水上の楽園
せっかくなので一気に2つ。
第0話なのであんまり盛り上がりが無い…。
「特賞!!特賞〜〜!!!」
ガランガランと壊れるんじゃないかってくらいベルが振られている。
当の本人が呆然としているのをいい事に少しずつ野次馬が集まってきた。
曰く、本当に入っていたのねぇ。
曰く、俺も相当数引いたんだけどな。
「兄ちゃん、ついてるね!特賞はあの『ガーデン』への旅行券さ!」
「あ、ありがとうございます?」
「もっと喜んでくれよ!景気悪い!ま、とにかくこれは兄ちゃんのもんだ。有効期限は年内だからな!」
特賞と言って渡されたのは紙一枚。
まだティッシュの方が重い。
だけど、これであの『水上の楽園』へ行ける……らしい。
「本当にこれで行けるんだもんなぁ」
自治体に問い合わせて確認したものの、不安は流石に隠せなかった。
何せあのガーデンだ。
この国で唯一の合法カジノがある島。
金持ちの道楽と派手な都市の観光がメインな為、学生である俺にはまだまだ縁の無い場所だと思っていたのに。
「よし、これで大丈夫です。お待たせしました、ガーデンへようこそ」
島に唯一本島から接続している橋での厳重過ぎる検査の末、ようやく俺はガーデンへと降り立った。
太陽が眩しい。良い天気だ。
来る前にイメージしていた昼間っからネオンがギラギラしているカジノ都市!という感じではなく、普通の地方都市に旅行に来た感覚。
そりゃあ、目の前の通りは広いし恐らくだが高級車ばかりが往来しているが。
「うーん、まずは飯でもと思ったけど最初の店で貯金全部飛ぶなんてのはごめんだぞ…?」
取り敢えず折角の観光都市なので散策しながら現地の人にちょうど良い店がないか聞いてみるか。
できれば、明らかに金持ちっぽい人は避けたい。
庶民的で、優しそうで、ここに詳しそうな人。
「なんて、そんな都合の良い人がそうそういるわけ……」
いた。
いや、いたんだよ。
学生服っぽい装いの女の子。
家族連れか、とも思ったが周りにもそれっぽい人影はない。
1人で木陰のベンチに座っている。
「……あの、何かご用でしょうか」
「えっ」
「道の真ん中で突っ立って見つめられても困るのですが」
どうやら思っていた以上の時間話しかけるか考えていたらしい。
すこし心象は悪くしてしまった気がするが、この際なので聞くだけ聞いてしまおう。
「あー、えっとリーズナブルな飲食店を知らないか?」
「…?あぁ、観光客の方ですか。知っていますよ」
「良かった!大雑把でいいから案内を頼めるか?」
「私もそちらの方面に用事がありますので、良ければ案内しましょう」
その少女は静かに立ち上がるとチラ、と俺を見て歩き出した。
連れて行ってくれるらしい。
「この先を左に曲がった先に商店街があります。そこなら恐らくご期待に添えるでしょう。では」
「わざわざありがとう!」
少し話したらどうやらその子は同い年らしかった。
幸運な出会いにも恵まれ、良い気分で通りを踏み出したその時だった。
「こいつか?」
「そうだ、早く連れて行け!」
「ちょっと、なに!離し……!!」
さっきの子の声。
……事件の匂いがした。