第32話 捜査開始
玲奈と鏑矢さんは資料室にいるらしい。
資料とは押収品や証拠になりきらないような物品のことだ。
それらを保管している場所で一体何をしているのだろうと思いながら顔を出した。
2人ともパソコンの画面とにらめっこしていた。
「……何やってるんだ?」
「あ、遥斗だ。リズのアジトから押収したパソコンから何か繋がりがないか調べてる」
「今は連絡の履歴を見てるよ」
確かあの施設は麻薬の取引拠点だったはず。
そうなれば確かに顧客情報や上とのやりとりなどが残っている可能性はある。
わざわざ形として残るような手段を取るかといえば怪しいが。
「あんまり調子は良く無さそうだな」
「はっきり言わないでよ…。もう倉庫街は取り締まりついでにまわったし他の物品の精査も終わっちゃった。もうここしか手がかりが無いの」
「…すまん。そうか。倉庫街を地道に潰しても次の手がかりは見つからずか」
事件が起きている以上麻薬は出回ってしまっている。
それこそリズの組織が潰れたにも関わらず止まらないという事は製造や流通を担う組織が他にあるということだ。
それを探し出さなければ根本的な解決には至らない。
「リズからもっと話を聞ければ良かったな」
「……命は取り止めたって聞いたけど、何かあったの?」
「多分、もう息を引き取ったと思う。俺に何かを伝えようとしたせいで」
……待て。
人工なんとかを調べるという話を俺にした理由はなんだ。
話の流れを思い出せ。
吸血事件はリズがやらせた。俺が解決した麻薬事件から報復のために動いたらしい。
そして、それらを意思を操られてやっていた。最後に調べるべき何か。
事件について知りたい、という話から派生したはずだ。
つまり最後の言葉と麻薬事件は繋がっている。
「まだ、何かあったはずなんだ。どうして他の誰でもなく俺に伝えたんだ?まさか贖罪の為だけじゃないはずだ」
「…遥斗くん?」
「多分リズと事件について整理してくれてる。邪魔しないであげましょ?」
この島で俺だけの特性。
…能力が複数使えること。
〝最近吸血鬼にされたんでしょ?紅姫もどきさん〟
そうだ。リズは俺が紅姫じゃない確信を持っていた。
能力を複数使ったはずの俺を紅姫もどきと揶揄するなんて確信がないとできない。
この島唯一の紅姫もどきに調べさせなくちゃいけない人工の何か。
…そんな、可能なのか?
人為的にそんなものを作ることが。
「……人工紅姫」
「遥斗くん?何を言って…」
「なあ、玲奈。紅姫を人工的に作るなんて事…可能なのか?」
「…無理よ。確かにその力を欲して研究していた人はいたかもしれないけど…成功するはずがない」
「だが、能力を複数付与する事ができたら…それは紅姫なんじゃないか?」
「だからそんな事が出来るわけが…な……」
玲奈は言葉を最後まで発せなかった。
愕然とした表情で固まってしまっている。
そりゃそうだろう。
今否定しようとした事の反例が目の前にいるのだから。
「ま、まさか……遥斗が、そうだって言うの?」
「だと思う。そして、それは麻薬事件にも関連している」
「あ、あの。遥斗くん?玲奈ちゃん?私何が何だかさっぱり…」
「つまり、麻薬って言うのは人工的に紅姫を作り出そうとした時に産まれてしまった副産物なんじゃないか?」
「…確かに、それは吸血鬼の細胞を変革させる研究になる。そうなると吸血鬼にすら影響する興奮剤ができても不思議じゃない」
そう考えればリズがどういう意図であの話の流れをしたのかが分かる。
恐らく命がけだったのは人工紅姫や意思の話だけじゃない。最初の〝紅姫もどき〟もだ。
人工紅姫を意味しているともとれるその言葉はあの文脈じゃなければ呪いの対象だったかもしれない。
とにかく、俺が受け取ったリズからの言葉はこうだ。
「人工紅姫計画」
「…よく分からなかったけど、それについて調べればいいんだよね?」
「ああ。頼む」
「…でも、そんな研究ができる施設なんてこの島にあったっけ…?」
玲奈は不思議そうにしていたが、存在はしているはずだ。
そして麻薬の製造元とつながっているはず。
俺の能力の謎と麻薬事件解決の為にも必ず見つけ出さなくては。




