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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
喪失編
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第33話 作戦前夜

 



 捜索対象が製造箇所から研究所になった事で捜査は多少の進展を見せた。

 今まで難航していた事からも何かを隠れ蓑にしている事は間違いないのだが、この島でも数少ない研究所という施設ならば候補を絞るのは容易だった。

 まず、昔停止された政府の研究所。内部の施設を何者かが使っている可能性がある。

 次に、取引の内容が薬物ではなく薬品関連のものが多かった施設。表向きは個人医院だが、病院で使うような薬品では無いものを多数取り扱っていた。

 そして最後に、一回だけ取引があった民家。ここの地下には数年前摘発された民間の研究施設があるはずだ。



「これらの捜索は一斉に行う。逃亡を防ぐ為と、現状戦力を大きくさける期間が短い為だ。決行は明後日。明日は各自自分の担当してる事件に1段落つけるか引き継ぐかしておいてくれ」



 チーフが軽い説明をしてくれる。

 正直これらの施設に何がしかの手がかりがあるかも少し怪しいものだが、他に打てる手が無いのだ。


 俺と玲奈、鏑矢さんは3人で民家の捜索担当になった。

 怪しい物を見つけたら連絡、応援が来るという手筈になっている。

 全ての地点に十分な戦力を派遣する事ができないなりの苦肉の策である。






「ただいまー」



 すっかり遅くなってから寮に帰る。

 最近はさすがに咲良にも先に寝るように説得したので誰もいない共有ルームが迎えてくれる。

 ……いや、何やら重そうなケースが玄関に鎮座していた。



「あ!届いたんだ!」


「鏑矢さんの荷物か?」


「うーん、正確にはちょっと違うけど…。先に共有ルーム行ってて!これ整理したら行くから」



 見た目程重くはないらしいケースをガチャガチャといじる鏑矢さんを尻目に俺と玲奈は共有ルームのソファにグッタリと寄りかかった。

 今日はチーフへの報告もあって気疲れもしたのだ。



「遥斗くん!私からとっておきのプレゼントがあるんだよ!」



 ケースとの格闘を終えた鏑矢さんが何かを後ろ手に隠しながら言った。

 手に持てるサイズでとっておきのプレゼント?なんだろう。



「ありがたいけど…何をくれるんだ?」


「じゃーん!改造拳銃!私がカスタムしたの」


「こりゃあ…ゴツいな。何が違うんだ?」


「まず、装弾数。私のは武装が銃しかないから多いんだけど、遥斗くんのは少し控えめにしてあるよ。あと発射機構も少し変えてあって早撃ちもできるからね」



 貰った俺よりもキラキラした顔で解説してくれる鏑矢さん。

 視界の端で玲奈が肩をすくめているのが見える。

 …得意なだけじゃなくて好きなんだな。銃のことが。



「──で、あとは普段はセーフティをしっかりかけておくことくらいかな。どう?何か変えておきたいところとかある?」


「いや、大丈夫。ありがとう鏑矢さん。大事にするよ」


「うん!大事にし過ぎていざという時に躊躇わないようにね!」



 この時の鏑矢さんはあくまでも明るかった。

 だからなのか俺にはこの銃で人を撃つ事になるという単純な事実に実感がまるでわいてこないまま。

 鏑矢さんが言ったいざという時という意味も深く考える事はなかった。










 翌日。

 起きてきたみんなを前に玲奈が代表して口を開いた。



「おはよう、みんな。明日に大事な作戦が決まったわ」


「という事は……」


「今日はパーティーですね!!」



 美優と咲良がいえーいとハイタッチを交わす。

 あれ?思ったより明るい雰囲気だな。

 大事な作戦と言うと怪我くらいは覚悟しなくちゃいけないという事なのに。



「何でパーティーなんだ?」


「私達の寮では公安局で大事な作戦がある前の日はパーティーなんです!」


「……みんなでご飯を食べるためよ。遥斗」



 玲奈が静かに言った。

 察しろ、という目も俺に向けている。

 ……まさか、万が一でも俺たちの誰かが死──



「それ以上はだめだよ、はると」


「……美優。…大丈夫だ。俺がみんな守る」



 昨日鏑矢さんにもらった拳銃をチラと見る。

 俺だって吸血しないと決めてから何もしなかったわけじゃない。

 銃も刀も十分に扱えるようになってきている。


 ピンポーン、と。

 いつかの日を思い出すタイミングでインターホンが鳴った。



「千夏?珍しいな学校前に」



 千夏が長い包みを肩にかけて玄関に立っていた。

 寮に招き入れ、彼女が包みを開けるのを見守る。



「遥斗。これをあなたに」


「…刀、か?いいのか?」


「元々は私の予備。“向日葵”。使って」



 向日葵と呼ばれた刀は少し短めの刀身と特徴的な鍔を持っていた。

 焦げ茶の鞘と黄色がかった深緑の柄の対比が綺麗だ。



「千夏ちゃん、ちょうど良かった。今日は私達パーティーをする予定なんだけど一緒にどう?」


「…パーティー。私もいていいのなら」


「もちろん!一緒に騒ご!ね、はるとー」



 美優の腕がいつの間にか首に回っていた。

 刀を持ったままのせいでほとんど防御できないままに彼女の抱擁を受け止め、あれ、止まらない。

 美優の顔が、唇が、迫って…。


 きた瞬間に凄い勢いで逸れてただ抱き締められただけで済んだ。



「…美優?どさくさに紛れて何しようとしてるのかしら?」


「れなったらすぐ邪魔するんだからー。はるとだってチューの一つや二つじゃ動じないって。ね?」



 動じてる。すっごい動じてる。

 刀を持ったままの手が汗で湿っているのが分かる。

 というかこの触れてる柔らかいのって多分胸だよな?胸なのか?気にしないのか?

 こんな状況では、玲奈が止めてくれなかったら卒倒してたかもしれない。



「あの、美優。さすがに、それは、過剰だ」


「じょーだんだよ。さすがに唇は狙ってない!ほっぺにはする気だったけど」


「美ー優ー?いい加減離れましょうか?」



 俺たちは学校に行くまでと、早めに公安局から帰ってきてからこんな日常を一通り楽しんだ。

 あの千夏ですら少しだけ笑ってくれた。




 翌日。

 疲れてそのまま眠ってしまっていた俺達は他の皆を起こさないよう支度を始めた。

 銃と刀もあまり目立たないように携帯し、念のため柏原先生から貰った抑制剤も持つ。


 荷物を持った玲奈、鏑矢さんと目を合わせ、最後に眠っている寮生達を見た。



「行ってきます」



 小さな声で呟き、ドアを開けた。

 必ず、再びこのドアを三人で開ける。

 そしてただいま、と帰ってきてあのパーティーがただの財政圧迫にしかならなかったと笑うんだ。


 ドアの閉まる音が響く。



「行ってらっしゃい」



 誰ともなく呟かれた声。

 再びドアが開いた時おかえり、と出迎えるために。







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