第2話 水上の檻
「……で、沖田さん?」
一向に何も言わない沖田さん。
どうしたものかと目の前で手を振ってみる。
とにかく吸血鬼について教えてもらわないと話が進まない。
「えっと、吸血鬼ってやっぱりにんにく苦手なのか?」
「……そんな事ない。銀も流れる水も平気。だけど、日光と海水だけは苦手なの」
「なるほど。じゃあ具体的に人間とはどう違うんだ?」
この調子で何とか聞き出したことは、
日光と海水が苦手。日光はだるい程度だが、海水は触れたところが焼けるほどに苦手。
身体能力は大幅に向上する。特に訓練せずともアスリート並みの身体機能を得る。
生きる為には人間の血を摂取する必要がある。そして、血を摂取した吸血鬼は更に身体能力を向上させ、特殊な能力まで使えるようになる。
「なるほど、あの大火事はそれで起きたのか」
「そういうこと。…あの事件、吸血鬼が絡んでた」
「存在すら知らなかったからビックリはしたな」
「…ごめんなさい。私が巻き込んでしまった。人としての人生まで奪ってしまった。謝って済む事じゃないけれど、本当にごめんなさい」
深々と彼女の頭が下がった。
俺は、怒るべきなのだろうか。
俺が勝手にやった事とはいえ囮捜査に民間人を巻き込み、被害まで出してしまった。
確かに警察としては失敗なのだろう。そして責任の一端は沖田さんにあるのだろう。
…でも。
「俺は怒ってない。謝ってくれるのなら許すし、逆に俺の行動で迷惑をかけたとも思っている」
「あなたは、あなたはもう人間じゃないのよ?本島に戻れば常に監視されるし、その異常性から差別もされる。それでも許せるの?」
「自業自得だ。君のせいじゃない。それに、このガーデンだったら差別はともかく監視はないんだろう?」
「元々ガーデンは吸血鬼の各離島として作られたの。だから相当数の吸血鬼がこの島に集められているし、島から出なければある程度の自由は保証されてる」
吸血鬼なんて本島で聞いたことは無いし、相当な監視がつくんだろう。
昼間にあまり活動できないなら普通の職に就くことも怪しい。
「決めたよ。俺はこの島に住む。本島に特になにか思い入れがあるという事でもないし」
「…そっか。分かった。私もできるだけフォローする。そのくらいはさせてくれるよね?」
「責任感じる必要はないって言ってるだろ?でも、正直不安なところもたくさんあるしお願いしようかな」
こうして、俺は旅行にきたはずの水上の楽園に吸血鬼として住む事になったのだった。
俺に身寄りは無いので特に思い残すことはないが、すぐに順応する自信もあるわけではない。
しばらくは沖田さんに教わる事がたくさんありそうだ。