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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
裏切り編
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第55話 誰を信じるか

 




「だから私は遥斗に近づいた」


「なるほどな。政府の是正と俺の命、どちらも取るなら俺が積極的に研究に協力するのが1番って事か」


「そうよ。分かってくれたなら大人しくして」


「あぁ。分かった。やっぱり俺は俺の命より俺達の命を取る」



 玲奈の目が見開かれ、刀を握る力が明らかに強くなった。

 俺の意志は決まった。

 冷静に物事を考えられなくなっている駄々っ子を宥めなくちゃいけない。



「まだそんな事を…!」


「考えてみろよ。もし俺が協力したとしても多分殺されるぞ」


「…かもしれない。でも、反抗するよりは生き残れる確率は高い」


「これは確率論じゃない。誰を信じるかだ。どうして俺たちを殺そうとする相手を信じる?」



 少しだけ玲奈の瞳が揺れた。

 その隙に刃を掴む。

 手のひらに食い込んでいくが気にしない。

 そのまま力づくで切っ先を下げさせる。



「…今の俺にとってあの寮のみんなは家族だ。玲奈は違うのか?」


「私にとっては仕事場でしかなかった。……でも、大切になっちゃった。私はもう、大切なものを失いたくない」



 瞳に力が戻った。

 問答はここまでだ。

 今度は刀を離せと言わんばかりに掴んだ手を振り上げる。

 玲奈は思ったより軽く手放し、大きく距離をとった。


 玲奈も感じたらしい。

 俺が紅の血に目覚めた事を。



「神威流三の型」


「『念力』!」



 三の型の経路上に透明な壁だ。

 それだけじゃない。

 いくつかの風を切る音が聞こえる。


 俺は型の構えを解除しながら透明な壁を使い上に飛び上がった。

 次の瞬間には石つぶてが背後から壁へと無数に降り注ぐ。


 空中で身を捻りながら拳銃を2発。

 もちろん滅鬼弾で透明な壁を貫通する。

 だが、弾自体に作用する『念力』で静止させられてしまった。



「さっきはやられたけど、事前に注意していれば私の能力の前に銃は無意味よ?」



 静止した弾丸。

 未だ地に足が付かない俺。

 今の玲奈なら撃ち返してくるだろう。

 もちろん止められるのなんて分かっていた。


 それを利用して隙を突く。

 十の型なら恐らく紅の血を使っている玲奈でも無力化できる。



「滅鬼弾、お返しよ!」


「なッ!?」



 2発の滅鬼弾が俺の胸を貫通する。

 血と煙が吹き出し、姿勢制御すら覚束ずに落ちていく。


 という『幻覚』。

 俺は二の型で弾を斬りつつ着地。

 玲奈の表情は変わらない。いや、ほんの少し焦りが見える。

 決定的な隙だ。


『幻覚』を解除する。



「『瞬間移動』」


「そっか、幻覚……!」



 背後に瞬間移動し、再び刀に手をかける。

 その僅かな時間でも玲奈の視線は追ってきた。



「神威流十の型」


「『念力』!」



 俺と玲奈の間に透明な壁ができる。

 視線は対応しても身体がまだ動き切っていないが故の咄嗟の反応。

 たしかに壁は刃を防ぐだろう。

 だが、今の瞬間の精神的な隙間は防げない。



「十の型“静殺”!!」


「──ッッ!?」



 鯉口を切った刀を再び勢い良く納刀した。

 金属音が静まった部屋に響く。

 十の型は守りの極致。

 相手を殺さずして殺す。という事に特化した型だ。

 刀を抜く瞬間、斬られたと錯覚する程の気迫で圧をかける。

 そして、勢い良く納刀する事で現実に引き戻して精神だけを斬るのだ。


 玲奈の感覚は今何が起こったのか整理しきれていないだろう。



「俺を信じろ」


「え…」


「俺は玲奈を1人にはしない。そんでもって政府も変えてやる」


「ひとりに、しない」



 混乱した頭に直接呼びかける。

 玲奈は元々あれこれ考え過ぎるところがある。

 バイアスがかかっていない状態で言葉を届けたい。

 だからこその“静殺”だった。



「俺が玲奈を守る。玲奈の願いも守る」


「そんな、無茶よ」


「かもな。俺もそう思う。だから、その足りない分を玲奈が補ってくれ。本当に危ない時は俺を引き止めてくれ」


「私が遥斗を助けるって言うの?でも、今まで私は」



 助けてあげられた事なんてない。

 目がそう言っていた。

 最初から今まで助けられっぱなしだというのに。


 俺は既に戦意を喪失していた玲奈の肩を抱きしめた。

 あやすように背中をポンポンと叩きながら語りかける。



「何度も助かってるよ。朱里の時なんて命を救ってもらった」


「で、でも。今度こそ本当に遥斗まで失っちゃったら。私…!」


「失うくらいなら切り捨てるなんて考え方はやめてくれ。俺はずっとそばにいる。約束するから」



 玲奈の背中は震えていた。

 失う事への恐怖。

 俺には計り知れないものがあるのだろう。



「わたし、遥斗が好き」


「俺もだよ」


「信じて…いいの…?」


「おう。もちろんだ」



 されるがままだった玲奈がぎゅうううとしがみついてきた。

 抱きついてるんだろうが、いかんせん力が強くてそうとしか表現できない。

 俺はくぐもった泣き声を聞きながら背中を撫で続けた。


 やっと届いた。

 これからの道は険しくなるだろう。

 だが2人、いやみんなでなら超えていける。


 すすり泣いていた玲奈の腕が降りていき、俺の腰のホルスターに手をかけた。



「…?玲奈?」


「言っただろう?読んでいた、と」


「──テメエ!」



 体を引こうとするものの、動かない。

 既に流れるような動作で引き抜かれていた拳銃が腹部に突きつけられる。


 コイツは玲奈が人工血液を飲んだ時に現れた人格。

 恐らくは今回の元凶。



「『念力』とは便利だな。では、任務失敗の罰を与えよう」


「クソッ!『瞬間──」



 長い廊下に爆発音が響いた。





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