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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
水上の楽園編
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第14話 一緒にいる資格

 


「それで、予定はあるの?遥斗」


「んー、まあ俺が行きたかったけど行けなかった公園があるから付き合ってくれ」


「わかった」



 行きたかった公園があるのは本当だ。

 結構広い公園で、大きな池と貸しボートがある。旅行雑誌によると春先は桜がとても綺麗なんだとか。

 実際に行く前に事件に巻き込まれてしまったのだが。



「ほら、行こう」


「うん」








 その公園は学校からそう離れているわけでもなく、割りかしすぐについた。

 その短い道中ですら特に会話もできずに歩いてきてしまった。

 一緒に出かけてはくれるけどまだ割り切れていないのだろうか。



「…ここは桜の名所って聞いたんだが」


「そうね。池のまわりは全部桜の樹だから。とても綺麗よ」


「さすがに葉が落ちてると寂しいな。貸しボートってやってるかな」


「さすがにやってるんじゃない?ここ、それくらいしかないし」



 大きな池があるってだけで何故だか少しテンションが上がる俺とは違い玲奈はあまり魅力を感じていないようだ。

 確かに地元の人からしたらそうかもしれないが、満開の桜の下をボートでゆったりなんて良さそうだと思うのだが。


 幸いにも貸しボートはこの時期でもやっていた。

 俺がオールを漕ぐ係になって玲奈と対面して座る。

 正直ボートなんて漕いだことは無かったのだが、自分でもびっくりするくらい順調に進んでいった。

 吸血鬼の腕力を変なところで実感してしまう。



「さ、この辺なら誰も聞いてないし玲奈も逃げられないな」


「私は逃げてない。ただ、その……」


「何か事情がある事は分かってるさ。そして、それは俺が別の2つの能力を使えるという事に関係している。だよな?」



「……そうよ。『脚力強化』を使っていたって知った時、まさか、と思った。遥斗が紅姫なんじゃないかって」


「紅姫については知ってる。吸血鬼喰いって呼ばれてる事も」


「遥斗がそんな、人殺しなんてするような人じゃないって分かってるはずなのに、怖くなって」


「そりゃあ、ちょっとでも可能性があるなら怖がるのは当然だろ。友達と言えど殺人の容疑者ですって言われたらビビるぞ」



 仲の良かった奴が夕方のニュースで指名手配されてたら今まで通りに接することなんてできないだろう。

 つまりはそういうことだ。

 疑いをかけらでも持ってしまったら接し方が変わるのは当然なのだ。



「…違う。私が怖くなったのは日常の崩壊だった。私が遥斗を巻き込んだのに。遥斗の身や私自身の身ですらなくて、怖くなったのは周囲の目だった」


「日常が壊れるのは誰だって嫌だろう。あの寮のみんなに迷惑をかけるのも辛くなると思う」


「遥斗はそうやって私を気にかけてくれる。吸血鬼になった時だって許してくれた。でも、でも…私は自分の事ばかりで、遥斗に、申し訳なくて……」



 最後の方は声がかすれてしまっていた。

 俯いて肩を震わせる玲奈の背中をさする。

 相談するにも禁則事項が多過ぎて状況が伝わらないと判断して抱え込んでしまったのだろう。



「そんな事ないさ。俺だって自分のことに必死だし、玲奈も俺のことを助けてくれてる」


「違うの。私はそれすら遥斗なら許してくれるだろうって思っちゃってる。……幻滅するでしょ?こんな私が、遥斗と一緒にいる資格なんてないって、そう思っちゃって……」


「ああ。許す。実際許すんだから幻滅もしない。あのな、玲奈は俺にとってこの島でできた初めての友達で、俺の日常には欠かせない大事な人だ。俺がそう思ってるのに資格がないなんて誰にも言わせるつもりはない」


「……遥斗」



 玲奈が顔を上げた。

 涙が伝ったあとがある。

 俺の言葉がやっと心に届いたような気がした。



「これから、どんなに思い詰めるような事になっても俺は玲奈の味方だ。俺にとっては一緒にいて何か起こるよりも玲奈との間に壁がある方がつらい」


「優しい、ね。遥斗。優し過ぎると思う。……ごめん。巻き込んで、勝手に避けて…心配かけて…ごめん………」


「許すって言ってるだろ。避けられたのはちょっと辛かったけど」


 う、う、と泣き始めてしまった玲奈の背中を静かにさすり続ける。

 やっと、思いは伝わった。

 今考えたら相当恥ずかしい事言った気がするけど気のせいだ。

 玲奈のことを大切に思っているのは本当なのだから努めて気にしない事にする。



「寮に帰ったらみんなに謝ろう。かなり心配してたぞ」


「そうね……。泣いたらなんかスッキリしちゃった」



 涙が残る目元を細めて困ったように笑う玲奈。

 久し振りに笑顔が見れた。

 それだけでもこれだけ頑張った甲斐があるというものだ。



「また、来ようね。桜が咲く頃に、みんなで」


「そうだな。俺は見たこと無いから楽しみだ」



 いつも通りの会話をしばらくボートの上で楽しむ。

 1週間まともに話してなかったので話題は案外事欠かなかった。


 そろそろ帰るか、とボートを岸に向けて漕ぎ出そうとした時。俺と玲奈の電話が同時に鳴った。

 思わず顔を見合わせる。

 2人同時にかかってくる心当たりといえば、公安局しかない。



「高橋だ。休み中にすまない。緊急事態だ」






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