95-迷惑な冒険者
大嵐が消滅し夜が明けて快晴となった。甚大な被害にはならなかったが、若干数の負傷者と陣にも被害が出た。各隊は、その後の再構築に追われていたが、大嵐を自身たちの手で退けたこともあり、皆疲れはあるものの高揚していた。嵐を退けた時に、魔海島の一部に上陸させる事に成功した為、葵達は、海上騎士団の一部と共に偵察を実施する目的で、海上騎士団の船へと乗船することとなり、魔海島の近海1キロまで接近してた。カトラスが葵達に指差し声をかける。
「あのあたらりが嵐が上陸した島の南側になる」
「見る限りでは、かなりの被害のようだな」
白檀が見た感想を漏らす。それに海上騎士団の団長が答える。
「整備されてない島ですからね。魔族達にどれだけ被害が出ているかですね」
「支獣を接近させて様子を見るか、クー、柊支獣を飛ばしてくれ!」
「了解」
「承知致しました」
3匹の鳥形支獣が羽ばたき空に飛び立っていく、白檀が梔子と柊に指示を出す。
「クーは北側、柊は中央を確認してくれ」
白檀は支獣と視覚を同期し、すぐに舌打ちをする。
「チッ!馬鹿な奴らがやっぱりいたか…」
「どうしました?」
「冒険者が船で上陸しようとしている。咲・花すぐに陣に戻り、環へ報告して、冒険者組合に行って点呼とれ!」
「了解!」
白檀から指示された咲と花は、花の支獣のユニに乗り陣へと戻った。次に白檀は葵とマノーリアへ指示をだす。
「葵とマニーは、冒険者の上陸を許すな、オーレが戻ってきたら俺もむかう」
「了解」
葵とマノーリアは支獣へまたがり、空へ駆けあがる。マノーリアが葵に声をかける。
「葵くん!あそこ!」
マノーリアが指差したところに船がいた。
「マニー急ごう」
「うん」
葵とマノーリアは支獣を急降下させて船へと近づく。船の前に出て、マノーリアが声をかける。
「わたしは、ロスビナス皇国 騎士団 騎士長の如月マノーリアです。この島は立ち入りを禁じられています。何用で上陸しようとしていますか?返答によっては拘束いたします」
マノーリアがそう言い放つと、冒険者のリーダーらしき男が前に出てきて答える
「俺たちは、冒険者パーティーのウイングスだ。俺はリーダーのアインだ。悪いが見逃してもらえないだろうか?」
「理由は?」
「あの船だよ!」
アインの指さす先には既に人の乗っていない船が接岸している。
「あの船は?」
「実は、冒険者パーティーの一部が嵐が直撃して、魔族が弱っているから、上陸しても問題ないと思ったバカがいてな、俺達は引き戻す為に来たんだ。さっき、船から降りたのを見たから、まだ奥には行ってないから連れ戻したい」
「上陸したのは、何人ですか?どの程度のランクの人達なんですか?」
「約20人だな。AランクパーティーとBランクがほとんどだ。おそらく、Aランクの連中にそそのかされたんだろう」
この世界の冒険者にはランクがある。上から、S~Eランクがあり、依頼達成によりランクを上げることができる、依頼以外にもモンスターを狩ったり、ダンジョン探索などで、難易度の高い経験値を積むことで、ランクが上がることとなる。今回も魔海島は守星連盟により立入を禁じられている為に正式な依頼はないが、魔海島の何かしらを持ち帰れば、経験値を冒険者組合で得られるので、自身を過信した者は侵入したいと思う事が多い、しかし、それを想定していた冒険者組合も一部の冒険者を臨時依頼して警備していた。アイン達は今回の冒険者でもっとも高ランクパーティーのウイングスである。ランクはAランクである。今現在、Sランクのパーティーは存在しないので、アイン達はAランクの中でも経験値が高い為、ハイランカーとして、冒険者の中では有名なパーティーである。葵も合同訓練で見覚えのある顔を何人か船の上に確認した。葵がアインに尋ねる。
「特務騎士の神無月です。アインさん既に上陸した冒険者に女性はいますか?」
アインはその質問に、眉をひそめつつ、名簿に目を通しながら答える。
「6人はいると思う。女がいるとまずいのか?おたくの騎士長も女性だが、男女の力量は関係ないと思うがな」
この世界は男女による差別はない、魔法により肉体的な差は埋められ、亜人耳の能力により、男女の力量に差はないからだ。マノーリアが補足する。
「この魔海島にオーガがいる可能性はご存じですか?」
「まあ、オーガはいるかも知れないが…」
アインは、はたとその意味に気がつき言葉にする。
「繁殖に使われるって事か?」
「そうです」
オーガは元々人である。オーガはオスしかいない、何故ならオーガが、人を襲う時に男は噛み殺し、女は犯される。そして、女はオーガの子供に腹の中から、食い殺される。噛み殺された一部の男が、オーガとなる為にオーガはオスしか存在しないのだ。マノーリアが続ける。
「もし、オーガの群れに出会して、女性を守り抜いて、倒すことができますか?」
「それは、無理だろうな…」
アインは冒険者達は殺され、女性冒険者達が犯される事が想像できたのか、返答が早かった。葵はアインという男には好感がもてる。冒険者は、虚勢と勢いだけで突き進むような人が、多いと思っていたが、アインは自分達の実力とリスクマネジメントをしっかり考えられているからだ。そこに、白檀が追いつき話しに加わる。
「ウイングスか話が早そうだな」
「白檀!」
「知り合いですか?」
「まあな」
「白檀!頼む今なら、あいつらを連れ戻すことができる!」
白檀は頭をかきながら思考する。
「たくっ!しょーがねーな!仮ひとつだぜ!けど、条件がある!」
「なんだ!」
「お前んとこの女は行かせられねぇ~」
「彼女達のふたりはうちの前衛だぞ!行くなと言っているようなもんだろ!」
ウイングスは8人からなるパーティーで、うち3人が女性である。しかも、ふたりは戦士風の犬耳女子とくノ一風の猫耳女子だ。白檀がやれやれといった感じで話を続ける。
「だから、俺達が同行するってわけだ」
「な、何?…」
「それなら、良いだろ?加護持ちが着いていくって言ってんだよ!」
「白檀が来てくれるのか?」
「3人共だよ」
アインは心強いと思うがマノーリアを見てから答える
「彼ならまだわかるが、騎士長も女性だぞ!」
「マニーは別だ!オーガどころか男で近づけられるのは、となりの葵くらいだろうよ!」
「白檀お兄様真面目な話の時に!」
マノーリアが顔を赤くしている。白檀は気にせず話を続ける。
「アインはこいつらの名前に聞き覚えないのか?葵はデイト・ア・ボットの加護持ちで、マニーは助力を得ている。申し分ないだろ?」
アインはそういえばと表情に浮かべる。白檀は首をコリコリと鳴らし口を開く。
「納得したなら、行くとしますか?小舟出せ、この船はここで待機しろよ、海上騎士団の船をこちらに向かわせるからな」
「わかりました」
船員が白檀に答える。マノーリアが白檀に尋ねる。
「良いんですか?勝手にこんなこと…」
「俺は一任されてるんだ。良いだろ?島に着いたら、オーレに船に向かわせるさ」
こうして葵達は魔海島へと急遽上陸することとなった。
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