第17話 殺意
「処刑……だと……?」
「安心してよ、殺さないから。私の兵隊さんにしなくちゃいけないし。でも、殺さなくてもいくらでも辱めようはあるよね?」
リズが指をパチンと鳴らすと、まだ動ける吸血鬼達が集まっていった。
あっという間に玲奈の体を羽交い締めにし、腕や脚もそれぞれ吸血鬼に抑えられてしまう。
「君さ、この娘と特別な関係でしょ?」
「…ただの同僚だ」
「なんだぁ!片思いかあ!そりゃあ可愛いもんね?こんな可愛い顔が恐怖に歪んでいくところを想像すると、昂ぶってきちゃう」
玲奈、と呼んでしまったがために変なスイッチを入れてしまったらしい。
何をするつもりなのか。自由を奪い、吸血鬼たちで囲み…処刑だと?
「じゃあそろそろ始めようかな。『金縛り』解除!」
「『念力』!!……発動しない!?」
「『能力封じ』なんて能力もあるのよ。じゃあせいぜい可愛い女の子として泣き叫んでね」
わざわざ金縛りを解除したリズは能力が発動しない玲奈に高らかに解説している。
『能力封じ』。能力が使えないとなると吸血鬼しかいないこの場では圧倒的に不利だ。
吸血鬼達はリズの号令に合わせて玲奈の服に手をかけた。
…まさか。辱め。まさか、この場で玲奈の女としての尊厳を踏みにじるつもりなのか。
「やめろ!!」
「嫌っ!」
吸血鬼の1人が身をよじる玲奈に構わずシャツを左右に引き裂いた。
覗いた肌色に複数の指が這っていく。
「そんな、いや…!」
「玲奈!…やめろ!こんな事して何になる!」
「君のその顔が拝める!玲奈ちゃんのこの顔が拝める!2人とも最高に歪んだ顔してるよ……」
先程までこれ以上に無いくらいニヤニヤとしていたリズが真顔で俺達を見ていた。
狂っている。
こんな事が許されていいのだろうか。
…動けさえすれば。
玲奈を助けられる。
……本当に?
本当に俺はこの場の全ての戦力を鎮圧する事が出来るのか?
無関係な操られている人たちを犠牲にせずにリズだけを止めることができるのか?
「じゃあ、やっぱりまずはあまーいキスからよね」
「やだ、こんなの、いやだ、……遥斗……」
玲奈の涙で溢れた目が俺を見た。
《殺せばいい》
………全部、殺してもいいのなら。
躊躇うことなくこの身に溢れる力を行使していいのなら。
恐らく玲奈を守れる。
殺せば玲奈を守れる。
なら、殺すしかない。
「…………殺すんだ」
俺は、全身から溢れ出そうなほどの怒りに。いや殺意に。
逆らうことなく身を委ねた。
────遠くから、声が聞こえる。




