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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
個人特訓編
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第20話 面会希望

 


 俺は病院で玲奈から事件の顛末を聞いた。

 俺と玲奈は2人して倒れて病院に運ばれたのだが、俺だけ検査入院になってしまったのだ。



「…先生」


「ん?なんだい」



 柏原先生は基本的に病室にいる。

 俺としては暇を紛らわせられて素直に嬉しいが、もちろんそんなところに気を使ってくれているわけではない。

 監視だ。暴走してしまった俺を1人にするわけにいかないのだろう。



「今受けている検査で俺は紅姫かどうか分かるんですか?」


「そういう検査ではないよ。君の意識とは別の意識が存在したとなると紅姫かどうかよりも能力の関与を疑って検査している。しばらく耐えてくれ。君自身の潔白の証明でもあるんだ」


「…でも俺はまだ死ぬべきでなかった者を殺しました」



 玲奈の話からも、意識が戻った時に見た状況からも死者が出ていないとは考えにくい。

 特にリズは腹部に大穴が開いていた。まず助からないはずだ。


 リズの最期の瞬間を見ることはできなかったが…あの顔には《理解できない》と書いてあった。

 理解できないことへの恐怖。

 彼女も根底では闇を恐れる普通の人だったということだったのだろうか。



「何を言っている。あいつらは僕が能力も使って助けたとも。君は最後の線は越えちゃあいないさ」



 俺は驚いて顔をあげた。

 あの状態から助けた…?一体どうやって?

 吸血鬼を診れる医者であるからには回復系の能力を持った吸血鬼だろうとは思っていたが、とても強い能力だ。



「とは言っても目がさめるまでは時間がかかるだろう。話を聞けるのは少し先になるんじゃあないかな」



 柏原先生がやれやれとでも言いたげに肩をすくめた。

 話が聞けるだけでも奇跡に近いとは思うのだが、突っ込むのはよしておこう。


 俺がこれからのことについてもう少し聞こうと口を開いた時、コンコンと扉がノックされた。



「先生、夜来さんに面会希望の方が見えていますがお通ししてよろしいでしょうか」


「いいとも」



 しばらくすると、扉が控えめに開いていきそーっと鏑矢さんが顔を出した。

 俺と目が合うなり、ぱあっと顔を輝かせて入ってきた。西宮さんや空蝉さん、向井さんも一緒だ。



「夜来くん!…身体大丈夫だった?」



 鏑矢さんが代表して尋ねてくれた。

 皆の表情から俺を心配してくれているのが分かる。

 目の前で倒れてしまったのだから無理もない。



「検査の結果はまだだけど…俺自身は大丈夫だよ」


「本当に…?とても大丈夫には、見えなかった」


「ていうか向井さんも来てくれたんだな。嬉しいよ」


「…知り合いが入院したら、少し心配。当たり前」



 俺の露骨な話題逸らしに向井さんが上手く合わせてくれた。

 あの血塗れの姿を向井さんには見られているのだ。

 中で何があったかは知らないとは思うが深く追求しないという姿勢を示してくれたのはありがたい。



「それで退院の目処ってついてるんですか?」


「おれも聞こうと思ってたんだ。柏原先生?」


「さすがに検査結果は待って欲しいが…そうだな。誰かが一緒にいてくれるなら明日にでも退院できるように計らおう」


「やった!じゃあ明日のご飯は夜来さんの分も作りますね!」



 宮脇さんがとびっきりの笑顔で嬉しそうに言ってくれた。

 確かに1人いないだけで作る分量というのは大分違ってくる。

 もしかしたら少しの間作らないだけでも寂しさを感じてくれていたのかもしれない。



「はーるとっ」



 空蝉さんか、と思った瞬間。

 抱きしめられた。

 そのまま耳元でそっと俺に囁いた。



「ぎゅーってするって言ったもんね?…聞こえてたでしょ?」


「……あぁ。ちょっと恥ずかしいけどな」



 空蝉さん越しに皆が俺を見ているのが分かる。

 やましい気持ちは何も無いというのに何故だかすごく気恥ずかしかった。



「約束したしっ」



 言い訳したものの全く悪びれる様子も無く俺から離れる空蝉さん。


 …俺の居場所はここにある。

 改めてそう感じた。

 この生活を壊したくない。


 だから、俺はもう吸血はしない。

 暴走する危険がある能力なら発動させてはいけない。

 公安局では人間と同じような扱いになってしまうかもしれないが、それでも戦えるように訓練していかなくては。





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