爆走
「さっさと乗せろ!行くぞ!」
複数人の足音と、女性の悲鳴。
その声はまさしく先程の少女のもので、状況が示すのは誘拐だった。
「……さすがにほっとけない」
知り合いにも満たないとはいえ恩人の危機かもしれない。
せめて確認だけでも、と少女が去った方の壁に張り付き様子を伺う。
「〜〜!!〜〜〜!!」
「手間かけさせんじゃねえ!」
口を抑えられ、無理やりに車に乗せられていく少女。
声も体格も相手は男。しかも2人。
俺じゃあ太刀打ちができない。
取り敢えず通報だ。
ナンバー、車の特徴、相手の特徴を覚える。
スマホを取り出して電話をかけようとした時だった。
男の懐に拳銃が見えた。
「やめろ!!」
彼女の死を予感した瞬間に身体が動いていた。
冷静に考えれば拳銃を持っている時点で薄かった俺の勝ち目はゼロになる。
それに、誘拐ならこのガーデンで起きている以上十中八九身代金要求の為なので命の危険は少ない。
だが、そんなことを考える前に俺は走り出していた。
昔からよく、すぐ熱くなる欠点は直せと言われていた気がする。
「チッ、オラ早くしろ!!」
「ッ!」
「その子に乱暴するな!」
犯人は少女を蹴るようにして車に押し込み、自分もそのまま乗り込んだ。
キュルルルルルとタイヤの摩擦音が響き急発進する。
大きい声を出したせいで逆に焦らせてしまった。
俺は車に追い縋る手段を探して周囲を見まわした。
…レンタルバイク。
死ぬ気で漕げばいけるかもしれない。
「ナンバー、特徴、大丈夫だ。見失う訳にはいかない」
目立つわけにいかないらしく、信号で何回か止まっていたようで何とか追いついた。
物静かな倉庫街に止まっていた車を遠目にしっかり確認する。
「なんとか……追いついた……でも、もう倉庫に入っちまったみたいだな」
息を整えてから倉庫に近づく。
物音がしている。
ここで間違いないだろう。
と、ここで息を整えたおかげで冷静な自分が帰ってきた。
「そうだ、通報してない」
何とか追いついたお陰で犯人のアジトまでわかった。
ここで通報しておけば最悪の事態は回避できる……はずだ。
スマホを取り出し、車の特徴と息を整えながら観察した周囲の状況を反芻する。
……よし、通話を繋げ…
「こんな所で何をしている」
しまった。いなかったはずの見回りが急にーー。
そこで俺の意識は途絶えた。