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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
個人特訓編
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第23話 鏑矢碧渚と

 




 翌日。

 美優は起きてくるなりソファーの俺の隣を陣取った。

 手も重ねてきているし、いつもよりかなり積極的なスキンシップな気がする。



「おはよ、はると」


「おはよう、美優」



 前よりも気に入ってくれたのか、俺の内心の不安を読み取ってくれているのか。

 どちらにしろ俺を思ってくれているのは間違いないので悪い気はしない。



「あれ?夜来くん、美優ちゃんのこと呼び捨てだったっけ?」


「い、いや…ほら美優は元々はるとって呼んでくれてただろ?だから合わせるかってなってな」



 鏑矢さんにはショッピングモールでの俺たちの様子を少し見られている。

 多分興味本位なのだとは思うが、この話題を広げていくとなんか良い事がない気がする。

 というか現在進行形で玲奈の表情が笑顔から微塵も動かない。ちょっと怖い。



「美優、遥斗、そろそろご飯じゃないのかしら。食卓についた方がいいんじゃない?」


「そ、そうだな!今日もありがとうな、西宮さん!」


「いえいえ。お米が無くなりそうで大変ですけど皆さんの為にも頑張りますから」



 ……西宮さんもあんまり触れちゃいけない雰囲気だった。

 昨日お米を忘れてしまったことは素直に謝ったのだが、結構怒られた。

 米の大切さや、食事のバランスについてなどを懇々と説明されるという何とも微妙な怒られ方で。


 …恐らく怒っているのではなく食事を蔑ろにして欲しくないのだろう。

 珍しく俺も美優も茶化さずに納得してもらえるまで聞きに徹したほどに真剣だった。



「美優?スキンシップはほどほどにしときなさい?遥斗だって困っちゃう」


「えー?はるとはいいもんね?私がおてて握ると顔赤くしてくれるもんねー?」


「遥斗?あんまり甘やかしちゃダメよ」



 ……とても食事の雰囲気とは言えなかった。

 玲奈と美優の応酬と西宮さんの圧。


 それはみんなが学校に行くまで続いた。





「いやー、夜来くんも大変だねえ」


「大変というか…まああんな食事はそう何度もしたくないな」



 今日は鏑矢さんが一緒にいてくれる。

 背の小さな寮長。人間でありながら天才的な射撃の腕で公安局でも戦力に数えられるほど。

 俺の目の前でも何度かその実力を示してくれた。


 俺は昨日美優を助けてからずっと抱いてきた頼みをしてみることにした。



「で、鏑矢さん。今日なんだけど頼みがあるんだ。…俺に銃を教えてくれないか」


「え?どうして急に銃なんて…」


「昨日、正直俺1人じゃ美優を助けられなかった。…もっと選択できる手段を増やしたいんだ」


「うーん、分かった。教えるのは自信無いけど、やるだけやってみよ!」



 頼れる寮長はにっこり笑って頷いてくれた。

 鏑矢さんほどにはなれないにしても、吸血しないで戦う以上もっと攻撃手段を増やさないといけない。

 人間でも吸血鬼を無力化できる兵器…銃ならば使えさえすれば大きな力になるだろう。

 しかも、身近にプロがいるのだし。



「じゃあ、私が使ってる練習場教えてあげるよ。公安局員が携帯を許されてるのは拳銃のみだから拳銃の練習になるからね」








 公安局近くのビルの地下。

 射撃練習場と銘は打たれているが滅多に使われない施設らしい。



「取り敢えず、扱いに慣れようね。セーフティつけたままちょっと構えてみて」


「さすがに適当になっちゃうけど…こうか?」


「脇は締めて。腰も下ろして。肘は曲げて。軸がずれてる。あ、また脇が開いてる」



 撃つまでもなく姿勢の時点で鏑矢さんから指摘の雨が降り注ぐ。

 あっちを直せばこっちが緩む、という感じで堂々巡りになってきた時。

 鏑矢さんが覆いかぶせるように手を包み込んだ。



「鏑矢さん?」


「動かないで。手は今のままね。そのまま腰をこう…えーい全部動かすからそのまま止まっててね」



 じれったくなってしまったらしい鏑矢さんは直接構えを教えてくれるらしい。

 手を握られたとか邪なことを考えている場合じゃない。

 今の状態を覚えなくちゃいけないのだ。


 でも、少しくらい顔が赤くなるのは許してほしい。



「よし。今の姿勢を忘れないで。…うん?顔が赤いんだけど無理な姿勢させちゃってる…?」


「い、いや!大丈夫。とにかく姿勢を忘れないうちに撃たせてくれないか」


「そうだね。今日は体験だし姿勢は崩れたら直すから少し撃ってみよ」



 鏑矢さんが練習場の隅にある操作盤を叩くと、正面に人を模しているであろう板がガタン!と飛び出してきた。

 動かない的にじっくり狙いをつける。



「いい感じだよ。自分のタイミングで撃ってみてね」



 特に姿勢は崩れてないらしい。

 よし、ここだ。


 ──バン、と銃声が響いた。

 俺の放った弾丸は的の首筋あたりをかすって外れていた。



「…さすがに最初からは当たらないか」


「いや…本当に初めてなら上手だよ。少なくとも狙って撃てているっていうのは良いところかも」



 何度か撃ってみて分かった事だが、吸血鬼というのは射撃にも有利点があるようだ。

 思っていたよりも反動が小さいのも、狙いが定めやすいのも吸血鬼になったからこその力と感覚だった。


 しばらく鏑矢さんの指導が続く。

 少なくとも止まっている的に当たらないと実戦では使えない。

 何度か先程のように鏑矢さんに密着されて動揺はしてしまっていたが何とか乗り越えた。



「よーし。そろそろ時間だし最終テストやってみよう」


「おう。言われたところを撃てばいいんだな?」


「そう!いくよ…」



 俺は何度も矯正された構えをとり、鏑矢さんの声と数メートル先の的に意識を集中させた。






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