第38.5話 記憶の中
子ども達がたくさんいる。
まるで幼稚園とか保育園のような感じがする。
俺はすぐにそこが俺の育った孤児院だと気付いた。
懐かしい。
俺の中にある記憶はしっかりとここを覚えているんだ。
今は自由時間なのか子ども達があちこちで走り回っている。
そして、今だからこそ分かることがあった。
ここの子どもはほとんどが吸血鬼だ。
身体能力や歯を見れば一目瞭然だった。
どうして今までの俺は全く気づかなかったのか、と思うくらいに。
孤児院を見てまわっているとある少女の後ろ姿に目が止まった。
見覚えがある。
向こうも俺に気付いたのか、可愛らしくとてとてと走ってきた。
だが、俺はその顔を見てギョッとした。
黒ずんでいる。
顔の部分だけ強制的に何も無くなったかのように黒ずみが広がっている。
「お前…誰だ……?」
分かるのはキレイな銀髪と見覚えがあるということだけ。
他の子は何となく俺を避けているように遊んでいるが、その少女は避けるどころか俺と遊びたがっているような印象を受けた。
しゃがみ込んで黒ずみを正面から見つめる。
どこまでも暗い闇だ。
しばらくそうしていると、俺ではなく少女の方が何かに気づいたらしく俺から視線をそらししきりに手招きを始めた。
振り向いて視認できたのはその少女と同じく顔の無い少女。
ここで俺は察した。
この子達は俺とよく一緒にいてくれた2人なのだと。
…だが。
思い出せない。
それどころか懸命に思い出そうとすればするほど頭痛がしてくる。
「…っく……誰なんだ…!」
駆け寄ってきたもう1人の少女の頭に触れた途端。
彼女の身体はポリゴンのように四散し跡形も無く消え去った。
「くそ……何なんだ…これ……!」
だんだんと頭痛は激しくなってくる。
もはやしゃがんでいるのも辛くなってきて地面に倒れ込む。
それでもまだ頭痛は続く。
薄れゆく意識の中、二つの影が俺を見下ろしているのが分かった。
大きい物と小さい物。
「起きて、迎えが来るよ…兄さん」
激しい既視感。
その感覚を頭の隅に残したまま俺は僅かに残っていた意識を手放した。




