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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
裏切り編
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第50話 悲劇のヒーロー

 




「…って訳だ」



 みんなが起きてきた頃。

 俺は玲奈がいない理由を説明していた。



「……納得できると思うの?はると」


「………ごめん」


「止めたのは分かってる。でも、どうして追いかけなかったの…?」



 返す言葉も無かった。

 確かに死ぬ気で追い縋れば結果は変わっていたかもしれない。

 だが『瞬間移動』相手じゃどこに行ったかまるで分からない。

 そもそもその直前で死にかけていたのだから体力なんてまともに無かった。



「それは。……」



 理屈は浮かぶ。

 だが、それらの全ては玲奈を守るために動かなかったことの理由にはならないと分かってしまっていた。



「答えてよ!れなを目の前で攫われて!悔しくなかったの!?」


「悔しいさ!!悔しいに決まってる!…でも俺には──」



 パシン、と。

 反論しかけた俺の横頰を衝撃が襲った。

 音と衝撃で一瞬みんなの動きが止まる。

 ただ1人、俺を平手打ちした碧渚を除いて。



「でも、ってなに…!」


「……」


「ねえ。遥斗くん。玲奈ちゃんの事好きなんでしょ?」



 頰の衝撃から立ち直れていない俺を今度は心への衝撃が襲った。

 俺と玲奈はまだ付き合っていることをみんなには言っていない。



「好きな人くらい、さ。なりふり構わずに守ってみせてよ。……私達の気持ちも考えてよ…!」



 碧渚は今にも泣きそうだった。

 いつだったか彼女は言っていた。〝寂しい〟と。

 一緒に戦えないこと、隣に立てないことが寂しいと。

 俺は今回の件を寮の誰にも相談していなかった。

 みんなを蚊帳の外にして自分で解決しようとして失敗。

 あろうことか玲奈を人質に取られてしまうことになってしまった。


 最初から相談すれば良かった。頼れば良かった。

 玲奈も含めてみんなを…信じれば良かった。



「私、今日以降も早上がりして射撃訓練場にいるから」



 碧渚が立ち上がった。

 スタスタと俺の横を通り過ぎて部屋に戻っていく。



「はると。……何でもない。部屋戻るね」



 美優も立ち上がり、部屋へと戻っていった。

 最後に咲良が俯いた俺を覗き込むようにして語りかけてきてくれた。



「みんなが怒ってる理由、分かりますよね?」


「……ああ」


「なら、いいです。私も買い物に行ってきます。…私も怒ってますから」



 咲良も共用ルームを去り、ついに俺が1人取り残されてしまった。


 分かってる。

 本来の俺なら何が何でも飛び出していっただろう。

 返り討ちに遭う危険なんて省みずにひたすら助けようとしていただろう。


 だが、気持ちが折れてしまったのだ。

 正直俺は強くなったと思っていた。

 実際以前に比べれば強くなっているだろう。

 だが、いとも簡単に突破され最後に決死の覚悟で捻り出した力さえも届かなかった。


 俺はその絶望を、共感して欲しかった。慰めて欲しかった。

 自尊心の為に変な意地を張っていたんだ。



「……力不足な上に心意気まで腐ったら終わりだ」



 みんなが怒ってくれたおかげで目が覚めた。

 俺の力不足で玲奈を攫われた。

 まずは認めるところからだ。


 悲劇のヒーローという仮面を取ったと同時に後から後から悔しさと怒りが込み上げてくる。



「ごめん、玲奈。俺、もっと強くなるから……!」



 ◇




「ふむ。紅の血、と言ったかな?」


「はい。柏原先生なら何かご存知ではないかと」



 翌日、俺は柏原先生を訪ねていた。

 一旦意識が飛んでから再覚醒したあの時の力。

 その正体を知りたかったからだ。



「紅の血とは、吸血鬼の血のことを言う」


「どういうことです?」


「言葉を加えるなら本来の吸血鬼の血、と言うべきかな。今時代の吸血鬼はエネルギーを消費し過ぎないようにストッパーがかかっているのさ」


「吸血できる機会が少ないからってことですか?」


「そうとも言うが、ヒトの血を吸うのにそもそもそんなに力が要らなかったのさ。進化の過程で身についたそのストッパーを外すこと。それが紅の血、本来の吸血鬼の力に目覚めるということになる」



 あれが、本来の吸血鬼の力。

 力が全身に駆け巡るかのようだった。

 未吸血でもアレだったのだから吸血状態だと能力を使ったかのような身体能力になるのではないだろうか。



「主に生命の危機において発現しやすいとされる。火事場の馬鹿力だな。今でこそ使用できる者は少ないが、一昔前はもっと多かったらしい」


「先生は使えるんですか?」


「それは個人情報に入ると思うね。まあ、再発現のコツは自分を追い込む事だ。覚悟を決めるという言い方でいいのかは怪しいが」


「…ありがとうございます。わざわざ時間まで作ってくださって」



 俺は一礼して立ち上がった。

 紅の血が俺自身の強化に必須レベルで使える事が分かった。

 先生の厚意でコツまで教えてもらった。

 図々しいようだが時間が惜しくなってきてしまったのだ。

 早く使えるようになりたい。


 逆に使えなければ1週間後に勝機は薄くなってしまう。



「詳しくは聞かないが時間が無いんだろう?僕に遠慮はいい。早く行きたまえ」


「本当に何から何までありがとうございました」



 完全にお世話になりっぱなしだ。

 俺は病院を後にするとその足でバックサイドへ向かった。

 千夏に状況を説明する事と、修行の続きをお願いするために。







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