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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
喪失編
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第38話 絶望的な能力

 




 路地裏のビルの影。

 俺はそこにいた。

 いや、いたという表現は正しくない。

 影と一つになろうとしていた。

 もはや道行く人にも気にとめられない。

 このまま俺という存在が消えても誰も気がつかないだろう。


 寮のみんなですら俺が俺じゃないと気づけなかったんだ。

 他に誰が気づいてくれると言うのか。









「こいつがここの研究者だ」


「『転写』とは…。あまり聞かん能力だな」



 遠くから声が聞こえる。

 うっすらと目を開くと俺と高橋チーフが話しているのが見えた。

 どうやら応援に来てくれたらしい。

 玲奈達の姿は見えないがチーフが慌ててないところを見ると無事なのだろう。


 …いや、待て。

 おかしい。

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 確か、俺は朱里を倒して質問を重ねて……気を失ったんだ。

『転写』の真の力、と言っていた。



「局員!そこの夜来のような顔した奴を捕まえろ!重要参考人だ!」



 高橋チーフの顔はどう見ても俺を向いていた。

 俺が、捕まる?何故?

 そこでようやく気付いた。

 脚の傷が無い。あれほど深かった傷が。

 代わりに疼く脇腹。何か強い力で殴られたかのような痛み。

 そして、高橋チーフの側にいるしっかり傷のある俺は…卑しい笑みを浮かべていた。



 ────まさか。

『転写』の真の力。

 俺という存在を写し取る能力。

 この世界ではあれが、朱里の入ったアイツが俺なんだ。



「そんなの……アリかよ」


「大人しくしてもらおう」



 局員達が集まってくる。

 吸血鬼用の手錠をかけられてしまったらもう脱出も俺が俺だという証明も困難だ。



 〝何を望む〟



 久し振りの声だった。

 そうだ。これが元の朱里の体の状態を受け継ぐなら、血がある。能力が使える。


 ──『瞬間移動』。




 目の前の光景が切り替わり、外に出た。

 この能力は一定距離までを瞬間的に移動する能力だ。

 少なくとも局員達がいないところまで逃げなくては。

 そして、俺が俺だとわかってくれる人に協力を仰がなくては。



「ここからならバックサイドが近いか…!」



『瞬間移動』は思ったより力の消費が激しい。

 寮までは保たないかもしれない。

 それなら千夏や咲良がいるかもしれないあのバーに向かってみるしかないだろう。


 瞬間移動と徒歩を繰り返し、バーを目指す。

 どうにか辿り着いた俺は乱暴にドアを開いた。



「…いらっしゃいませ」


「千夏!良かった…!」



 どうやら咲良はいないみたいだが千夏がいてくれた。

 思わず肩を掴んでしまうほど嬉しかった。

 とにかく匿ってもらって自分で与えたこの腹部のダメージを回復したい。



「あの、失礼ですが、どなた様でしょうか」


「…千夏?俺だ。遥斗だ。分からないのか?」


「はあ。遥斗という名前に心当たりはありますが恐らく別の方かと…」



 そんな。

 千夏ですら俺が分からない。

 絶望、という言葉が俺の視界を覆った。

 何故だか込み上げてくるものを抑えながら俺はバーを飛び出した。


 唯一の可能性かもしれなかった篠崎さんの心に潜る能力を自ら捨てて。







『瞬間移動』は使わずに市街地のはずれまで歩いてきた。

 もう足に力が入らない。

 血が切れてきたのだろうか。

 …もし完全に血が切れたらどうなるのだろう。


 俺の体が朱里の体になるような気配は無い。

 もしかして、このまま夜来遥斗の影のような存在になっていくのか?

 存在自体が朱里に盗まれ搔き消える。

 そんな最期を想像してゾッとした。



「…でも、どうしようもない」



 千夏の怪訝な瞳が脳裏にこびりついて離れない。

 最近はやっと笑ってくれるようになってきた。

 俺が新しく型を覚えた時は2人でハイタッチもした。


 でも、ダメだった。

 絆の力ではこの能力を破れなかった。



「…………」



 俺は路地裏まで行って座り込んだ。

 どうしようもなくても自死を選ぶほど愚かではないつもりだったから。

 いや、ただ存在が消えるのが怖かったのかもしれない。

 とにかく俺は血の消費を抑えるように蹲った。



 こうしていると、自分が世界でたった1人になったかのような気持ちになる。

 …そうだ。俺はずっと1人だった。

 孤児院で育った俺は孤独だった。

 友達もいたような気がしなくもないが覚えていない。

 強く記憶しているのは俺を慕ってくれていた2人の少女。


 …顔は思い出せない。背格好や髪までは何となく思い描けるのに顔だけが黒くグシャグシャに乱されているような。






 俺がそこにいてどのくらい経っただろう。

 1時間か、1日か、1週間か。

 血は薄れ誰にも気にとめられない。

 このまま影となって消えていく。


 俺らしい最期なのかもしれない。

 ごく、自然と俺は目を閉じた。

 まぶたの裏はいつもより確実に暗かった。







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