吸血鬼
「おいおいおい、吸血鬼が混じってるなんて聞いてないぞ」
「ハハハハ!久し振りの生き血だ!!力が漲るねぇ!」
「だとしてもこの状況からどうするつもりだ。その少年を人質に使っても殺した時点でお前は詰みだ」
ヒヒ、と気色の悪い笑い声が耳元からしたかと思うと今度は拳銃で自分の手を撃ち抜いた。
血に染まった左手を掲げるように俺に近づけていく。
「おい、まさか……!やめろ!」
「これなら助けなくちゃいけないよなァ!お人好しの公安局さん!」
「く……、おい、沖田。許可する。準備しておけ」
全く状況に追いつけていないが、俺が首を突っ込んだせいで事態がマズイ方向にいっているのはわかる。
どうして、こうなったんだ。
両腕を片手で抑えられ、首元には血で濡れた手が締めるように絡みついている。
異常な力を持った女は俺を盾にしてジリジリと後退していく。
身動きがとれない。
下手したら命だって危ないというのに、ここで動かなければ逃げられてしまう。
……俺に出来る事は、無抵抗だと決め込んでいるであろうこの女に一矢報いて状況を変える事だ。
「食らえッ!」
「ッ!?」
俺は渾身の力で出血している左手に噛み付いた。
力が異常に強いとはいえ、怪我をした箇所に噛みつかれれば何かしらの防衛反応を起こすはずだ。
はずだった。
「ハハハハハ!馬鹿め!自分から飲みやがった!」
「あぁ、クソ…こりゃ始末書行きだ…!」
女は用済みとばかりに俺を突き飛ばした。
身体が熱い。
意識が朦朧とする。
頭から倒れ込んだというのに、そんな事がどうでもよくなるくらいの不快感が全身を駆け巡っていく。
「じゃあね!火にまかれて死にな!」
突如、倉庫全体が火に包まれた。
特にその女と俺たちを遮るように火の手が上がっている。
「取り逃がすな!沖田!いけるか!」
「火の手が激しくて……!避難が優先です!」
朦朧とした意識の中、俺は火を見つめながら呟いた。
「幻覚だ」
「夜来さん…?なるほど、幻覚能力!」
沖田さんがすぐに火を超えて駆け出した。
高笑いをしていたはずの女はこの短時間で看破されると思っていなかったのか、慌てた様子で拳銃を撃ち放つ。
射線上にいたはずの沖田さんには傷一つない。
それどころか、弾は届いていなかった。
空中で静止している。
「なるほど、ご同族ってわけね」
「私を犯罪者のあなたと同族にしないでくれる?だから共生なんて無理って言われるの」
沖田さんが冷たく言い放ち、弾を逆向きに撃ち返した。
力が抜けた女が警官に厳重に固められていく。
そこまで確認して……俺は無理に繋いでいた意識を手放した。
「チーフ!この人の意識が!」
「早く運べ!」