第9話 パトロール
「よ、よし!パトロール頑張るよ!」
「見回りくらいだけどね。遥斗、騒ぎとか喧嘩の仲裁とかも仕事のうちだから」
「はいよ。まさか誘拐事件なんてそうそう起こらんだろうし」
何とか気を取り直した俺達は繁華街の見回りを再開した。
このパトロールの目的は、繁華街の治安維持と重大犯罪の抑制。
カジノや酒場がある以上、多少のゴタゴタや酔っ払いの絡みは存在してしまう。
それらの処理と玲奈の囮捜査のような事件が本当に起きないように目を光らせるのだ。
「そういう事。ただし、万が一自分の手に余る事態や事件に遭遇した場合はすぐにチーフに報告するのよ。現場判断で動かなくちゃいけない時でも着信だけでも入れるように心がけて」
「分かった。その必要はないと分かっていてもそんな話されると緊張するな」
「大丈夫!夜来くんは私達が守るから!」
鏑矢さんが心強い言葉と共に腰のホルスターを軽く叩く。
素人目に見ても普通の銃ではないことが分かるくらいにゴツいものだ。
拳銃の範疇ではあるんだろうが、改造され過ぎて原型がなんなのかさっぱりわからない。
そんなこんなで軽く雑談もしつつ、たまにいざこざを沈めつつ、繁華街の3分の2ほどを回り終えた時だった。
見えたのは明らかに不自然な人だかり。
…出番だ。
「公安局です、少しどいてもらえますか」
素直に割れていく人だかりの中心には人が横たわっていた。
気を失っているようだ。
流血、外傷は無い。たった1つ、首元の吸血痕を除いて。
「吸血…!」
「玲奈、この人に他に様子がおかしい所がないか調べてくれ。鏑矢さんは救急車を呼んでくれ。俺はチーフに連絡する」
「分かった、チーフに篠崎さんへの協力要請もお願い」
「了解なのですよ…まさか夜来くんの初日にこんな事件が起きるなんて…」
「被害者は気を失って入院中。相手は吸血鬼である可能性が高い。捜査の担当者は常に吸血を許可する。沖田を筆頭に明日から捜査開始だ」
急遽実務班員が招集され、チーフから概要の説明がされた。
正直監視カメラ等の解析が進まなければ容疑者も絞れないので、しばらく情報収集とパトロールを同時にやるような捜査になってしまう。
解析や機械を使った捜査は工作班の領分なのだ。
「繁華街で白昼…ではないが堂々と吸血事件とは公安局の沽券に関わる。気合い入れろ。分かったな」
「「 はい!!」」
初仕事がとんでも事になってきてしまった。
その日はもう時間も無い為一旦解散となり、本格的な捜査は明日からとなる。
今日はしっかり休んでおかなければ。
「ただいまー」
「……」
吸血鬼の生活時間の中心は夜中の為、夕方に起きて明け方に寝る。
そして事件の処理をしていた俺達が寮に帰ったのはもう明け方というより朝だった。
つまり、西宮さんや空蝉さんは寝てる時間帯なのだ。
「すぅ……すぅ……」
「もしかして、西宮さん待っててくれて寝ちゃったのか…?」
「いつもいいって言ってるんだけど…ね。咲良は変なところで頑固だから」
ダイニングでラップがかかったおかずと共に寝てしまっている西宮さんが俺達を出迎えてくれた。
寮生がみんな揃うような食事、つまりは夕方のごはんは西宮さんが率先して作ってくれるのだが、まさかそれぞれ仕事がある日の朝ごはんまで作ってくれているなんて。
「ありがたく頂いてから寝ようかな」
「そうだね…。おいしそうだし!」
「じゃあ先に咲良を部屋に運んでおくから。料理あっためといて」
今度からはなるべく早く帰ってこよう。
そう心に決めた俺は温まった料理を口に運ぶのだった。




