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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
第0話
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倉庫内の騒乱

 


「目、覚めた?」



 覚醒しかけの意識の中、あの少女の声が聞こえた。


 少女はほぼ無傷で腕を縛られていた。

 俺の腕も同じように縛られている。



「どうしてここに?」


「君が拐われているのを見て…ほっとけなくて」


「…じゃあ、私を助けに?」


「それがこんなザマだけどな……」



 無傷の彼女を見て安心すると同時に身代金目的であることにようやく思考が追いついた。

 考えなしにも程がある。

 結局通報もできずに捕まっただけだ。



「私は沖田玲奈。あなたは?」


「俺は夜来遥斗だ」


「そう、夜来さん。助けに来てくれてありがとう。大丈夫、私が君を危険な目にはあわせないから」


「……なんかイヤミに聞こえるぞ」



 キョトンとした彼女、沖田さんは心外だというような表情の後に真剣な顔でもう一度繰り返した。



「イヤミじゃない。本当にありがとうって思ってるし君は私が守る」


「……そっか。頼りにしてるよ」



 沖田さんはどちらかというと華奢な体つきだ。

 どこをどう見ても大人に勝てる要素が無い。

 恐らく俺の不安を見抜いて励ましてくれているのだと理解することにした。


 …それにしたって不甲斐ないが。



「おい、ゴチャゴチャ話してんじゃねえ!」



 倉庫に2人の男と1人の女が入ってきた。

 男の方は沖田さんを攫った2人組だ。

 女の方は分からない。現場にいなかったという事は司令役か?



「そろそろ依頼主が来るぜ、大人しくしておくことだ」



 依頼主が存在する…?

 つまり、これは身代金目的ではないのか?

 隣で沖田さんの体が強張った気がする。

 最低限の安全がこれで1つ消えてしまったのだ。

 気丈だと思われる彼女も不安を隠せないのかもしれない。



「……私が依頼した高橋だ」


「金は?」


「あるが、まずは女を確認させろ」



 依頼主と思しきスーツの男が入ってきた。

 身なりを整えた紳士といった風貌だが、眼光が異常に鋭い。


 高橋の言葉に反応した誘拐犯の1人が沖田さんを立たせた。



「こいつだ」


「……間違いなさそうだな。そっちの男はなんだ?奴隷商売でも始めたのか?」


「あぁ、こいつは…気にすんな。それより金は?そのケースが空でしたなんてオチはゴメンだ」



 高橋が手にしたアタッシュケースを開く。

 ギッシリと詰まった万札、万札。

 これ程の金が沖田さん1人の身にかかっているというのか…?



「おーけーおーけー。では、同時に交換といこうじゃない」


「分かった。3.2.1で俺は金を、お前は女を突き飛ばす。いいな?」


「ああ」



 高橋の眼光が鋭くなっていく。

 どうする?動くとしたらこのタイミングしかない。

 だが、縛られた俺では邪魔をできても沖田さんを連れて逃げる事はできない。


 俺の焦る様子に気付いたのか、沖田さんは俺を見て静かに首を振った。

 諦めている目ではない。

 まさか、本当に彼女は俺を巻き込まずに解決する気なのか?



「では、3,2,1……」





「突入!」



 十数人の統率の取れた集団が高橋の背後から倉庫内に駆け込んできた。

 そいつらは高橋を素通りし、面食らっている誘拐犯を捉えていく。



「よくやった、沖田。怪我は無いか?」


「はい、ありがとうございます。高橋チーフ」



 親しげに言葉を交わす沖田さんと高橋。

 恐らく、この時誘拐犯達と俺の心は一つだっただろう。



「囮捜査か!!クソ!!」


「そういう事だ。暴れても罪が重なるだけだからな。大人しくしてくれ」



 囮捜査で、沖田さんが攫われたという事。

 俺に危害を加えさせない、とはこういう意味だったのだ。

 張っていた緊張が一気に緩んだ。



「なんだよ……本当に俺はただ巻き込まれた間抜けじゃねーか……」



 自嘲気味に笑うと連行されていく誘拐犯達を眺めた。

 皆諦めたように肩を落として歩いていく。

 俺と目が合った女を除いて。



「諦めてたまるか!」


「おい、暴れるな!!」



 女は隙をついて警官から逃れると呆けている俺に向けて突進してきた。

 手錠がかかっているはずなのに、信じられないような身のこなしで俺を羽交い締めにする。



「動くな!動けばコイツの安全の保障はしない!」


「……おい、沖田。あいつは」


「私を心配してきてくれた本当の一般人です。すいません、気を抜いていました」



 ハァ、と一つ大きなため息をついた高橋は諭すように誘拐犯に話しかけた。



「なあ、もうこれ以上罪を重ねても仕方ないだろう。裏口にも回してるから逃げ場はないぞ」


「仕方なくないね。私はここから逃げる自信がある」



 その言葉と同時に首筋にチクリと痛みが走った。

 注射針で刺されたかのような鋭い痛み。

 思わず顔をしかめた俺に更に信じられない状況が襲ってきた。



「じゅるッ」



 コイツ……!

 俺の血を、飲んでいるのか……?

 どうして?何故?という疑問が覚めないうちに目の前で手錠がバキン!と引きちぎられた。





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