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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
水上の楽園編
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第15話 緊急事態

 

「休み中にすまない。緊急事態だ。篠崎を向かわせたから状況は聞いてくれ。俺達も集結次第すぐに向かう」


 珍しいチーフの焦った声だった。

 俺達も出なくちゃいけない事態というと…吸血鬼絡みだ。

 電話がまだ切れないうちに、公園の入り口にけたたましいブレーキ音が響いた。

 窓が開いて篠崎さんの姿が見える。

 ……どうして俺達がここにいると分かったんだろうか…?



「玲奈、行くしかないよな?」


「もちろん。行こう、遥斗」



 頷きあう俺達。

 少しの間失われていた確かな信頼がそこにはあった。







「悪いわね、水差しちゃって。その様子だとあなた達の問題は解決したのかしら?」


「はい、心配いりません。それよりも状況を」


「取り敢えず分かってると思うけど吸血鬼の出動が必要になる事態よ。千夏も連れてきたから吸血しながら聞いて」


「血の提供も…仕事のうちですから…。どうぞ」



 車に乗り込み、またしても凄い音をたてて発進した。


 血を貰おうと向かい合ったまでは良かったのだが、首元をはだけさせた向井さんの肌はあまりにも綺麗で、牙を突き立てるのを一瞬躊躇してしまう。

 玲奈があからさまにため息をつきながら逆側から吸血を始めた。



「千夏はね、自分に遠慮されることが嫌いなの。特に仕事内容ならね。さっさと済ませてあげなさい」


「……分かった。いくぞ」



 牙を突き立てて傷を作り、そこから滲む血を吸う。

 吸血痕、赤い血の痕が玲奈のと合わせて4つも浮くように出来ているのが痛々しい。

 向井さんは本当に遠慮されたことが嫌らしく、不機嫌だった。そもそも無表情なのだが、それでも分かるほどに。



「私に遠慮して、それで死んだりしたら…どうするの…?私の気持ちも、考えて欲しい」


「ごめん。ありがとう、向井さん」


「初心ねえ、夜来くん。結局吸血しながら話なんて出来なかったじゃない」



 向井さんの血が体に馴染み力が湧いてくる。

 篠崎さんが初心とかなんとかからかっているような気がするが気のせいだ。

 それよりも状況を説明してほしい。



「あら、急かさないでもいいじゃない。まあ確かに余裕のある状況じゃないわ。前にあった吸血事件は覚えているわよね?」


「はい。俺の初めてのパトロール中だったので印象的です」


「そう、それよ。それで犯人と思わしき人物のアジトが絞り込めてきたから、吸血鬼である北園英梨ちゃんを含めた班で偵察に行ってもらったの」


「…まさか、緊急事態って…」


「そう。連絡が途絶えた。英梨ちゃんは『金縛り』の能力者。殲滅力は低いけれど事生存に関してはかなりの信頼があったのだけど…」



 死んでしまったか、意識を失っていると。

 それで吸血鬼が様子を確認するしかないわけだ。

 だが、北園さんがやられた奴相手に2人じゃ正直心許ない。



「2人にやって欲しいのは英梨ちゃんが消息を絶った倉庫の偵察と、時間稼ぎよ。恐らく今から一馬が戦力を整えて来るのでは逃げられてしまうわ。迅速に動ける要員が必要だったみたいね」


「ですが、俺達だけじゃ危険が大き過ぎます」


「それは一馬も分かってるはずよ。でも、まだ英梨ちゃんが生き残っている可能性があるのよ。戦闘中ならまだしも、瀕死で放置されていたとしたら救えるのはあなた達しかいない」



 命を救えるかもしれない。

 その一言で俺の中の冷静な部分が引っ込んでいく。

 危険かもしれない。だが、北園さんが救えるかもしれない。

 ならば行くしかないだろう。



「……分かりました。もしも北園さんを確保できた場合、即座に撤退します。それでもいいですよね?」


「それでいいわ。最優先は人命よ。あなた達を含めた、ね。さて、そろそろ着くわよ」



 今度は静かに車が止まる。

 ここから少し先の倉庫らしい。

 俺は玲奈と連れ立って静かに歩き出した。


 倉庫に辿り着くまでには異常は無かった。

 やけに静か過ぎるくらいだ。

 この様子では既に逃げられてしまったのかもしれない。だが逆にそれなら北園さんが瀕死で打ち捨てられている可能性も上がってくる。



 警戒を緩めずに正面入り口から中を覗く。

 中にはコンテナが数個散らばって置いてあり、入り口側のコンテナには人が倒れかかっていた。

 ……北園さんだ。

 生死は不明。ここに倒れかかっている理由も不明。



「遥斗、これは罠よ。近くには敵は居なそうだけど何か仕掛けがしてあるかもしれない」


「かもしれないな。でも、生きてるかもしれない以上確認しなくちゃいけない。玲奈は少し後ろを来てくれ。俺に何かあったら頼む」



 罠の可能性は高いが、躊躇していれば北園さんが死んでしまうかもしれない。

 それならば、俺が生死を確認しに行って何か起きたら玲奈に対処してもらうしかない。


 異変が起きないか観察しながら北園さんに近づいていく。

 公安局の制服のまま倒れている。外傷は少ない。何かしらの能力、それこそ『金縛り』のようなもので動きを封じられているのか、本当に何も出来ずに命を奪われてしまったのか。

 そして、あと一歩で手が届く範囲だ、という時。俺は有り得ないものを目にした。


 北園さんの首筋に。吸血痕がある。



 ──何かの予感に全身の毛が逆立った。



「何か変だ!退くぞ!!」



 吸血鬼の首に吸血痕があるという異常。

 そして脳が全身に訴えた直感。

 それらの状況が反射的に俺を『脚力強化』の全力で後ろに跳ばせた。


 だが、俺の言葉に反応して退がる玲奈は一瞬遅れてしまう。

 跳びながら俺が目にしたのは、玲奈に北園さんが飛びかかる瞬間だった。




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