94-鎮魂歌(レクイエム)
自身の力を限界突破させる代償は、自我を失い敵味方を関係なく、襲い狂う荒ぶる神となる事。眷属神カーラステノーグは、守星の為にその道を選んだ。女神アマテウスがいれば鎮める事もできたのかも知れないが、カーラスが荒ぶる神となった、後に、アマテウスも邪神と共に眠りにつくこととなった。荒ぶる神となったカーラスは本人の意思かは不明だが、大陸に遠ざかるように海に去っていった。古い伝承や海岸沿いの町の伝説では、大地をひっくり返す程の大嵐があった事が、記されていることがあるが、それが、荒ぶる神のことなのか自然現象の嵐かまでは不明である。この世界の人々の記憶や歴史にないことから、この大陸に上陸したことは、守星大戦後はなかったのだろう。そして今、荒ぶる神の爪が同志であった眷属神デイト・ア・ボットの防壁すらも破壊し、上陸しようとしている。15万人の集結した力によって軌道を変えて、進路を魔海島へ移しかけた瞬間に、大嵐のコアがまがまがしく光り、力を取り戻したのだ。一度は、心が折れかけた、女神アマテウスの代行者環であったが、白檀の支えによって、今も尚、鎮魂の祈りをささげている。デイトが破壊された防壁へ近づき修復を試みるが、嵐の近くはデイトでも吹き飛ばされている。その時、海に突き出していた防壁が、完全にガラガラと崩れていった。防壁の石が海に沈み、岸に津波のように波が押し寄せた。岸辺にいた兵士たちが避難をはじめ、上陸が確定的となり、皆、悲痛と落胆が混じったような表情をし、作戦失敗による避難指示がよぎった時、大きなハヤブサと薄いピンク色のユニコーンが現れた。梔子の支獣ユキに梔子、麻衣、アマナが乗り、花の支獣ユニに花と咲が乗って防壁まで来たのだ。麻衣がすぐにユキから降りて嵐に向かって叫ぶ。
「あーーーーーーーーーーー!」
麻衣が発した声だけで嵐が少しだけ停滞したような動きを見せた。その姿を見たマーレから声が漏れる。
「え?マーメイドボイス…なぜ彼女が…しかも、段違いのレベルだわ…」
マーメイドボイスとは、人魚の能力で声で相手を攻撃する能力で、今回、麻衣は障壁を作った。麻衣が振り向き環に声をかける。
「皇女様!まだあきらめないで!あたしも歌う!あの嵐だって元々良い神様なんでしょ!だったら絶対に気持ちは通じる!」
麻衣は嵐に向かい歌い始める。アネモネを見送った時のあの曲だ。麻衣は命綱なしで、防壁の海側に歩き始めたので、葵が自分の体と麻衣の腰に綱をまく。さらに咲と花も海側にかけていった。
「花~行くよ!」
「お姉ちゃんいつでもいいよ!パパよろしくね!」
「ヴァルアブル!!」
ふたりは互いのダガーを取出し鞘の文様を合わせ、防壁から飛び降りる。すると空中で赤と青の高スチームが発生し、周りに充満する。巨大な悪魔のようなモンスターを顕現させ、嵐の上陸を阻止するように立ちはだかる。デイトが叫ぶ。
「その手がありましたね。咲さん花さん手を貸します」
デイトは手を大地にかざすと巨大なゴーレムを2体出現させ、ゴーレムも嵐の前に立ちはだかる。環も麻衣の横へ立ち、鎮魂の祈りと歌を荒ぶる神に捧げる。マノーリア、梔子は風魔法、アマナは精霊術で風を生み支援する。各眷属神の代行者たちも持てる力を嵐にぶつける。信治は他力本願のワンドで嵐を弱体させる。
「いけー!」
「カーラス様!鎮まりください!」
白檀が葵に提案する。
「俺たちの破壊力で起動ずらすぞ!」
「わかりました」
「マニー!環と麻衣を頼むぞ!」
マノーリアとアマナが駆け寄り2人を支える。
「よっしゃー!ぶちかますぞ!」
「さすがに疲れましたよ!これで終わりにしますよ団長!」
白檀と葵は防壁から飛び降りて2人とも剣技を放つ
「うりゃー!大火筒突き」
白檀は火筒突きの上位技を3連撃放ち、爆炎が3度嵐の真横で発生する。
「ロックブラスティング!」
葵は今まで使用してこなかった、上位の範囲攻撃であるロックブラスティングを紫炎をまといながら放つ、ブロードソードを大地へと突き刺す。すると広範囲に爆発が起きる。すると、嵐の渦が陸地から離れ魔海島へ進路変更する。
「そのまま進め~!」
「いけー!」
嵐は魔海島の南側を直撃しそこで霧散する。魔海島の上空で赤い閃光を放った後で淡く柔らかい緑の光へと変わる。そしてその緑の光がふわふわこちらへと向かい、白檀とデイトの周りを一周して環の金剛杵の宝玉へと入っていった。空は台風一過の日のように高い青空と柔らかな南からの海風が吹き始めた。環が勝どきを上げる。
「荒ぶる神の鎮魂に成功しました。大嵐はもう消滅し、眷属神カーラステノーグ様の魂は宝玉でお休みされています」
それを聞いた15万の東方国連合軍の兵達が歓喜に声をあげる。
「大嵐を退けたぞ!」
「生きてる!生きてる!」
「やったー!」
「酒だ!酒だ!」
「俺たち荒ぶる神の爪に勝ったんだ!」
国や種族に関係なく周りの者たちで作戦の成功と生きている事に互いに祝福の賛辞を送りあう。環が麻衣の手を取り礼を言う。
「麻衣さんありがとう。あなたの歌がなければ危うかったわ」
「いえ、アネモネが歌えって言ってた気がしたんで…」
「さあ、お疲れでしょう?下に戻って休息を取りましょう」
「環さん。まだ、終わってません」
麻衣はそう言うと防壁の陣側に歩き始め歌い始めた。彼女が人気の頂点に達した時の歌を歌う、それは人種を超えて平和な朝を迎えよう的な内容歌詞で、実際に世界的なヒットとなった曲だった。その歌を聞いたこの場にいる者達もその歌声に癒されるのであった。
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