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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
喪失編
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第36話 『転写』

 




「試作品、だと?」



 試作品と呼ばれたと思われる巨人はすぐには動かないようで、ただ退路を塞ぐために佇んでいた。

 仕方なく男の方へ構えながら情報を引き出せないか試みる。



「そうだ。この天才科学者の兎瀬朱里(とせじゅり)の開発した薬の被験者ってことだよ」


「遥斗、多分あいつ『透明化』の他にも能力を使ってた。……アタリみたいね」


「ん?んん?遥斗…?君もしかして夜来遥斗?」


「…そうだが」


「最高だ!これは失礼、さっきの言葉は取り消すよ。成功者の君に比べればあんな試作品、失敗作だ」



 成功者。

 覚悟はしていたものの、いざ言葉にされると漠然と嫌悪感を覚えてしまう。

 自分が知らないところで実験台にされていたなんて判明しても嬉しくない。


 だが、やっとリズが伝えたかったことの全てが分かった。

 推察は当たってしまっていたんだ。



「人工紅姫計画。あなたは成功者」



 失敗作の『透明化』、『自然治癒』、恐らく『瞬間移動』。

 複数能力を使用していたのだからもう間違いない。

 ここは、朱里は紅姫を作る研究をしている。



「……へえ、誰から聞いた?その言葉」



 朱里の眼が爛と輝いた。

 同じ計画に関与していたのだからリズの事を朱里が知っていてもおかしくない。


 そして、その最期も。



「…リズだ」


「ん?あぁ、いたねえ、そんな奴。元気?」


「お前、知ってて……ッ!」



 人を小馬鹿にしたような薄笑い。

 いくら意識が無かったとはいえリズは許されない罪を犯した。

 だが、全てを懸けて俺やガーデンを思い言葉を紡いだ最後の覚悟を。

 兄を思う純粋な少女としての死に際を。


 こんな奴にバカにされることはない。



「遥斗、こっちは任せて。命の話になると冷静じゃなくなるのはもう慣れたわ」


「……頼む」



 この島に来たばかりの俺だったら既に飛びかかっていただろう。

 それ程までの激情が全身に満ちていた。


 それを抑えられたのは衝動が襲ってくる度にリズとの戦闘がフラッシュバックするからだ。


 衝動に身を任せるな。怒りを消すんじゃなくて冷静な自分を同居させるんだ。



「──っ!」



 俺は朱里に向かって駆け出した。

 吸血していないから『脚力強化』も使えない。素の吸血鬼の速度だ。

 隙だらけになった俺を朱里は何をするでもなく眺めている。


 余裕のつもりかもしれないが、それならそれで好都合だ。

 一太刀目は入れさせてもらう。



「一の型“一閃”!」



 キィンッ!と何かに阻まれた。

 金属音。いや、刀だ。

 さっきまで何も持っていなかったはず。どこから刀を出しいつの間に抜いたのか。


 鍔迫り合いになり、向日葵の鍔が2つ並ぶ。

 …2つ?



「面白い手品だろ?驚いたか?」


「『相手をコピーする』能力なんてアリなのか」



 俺の攻撃を受けた刀はまさしく向日葵だった。

 そして、それを操っているのも俺。

 つまりは俺ごと向日葵を写し取られたのだ。



「アリも何も今目の前にしてるだろ?」


「……それもそうだな」



 自分から鍔迫り合いを解き数歩下がる。

 改めて観察すると俺の姿形はしているものの、影のような印象を受ける。

 刀の他に右の腰に付けているホルスターも見えた。

 鏑矢さんからもらった改造銃もそのままコピーされているようだ。



「さっきまでの威勢はどこいった?予想外の事が起こると混乱するクチか?」



 挑発はしてくるものの相手からは仕掛けてこない。

 …コピーはしても刀の扱いに慣れていないのか?



「らッ!」



 大きく踏み込み右腕を狙って刀を振り下ろす。

 そこに朱里の刀の峰が割り込み、切っ先を抑えられる。

 そのまま刃を擦るように登られ鍔を使って構えを解かれた。姿勢が揺らいでしまう。


 敢えて逆らわずに上体を逸らしたところに、眼前を横薙が通り過ていく。

 そのまま左手を地面につきバク転の要領で距離をとる。


 俺は地面に足が着いたと同時に息つく間もなく蹴り出した。



「神威流三の型“稲妻”!」



 走り出しながら納刀、そのまま柄を持ち変える。

 奇数の型は攻撃、偶数の型は防御に寄った物だ。

 三の型は走りながら刀を抜き放つ技。


 いざ刀を抜こうと力を入れた瞬間、朱里が柄に手をかけ左膝をついた。

 これは──!



 勢いは止められず、俺は刀を抜き朱里の背後まで踏み込んだ。

 キン、と澄んだ音が響いた。

 朱里の刀がしまわれた音。

 次の瞬間、左の太腿から鮮血が吹き出した。

 さらに次の瞬間には激痛が襲い来る。



「四の型“氷河”」



 膝をつく独特の構えから出される居合は四の型しかない。

 攻撃をいなし逆に脚や腹を斬るカウンター技。



「俺の能力、『転写』は姿形と対象が装備していると認識しているもの、そして戦闘経験値と一部の記憶まで手に入れるんだ」


「…なるほどな」


「同じ体でその傷じゃもう勝負は決したようなもんだ」



 膝をついてしまった俺を俺の姿をした朱里が見下した。






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