93-鎮魂
暴風域に入り、風もビュービューと音を立てるようになり、雨も頬に打ちつけるように横殴りになってきた。葵達によって作られた、50メートルの高さがある防壁の上では、立っているのもやっとなほどの強風が吹き荒れている。神々の代行者達は、防壁の上にデイトが作った退避壕から、腰に命綱を巻き結界をより強固なものへする為に力を注いでいる。命綱をつけずに平然とたっているのはデイトだけだ。デイトは、そもそもこの大陸最標高の霊峰なので、飛ばされるわけがない。今は小高い丘が2つあるだけの、少女の姿をしているが実際は見た目以上に重いが重力操作をして調整している。気象文官達も命綱を巻いて大嵐を必死に観測をしている。デイトも観測をしているのか、じっと大嵐を見ている。
「後、30分で最大風速域に入ります。全部隊に伝令してください」
デイトの解析により、最接近時間が告げられる。白檀と葵、マノーリアも到着する。白檀と葵もこの程度の暴風であれば影響はない、マノーリアはグラビティコントロールで自身の重力操作し耐えている。横殴りの雨で視界が悪いが3人は目をこらして嵐を見る。
「あそこが嵐の中心か?」
白檀がそう声を漏らす。葵にも見えた、嵐の中心は海水を吸い上げて上空にまき散らしている。更にその中心には、赤くまがまがしく光るものが中心に浮いている。その場にいた全員が視認するとデイトが口を開く。
「あれがカーラスのコアです。本来であれば緑の輝きをしているはずですが、荒ぶる神となり、あのような色になっています。環さんカーラスを鎮魂させてやってください」
「承知いたしました」
環は退避壕から出て金剛杵を水平にかまえる。環の金剛杵収縮するようで、今は1.5メートル程度あり、爪の部分に浮かぶようにあった金色と黒色の宝玉が,
爪が外に開きソフトボールくらいに膨らみ浮いている。環が祝詞を唱える。白檀が声をはりあげる。
「来るぞ!」
大嵐の最大風速域に入った。防壁に風があたり地響きのようになり、地震のような揺れが生じる。暴風雨で打ちつける風と雨の音以外がかき消される。デイトが周辺の皆の脳へ直接語りかける。
「徐々にですが、軌道が東側に動いています。このまま耐えれば進路を魔海島へ移せます」
防壁へ吸い上げられた海水が打ちつけ、防壁の外側をガリガリと削っていく、デイトと葵とマノーリアが損傷した防壁をすぐに補修する。
「直しても直しても、クソ!」
眷属神の力とは言え、暴風雨の中繰り返しの地道な作業に苛立つが、手を休めるわけにいかない。疲れが見え始めた頃、黒い影が降り立つ柊の支獣だ。柊と信治が2本のワンドのような物を抱えて現れたのだ。信治がワンドを両手に持って叫ぶ
「これで、成功したらチート武器だ!」
「信治!その杖はなんなんだ!」
「葵くんがさっき言ってたみたいに、天候操作のアイテム作ってみた!」
「は?」
「名づけて、他力本願のワンドだ!」
信治の説明によると、天候操作の魔法があったアニメの、キャラクターが使用していたワンドのコピーだが天候操作しかできない。2本あるのは信治の記憶で天候操作魔法があった作品がふたつあったので両方作ってみたそうだ。ワンドも魔法自体がコピーだから、他力本願の名の由来だそうだ。信治がワンドを嵐に向ける。
「他力本願1頼むぞ!」
ワンドから淡い光が放ち周辺を白く染める。大嵐の渦の回転が少し緩やかになるが、霧散することはなかった。
「クソ!他力本願2次でかき消してくれよ!」
信治がもう一本のワンドを大嵐に向ける。一瞬嵐が消えかけて再び渦を巻く瞬間突風が吹き荒れ、一番前方にいた環が吹き飛ばされる。
「キャー!」
「環!」
すぐに白檀が気がつき環を抱きかかえる。
「大丈夫か?」
「ありがとうございます。白檀さん」
「あ、おう、しっかりな」
「白檀さんお願いがあります」
「なんだ」
「わたしを支えていただいてよろしいですか?さすがに、この暴風雨で立っているのが、わたしには厳しいようで…」
「わかった。支えてやるから頼むぞ」
白檀は環の後ろに立って環の腰に手を回して、環を抱えるように抱く。
「白檀さんあったかいです」
「たまき、いいから集中しろ!」
「はい、こんな時でなければ、白檀さんとこんなことできませんから、少し嬉しくて…」
「わかったよ」
環は白檀のぬくもりを感じて気合が入ったのか、改めて金剛杵をかまえる。信治が他力本願ワンドで何度も大嵐を弱体化していると風魔法で作られた気流の流れに軌道が乗り始めた。環が荒ぶる神となったカーラスを鎮魂させれば終わる。デイトが叫ぶ。
「カーラスよ!もう鎮まれ!女神の民を貴様は殺す気か?お前は何の為にここへ来た!いい加減鎮まれ!」
環が祈りをささげていると大嵐の中心にあるカーラスのコアが眩い赤い光を放つ、すると弱まっていた勢いが元に戻り防壁沿いをガリガリと削り始める。
「わたしの力はまだまだということでしょうか…」
環が弱音を吐く
「まだ、そうとは言えないだろ、あきらめるな…俺が支えてやる」
白檀が環の耳元で優しい声音で鼓舞する。
「はい…」
しかし、大嵐の猛威は弱まらず、防壁の延長し海に突き出した辺りに激突して防壁を破壊したのだった。
「まずい、あの位置ではまた上陸されかねない」
皆の思いが届かないまま、荒ぶる神の爪は眷属神デイトの強固な防壁を破壊したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
引き続き次話をお読みいただければ幸いです。
よろしければ、評価とご感想をちょうだいいただければ励みとなりますので、よろしくお願いいたします。




