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俺、吸血鬼になったってマジ?  作者: 紅茄子
水上の楽園編
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第12話 俺は殺してない

 


「…吸血鬼を、食べる」


「そうだ。まあ、比喩的な表現の可能性を捨て切れはしない。だが基本的には同族殺しの忌み名はついて回ることになるだろう」


「で、でも!俺は誰も殺してなんて!」


「そうとも。君は君自身が紅姫でない確実な証拠をしっているじゃあないか。つまりは現状他の特別な能力か、吸血鬼にされた事で起きた何らかの異常の可能性が高い」



 そうだ。

 吸血鬼を喰う、もしくは殺してその能力を奪うのならば誰も殺してないのに複数の能力が使えるのはおかしい。



「とは言っても沖田君のように早合点してしまう人の方が多いだろう。複数の能力が使えた話は人にしない方がいい。それについては僕が調べておこう」


「お願いします。ありがとうございました」



 紅姫についての話と、俺が怯えるような目で見られた理由は分かった。

 だが、俺が誰も殺していない事は誰よりも玲奈が知っているはずなのだ。

 この島に来てから、吸血鬼になってから1番時間を共に過ごしているのは彼女なのだから。


 なのにどうして俺を避けるのか。

 どうして晴れない顔をしているのか。



「さて、どうやったら玲奈は俺の話を聞いてくれるんだろうかね」









 柏原さんの検査で学校を休んだ俺は真っ直ぐに公安局へ向かった。

 もう玲奈や鏑矢さんは来ているみたいだ。



「あ、お疲れ、夜来くん!」


「悪いな、遅くなって。玲奈は?」


「やっぱり、同じ班は嫌みたいで別の人とパトロールに行っちゃったよ…」


「おい、夜来。アレはどうにかならんのか。かれこれ1週間もあの調子だぞ」



 鏑矢さんさんとの会話にチーフが割り込んできた。

 仕事に私情は持ち込むな、が口癖の高橋チーフが辟易しているのは初めて見た気がする。

 基本的には一喝して私情を捨てさせるのが常なのだが、玲奈はひたすら謝るだけなのだという。

 というか、どうして皆俺にどうにかしろって言うのだろうか。

 俺としてはどうにかしようと思っているからいいのだが。



「チーフ、明後日に休みを頂けませんか」


「ダメだ。吸血事件の他にもヤマはいくつもある。この時期に吸血鬼を遊ばせる余裕は無い」


「その遊んでる吸血鬼をどうにかするのに欲しいんです。お願いできませんか」


「……あー分かった。背に腹は変えられん。沖田はあれでウチの重要な戦力だ、頼むぞ」



 チーフは重要な戦力だ、とか人を物のように表現することが多く最初のうちは少し思う所があったのだが、今はただ口下手なだけなんだと分かってきた。

 要するにこれでも心配しているのだ。

 結局休みをくれたのがその証拠になっている気がする。


 ただ、今の時期が人手不足なのは確かだ。

 今日はもう玲奈も出発してしまっているし少しでも仕事を減らしておこう。










「ただいま」


「おかえりなさいです!玲奈さんはもう帰ってきてお部屋ですよ!」



 帰りも玲奈とは一緒になれず、鏑矢さんと帰ってきた。

 西宮さんが用意してくれたご飯を食べる前に玲奈に言っておかなくちゃいけないことがある。


 沖田、と書かれたドアをコンコンと叩く。



「玲奈?いるか?」



 返事は無い。

 まさか狸寝入りか?

 寝るには少し早い時間だ。

 意図的な無視であれば多少は強行しないと話を聞いてもらえないかもしれない。



「玲奈ー?いないのか?開けるぞー?」



 鍵がかかっていなかったドアは簡単に開いた。

 玲奈の部屋は全体的に白か薄いピンク色で統一されていた。

 大きな本棚とベッド、それに色々コードが繋がったパソコンとその前に突っ伏している玲奈。



「お前、こんな時にうたた寝する奴があるかよ…」



 結構な一大決心をしてきた身としては肩透かしもいいところだ。

 そのまま寝入って風邪でも引いたら面倒なので少し部屋の中に入って毛布を拝借、玲奈の肩にかけた。


 その時に視界に入ってきたPCの画面。

 そして、玲奈がうなされるように呻き声と共に漏らした言葉。



「ごめん……遥斗……」



 やっぱり、俺に怯えてるんじゃない。

 何かを負い目に感じているんだ。

 今日提案しようと思っていたが、本当に寝てしまっているし明日の朝にしよう。


 俺は玲奈に2人きりで出掛けようという提案をするつもりだった。

 受けようによってはデートとも取れる誘いを。



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