。だからなのかすぐに察した浩太が紹介をする。
「っと悪い総司、紹介する。こいつはひな。庄本陽菜乃。俺の彼女」
「どーもー」
そう言ってニコニコと手を振っている陽菜乃。
雰囲気からもそうだし、まだ短いやり取りしか見ていないが社交的に見える。
「で、こっちが、転校して来たはいいが昔馴染みを忘れて、どちらさまと聞いてきた間宮総司」
「お前まだそれを根に持っているのか。ともかくよろしくな」
「うんうん」
総司と浩太のやりとりを見て陽菜希が笑っている。悪い人ではなさそうと判断した総司。
そんな総司をよそに玲奈が陽菜乃に話しかける。
「ちなみにだけど、私の幼馴染だよ」
「あ、そう言えば幼馴染いるって言っていたよね」
「うん。それがソウ君のこと」
総司に新たな友達――といっても友達の彼女だが――ができたため少し話をする。
「そういえば今日は友達と遊ぶって言ってなかったか?」
「あ、そうだ忘れてた。それじゃあ玲奈行こうか」
「うん。それじゃあね2人とも」
そういうと玲奈が陽菜希と共に荷物を持って教室から出ていく。教室から出ていった矢先、2人の声と別の女子生徒の声が聞こえてきた。どうやら一緒に遊ぶ約束をしている生徒らしく、一緒に帰ろうという会話がわずかに聞こえてきた。
2人の姿が完全に消えたのを確認した総司は浩太に尋ねた。
「あの2人仲いいのか?」
「みたいだな。おかげ彼氏の俺は放って置かれている。ただ今日一緒に遊ぶのが栗生さんとは思ってもいなかったが。ああ、ひなに置いて行かれたしぞれじゃあ俺も帰るわ。じゃあな」
「ああ」
すでに荷物はまとめていたらしく浩太も帰っていった。
部活動によっては今からある。だがどこにも所属していない総司は学園に残る理由もない。そのため荷物をまとめると、帰路についた。
土日を挟み翌週の月曜からテストが帰ってきた。
その際、総司のテストはどれも80点代で玲奈とほとんど並んでいた。
それをみたテストの点が60点代70点代の浩太は少し驚いていた。
驚いたことに衣里はほとんど90点代後半――それも98点や99点を叩きだしたことに、クラスの人たちは驚いた。