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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
水上の楽園編
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第19話 事の顛末

 



「退け!!」



 遥斗の声が聞こえた瞬間には脚を蹴り出したつもりだった。

 北園さんの跳躍力は私のその反応よりも早く、幻覚の炎すら突き抜けて『金縛り』を発動させた。


 そして、リズという少女や能力の正体を動けないままに知った。

 遥斗が私を守りながら戦ってくれているのが分かる。

 私は情けなかった。注意を促しておきながら奇襲を受け、吸血鬼としても公安局員としても先輩のはずなのに一緒に戦えすらしない。


 忸怩たる思いで隙を伺っていたが、金縛りが解けた所で私にかけられたのは能力封じだった。

『念力』を封じられた上に四肢を拘束までされた状態。

 遥斗はリズに吸血されてしまって動けない。操られはしなかったがその気になれば私を押さえつけている吸血鬼達の仲間入りをしてしまうだろう。


 服が引き裂かれた。

 男達の手が肩を、胸を這う。

 おぞましかった。でも、耐えるつもりだった。

 耐えていれば遥斗はしばらく操られない。時間が経てばチーフ達が来てくれるかもしれない。


 …でも。

 キスという言葉。そして、その時に遥斗を見てしまったこと。

 それらが私の中の何かを1つ崩してしまった。



「遥斗……」



 縋ってしまった。助けて、と思ってしまった。

 私がその失敗に気付く前に、ニヤニヤしていたはずのリズが一瞬で吹っ飛ばされた。


 遥斗がやったんだと分かった頃には私の目の前にいた吸血鬼が消し飛んだ。

 遥斗はただ蹴っただけで消えたと錯覚させるほどの速度で人を吹っ飛ばしている。


 その後も、拳で、脚で、吸血鬼達を蹂躙していった。



「操れない…!?吸血したのに、なんで…」



 まだ意識があったリズが茫然と呟いた。

 遥斗は彼女をもう一度蹴りつけると今度は追い討ちをするように拳を振り上げた。

 さっきの蹴りで意識があったから念入りに潰すということなのだろうか。でも、明らかにやり過ぎだ。それでは本当に──。



「やめて遥斗!本当に死んじゃう!!」



 私の声に構わずに拳を振り下ろし、遥斗が振り返った。

 見開かれ、充血したような目。牙をむき出しにして荒い息をついている。


 遥斗じゃない。

 直感でそう感じた。


 だからこそ、直後に放たれた異常な速度の拳を辛うじてかわすことができた。



「遥斗!?一体何があったの!?」


「……殺す。全部。」



 遥斗はうわごとのようにそれを繰り返していた。

 何が起きたのかは分からない。

 だが、このままだと私は殺される。そう何度も避けられる速度ではない。

 ……でもきっと遥斗は苦しんでる。

 助けなきゃ。命をかけてでも。

 遥斗が私の味方だって言ってくれたように、私も遥斗の味方でいたいから。



「遥斗、私の声を聞いて。自分に負けちゃだめ」


「殺す……殺さなきゃ……守れない」



 ハッとした。

 私を守る為に、遥斗はこんな力に手を出した。

 かけるものが命だけじゃなくなった。全てを賭けてでも止める。こうなってしまったのが私のせいなら何が何でも止めてみせる。


 遥斗が再び拳を振り上げたのに合わせて『念力』で壁を作り出す。

 すぐに砕けてしまうものの、一瞬時間は稼げる。

 その隙に私は遥斗の懐に潜り込むと、思いっきり抱きしめた。



「遥斗!!戻ってきて!!」


「……殺してやるッ!」



 凄まじい力で振りほどかれる。

 受け身も取れずに頭をうちつけた。

 諦めない。もう一度やってやる。



「遥斗!」



 またしても振りほどかれる。

 今度は地面ではなくコンテナに全身を打ちつけられた。

 思わず息が止まる。骨が折れていないらしいのは奇跡に近いだろう。


 近づく事はできても声を届かせることができない。

 正気に戻す策がない。

 そう考えを巡らせようとしたところで心強い救援が来てくれた。



「…玲奈ちゃん?これは一体どういうことなのかしら?」


「篠崎さん…!遥斗の様子が、おかしくて」



 様子を伺いにきてくれたらしい篠崎さんだった。

 その場の状況を軽く説明する。

 もちろんその間も遥斗は待ってくれないので、私の体力は更に削れていく。



「一瞬だけでいいから、遥斗くんの意識を私に向けさせないことはできる?」


「…やってみます」



 もう対処できても数回だ。篠崎さんの作戦に賭けるしかない。

 今の遥斗の動きを止める方法は私の持ちうるすべの中には無い。

 1つだけ、思いついたものがある。

 それは確実ではなくて遥斗が私をどう思ってくれているのかにもよるような方法だ。


 またしても遥斗の蹴りが迫る。

 全身全霊をかけてスレスレで避けつつ、一歩踏み込む。

 そして『念力』で背後にあったコンテナを遥斗めがけて射出した。

 いくら異常なまでの身体能力があろうと、蹴りの途中に物が飛んでくれば払わざるを得ない。


 案の定、遥斗はコンテナを払い飛ばした。

 そこが私の狙った隙だ。隙とも呼べないような短い間だが、踏み込んだ一歩のおかげで腕が届く。

 両腕を彼の首に回す。再び私は遥斗を抱きしめた。


 今度は私の唇を彼の唇に押し付けて。



「……遥斗…」


「………………」



 一瞬、遥斗の全ての行動が止まった。

 篠崎さんが遥斗の頭を掴む。


 私には篠崎さんが何をしているのか分からなかったけれど、そのまま動きを止めた遥斗にずっと呼びかけ続けた。


 遥斗、目を覚まして。と。







「…あとは遥斗が見た通りだよ」



 遥斗の病室で私は事の顛末を話していた。

 もちろん、話したくないところは伏せたけれど。

 ファーストキスくらいもっとロマンチックにしたかった。

 考えようによってはあれほどロマンチックな状況もないかもしれないけど、せめてお互いの記憶に残るものがいい。



「そっか。ありがとな、玲奈」



 微笑んでくれる遥斗。

 布団からはみ出した手をぎゅっと握ってあげる。


 …少し良い雰囲気な気がする。


 一瞬だけ、口を開こうとしてやめた。


 この気持ちはしばらく閉まっておこう。

 今は…生きていてくれて、守ってくれてありがとう…それだけで十分。


 今度は私から…ちゃんとしたデートに誘ってみよう…。

 私は遙斗に微笑み返した。







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