第13話 意外な一面
翌朝って書きたかったんですけど、吸血鬼時間軸だと起きるのって夕方なので朝じゃないんですよね。
なんて書けばいいのか。翌夕?
翌日。
改めて玲奈の部屋のドアをノックしてみる。
さて、どう出てくるかな。
「むー?」
特に何も起こらず寝ぼけた様子の玲奈がドアを開けてくれた。
意外だ。朝(?)に弱かったのか。
いや、もしかしてあのまま結構寝てしまって寝不足なのかもしれない。
「何よ、遥斗が起こしに来るなんて。まだ眠いんだけど……」
「いや、ちょっと聞いてほしい話というか提案があってさ」
「なぁに?起こしてまで言うんだからよっぽどな提案なんでしょうね」
寝ぼけているからか前のようなやりとりをできて少し嬉しい。
つけ込むようで悪いが、この状態でなら多少の話はできそうだ。
「明日、出掛けないか?」
「そんな事で起こしたの?それに明日も公安局でしょうよ」
「休みなら取ったよ。玲奈の分も」
「はぁ?何でそんな事…。まあいいわ。それで、他は誰を誘ってるの?」
「いや、2人で出掛けたいなと思ってるからわざわざ部屋まで来たんだが」
「2人ぃ?ふたり……。ふたり!?」
うろんげだった彼女の態度が、一瞬何かを考え込み、驚いて目を見開くところまで変化していった。
正直ここ最近で1番面白い玲奈の一面だった。
こんなに感情の変化が顔に出ているところを見たことがない気がする。
「2人っきり……どうして私が遥斗と出かけなくちゃいけないのよ?」
「……お互いに、話があるだろ。来てくれるよな?」
「…………分かった。明日、ね」
驚いて眠気が覚めたのか、最近の玲奈の様子に戻ってしまったようだったが観念はしてくれたようだ。
取り敢えず一安心して共用ルームへ向かう。
既に起きていたのか空蝉さんがニヤ〜っとこっちを見ていた。
「デート、行くんだ」
「デートじゃない」
「2人っきりで出掛けようって誘ったんでしょ?」
「…そうだけど」
「デートじゃぁん」
空蝉さんが更にニヤニヤとしていく。
正直努めてデートに見えてしまう事を気にしないでおこうと思っていたのに。
玲奈は贔屓目に見なくても美人だ。
赤みがかかったような長い黒髪、筋が通った鼻や少し大きい目。華奢だが決して小さいとは言えない胸。
そんな美人とデートだと意識してしまうと普通に緊張しそうで怖かったのだ。
「あんまり茶化さないでくれ。俺は玲奈とちゃんと話をしたいって誘ったんだ」
「だってよ、れな?」
「その通りよ?別に私はそれってデートじゃん、とか全然思ってないから。すぐデートだって騒ぐほど子供じゃないの」
いつの間にか玲奈が共用ルームに来ていたらしい。
顔も洗ってきたようで完全にいつも通りの様子でやれやれと肩をすくめている。
顔さえ赤くなっていなければ完全に大人の女性って感じだったのだが。
これ、もしかして玲奈も案外色恋沙汰に耐性無いな?
「そうなんだ〜〜〜、デートじゃないなら2人で出掛けるってことみんなに言っても大丈夫だよね?」
「もちろんよ」
「いや、別にいいけど玲奈って結構乗せられやすいんだな」
これもまた意外な一面だった。
少し今まで通りの会話ができるようになったかな、と淡い希望を抱いていたのだが学校や公安局では相変わらず避けられてしまった。
デート騒ぎのせいで友人として避けられている辛さと男として避けられている辛さの二重苦を味わうことになった。
正直結構こたえたが、明日の為にも準備をしておかなくてはいけない。
更に翌日。
学校の方は相変わらずあるので、玲奈となんとなーく気まずい空気感で過ごしていた。
空蝉さんはニヤニヤしているし、西宮さんにはがんばってください!って言われるし、向井さんまでチラチラと俺や玲奈を見ていた気がする。
放課後までそんな感じが続き、果てには
「玲奈ちゃん、夜来くん、私そういうのあんまし分からないけど、ちゃんと付き合うってなったら報告してね!寮長としてそういうのは把握しとかないとだから!」
と鏑矢さんに捨て台詞までもらってしまった。
「れ、玲奈。行こうか」
「えぇ。……先に言っとくけど私はその気はないから。遥斗とはただの友人」
告白してないのに振られたぞ。
何度も言うが顔さえ赤くなければ要らない期待を持たせない大人の女性なのだが。
逆にその態度が俺の肩の力を抜けさせてくれた。
「それならそれでいいさ。寧ろ、それだけ避けてて友人と思ってくれてる事に安心した」
「……そう」
俺はまた素っ気なくなってしまった玲奈を連れて昨日のうちに調べておいた観光地っぽいところへ向かうのだった。




