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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
個人特訓編
32/64

第27話 向井千夏と

 


「はーい、夕ご飯ですよー」


「……」



 いつもは多少の違いはあれ笑顔で囲む食卓。

 だが、今日はみんな困惑した表情だった。

 俺のご飯を盛った咲良以外は。



「咲良ちゃん?なんか…遥斗くんのご飯多くない?」


「そうですか?」



 いや、明らかに多い。というか多いどころじゃない。

 漫画に出てきそうな程のこんもり飯を前にさすがの俺も唖然としていた。

 当の咲良は気付いているのかいないのか、あっけらかんとしている。



「でも、遥斗さんも男の子ですから!少しくらい多くても食べてくれますよね?」



 ……咲良が俺の為に用意してくれたごはん。残すなんてとんでもない。

 それに、この純粋な目線からは逃げられない。

 俺は覚悟を決めてご飯をかきこんだ。



「…咲良も咲良だけど遥斗も遥斗だわ……」



 玲奈がよく分からない事を言いながらため息をついていたが努めて気にしない事にする。


 ピンポーン


 インターホンが鳴った。

 こんな夕方早くに誰だろうか。



「向井です。……今日は私が一緒にいる」


「ごめん、遥斗。皆予定が開けられなくて…千夏に頼むことになったの」



 今日の遥斗くん係は向井さんらしい。

 比較的無口で近寄りがたい雰囲気の彼女と2人っきりと言われると少し緊張してしまうのが正直なところだ。

 だが、緊張しながら挨拶をしたおかげで向井さんの目線が一瞬食卓に移ったのに気がついた。



「……」



 何もなかったかのように壁に寄りかかった向井さんだったが、たまーに口をもごもごさせているのが見える。

 ……もしかしてだけど、無口なんじゃなくてコミュニケーションが苦手なだけなんじゃないか…?



「…向井さん?」


「なに」


「もしかしてどれか食べたいのか?」


「……いや、私は」



 口をキュッと引き結んでいるものの目線が左右に揺れた。

 分かりやすいリアクションをしてくれる。

 俺は自分のおかずを一掴み向井さんの方へ差し出した。



「仕方ないな。ほれ、口開けて」


「え、いや……欲しい、けど…それは……」


「早く。落ちちゃうから」


「……ぁー」



 観念したのか向井さんの口が控えめに開く。

 そこにどうにかおかずを突っ込むと、怪訝そうだった彼女の口角が少しだけ上がった。



「…おいしい」


「そりゃあ咲良が作ってくれたんだから美味いだろうな」



 まだ半分ほど残っている白米を見ながらうんうんと頷く。

 いくら美味くても腹には限界というものがある。

 だが、限界とはいつか超えなくてはならないのだ。


 …苦しくなった時にたまーに向井さんにお裾分けしながらも俺はしっかり食べきったのだった。












「夜来くん、みんなに馴染んでる」


「そうだな。ここ最近一緒にいる事もおおくて仲良くなれた気がしてるよ」



 みんなが学校に行った後。

 俺と向井さんはポツポツと言葉を交わしていた。

 最初ほど緊張はしていない。近寄りがたい雰囲気はまだ纏っているものの、拒絶しているわけではないらしいと知ったからだ。



「玲奈が言ってた。あなたはみんなを守ろうとしてくれる人だって。……本当に?」


「もちろん、守りたいとは思っている。でも吸血はもうしないつもりだ」


「例の事件?」



 向井さんはあの場に居たから何となく予想がつくのだろう。

 あんな状態を引き起こしておいて守るもなにもあったものか。

 しかもあの時は暴走状態の俺から玲奈や篠崎さんに救ってもらったようなものだ。



「まあ、そうだ」


「…じゃあ夜来くん。私と勝負して」


「は?どういう事だ?」


「行こう」



 向井さんは俺の腕を掴むと引きずるように寮を出て、バックサイドまで来たかと思うと裏手の道場まで連れて行かれた。

 真ん中辺りで乱暴に放り出される。



「吸血無しであなたは守れるの?戦えるの?」


「戦うしかないだろ。それに守ってみせる」


「信用できない。……ここで人間の私に勝ったら、信用する」


「信用するとかしないとか、そういう問題じゃないだろ?それに向井さん相手に戦えるわけが…」



 風切り音と同時に髪が揺れた。

 俺の顔の横を向井さんの拳が通り抜けたのだと気づくのに数瞬かかった。

 本気の目をしている。

 俺の相手をするというのも吸血していない吸血鬼についていけるという自信があるのだろう。



「私は竹刀でいい。あなたは何を使ってでも私に勝って。…勢い余って死んでも恨まないから」


「それだけは絶対にさせない。俺が守りたい人の中にはもう向井さんは入ってる」



 向井さんは少しだけ面食らったような表情をしたが、すぐに無表情で中段に構えた。

 多少強くはあっても所詮は人間だ。

 やりすぎないように注意しながら勝たなくてはいけない。



「……いつでも、どうぞ」


「分かった。じゃあ先手はとらせてもらう」







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