91-荒ぶる神の渾身の爪
その嵐は大陸に向かって、どんどん成長しているのが目視できた。海から海水を餌に巨大化し、大暴れしながら向かってくる。いつも穏やかな海が荒波をたてている。温暖化の影響で、最近日本でもスーパー台風なんて言われ方をするようになったが、気象に詳しくない、葵にだって、あれが経験したことのない嵐だとわかる。それは、兵士達も同じで、各隊で指示がいたるところで飛び交っている。その声が怒号で、あの嵐が未曾有の大嵐だと知らしめている。
「結界準備!魔導師隊を集結させろ!」
「地竜と飛竜達を竜舎へ連れていけ!吹き飛ばされるぞ!」
「気象文官にすぐに来させろ!ぶん殴ってやる!」
気象担当の文官らしき人物達が数名やってきて、海上を確認して息をのみ、ひとりが声を荒げた。
「あれは異常です。こんな時季に嵐がくるなんて!この辺りの海水温だってまだ低い!」
「現に嵐が迫って来ている!嵐が来ているのが分ければ、この作戦の日程だってずらせただろうが!」
気象担当の文官の言うとおり季節外れの嵐だ。しかもかなりの大きい嵐だ。今は5月の半ばで、晴れれば、初夏を思わせる日差しが降り注ぐが、真夏のような暑さは夕方にはどこかに行き、心地よい風吹いてくる、1年で一番気持ちいい季節なのだ。嵐が来るシーズンは、後2ヶ月先くらいだ。
「後、10時間もすれば、ここに上陸するぞ!」
この世界の嵐の中でも最強クラスの嵐が迫ってくるようだ。今から退避しても逃げられない為、防風対策でしのぐしかない。葵達がその嵐を見ていたそばで、デイトが駆け寄ってきて、嵐を凝視したままたっている。葵が声をかける。
「デイト様?」
デイトは葵を手で制止して嵐の観察を続けひとつの答えをだす。
「あれは自然現象ではありません。民の防災対策では、甚大な被害が出ます」
「デイト様あの嵐の正体がお分かりなんですか?」
環がデイトに尋ねる。
「あれは、眷属神カーラステノーグが最後に放った大技の代償です」
デイトの説明によると、守星大戦時末期に、大気創成した眷属神のカーラステノーグが、放った大技であるという、カーラスは魔族と闘うために、自身の創造した眷属と翼有人種と鳥人人種を引き連れ戦い全滅した。カーラステノーグは、自身の命と引き換えに、荒ぶる神となり、あの大嵐を生み出し邪神へ立ち向かったが、邪神はダメージを受けたものの倒すことはできなかった。しかし、荒ぶる神が生み出した大嵐は消滅することなく、この星を彷徨い続けている。デイトが当時を思い出すように語り締めくくる。
「カーラスは荒ぶる神となる前に、『わたしの作る嵐からデイトと鳳凰で民を守ってくれよ』とアマテウス様の制止を無視して邪神に挑み犠牲になりました」
白檀の表情が代わり鳳凰となり口を開く。
「カーラスの思いを無駄にするわけにはいかんな、デイトよ」
「そうだな!鳳凰!」
眷属神ふたりは決心したようでデイトが指示をだす。
「あざみさん、葵さん、マノーリアさん、わたしと防壁を作るのを手伝って下さい」
「了解!」
「環さん、女神の代行者としてカーラス…いえ、荒ぶる神を鎮めるのはあなたです。あなたが力を見せる時です」
デイトはいつもとは違い、少し強い口調で環に伝える。環もデイトに強い意志を目に宿しうなずく。デイトとデイトの力を有する、葵、あざみ、マノーリアが岸沿いに石の壁を築く、土魔法を使える者が魔導師を中心に、大雨に備え、水害を防ぐ為水路を確保する。国、隊関係なく、嵐に備えここにいる全ての者が、協力して防災準備に力を使った。そして、大嵐を確認してから、6時間が経過した。皆に疲れが表情に出てきた頃、準備がほぼ完了している為、1度全体で食事と休憩とした。陣の上空も黒い雲に覆われ、嵐が近づいていることを認識できる、しかし、嵐がくる時は湿った南風が吹きはじめるが、今は無風である。それは、南側に高さ50メートル幅1キロ厚さ10メートルの城壁がたった6時間で完成された。その場にいる者は神の偉業と称えた。実際に神のひとりである、デイトが中心に作ったので、間違いではない。皆が順に食事をとり、仮眠をして疲れを回復させる。大本営のテントもなんとなくくらい、準備はしているものの、これであの大嵐をしのぐ事ができるのか、誰もが不安なのである。嵐の力を知る、デイトの指示で準備をしたので、しのげると信じたいのだが、未曾有の大嵐なので不安になるのは仕方がない。葵はふと奇策を思いつき、葵は魔法でどうにかならないか思考する。ここには、15万人規模軍があり、そのほとんどが、何かしらの魔法を使える。しかも、魔法を専門とする魔導師や魔法師も万単位でいるのだ。葵は日本の9月辺りの天気図を思い浮かべ、思考が口から漏れる。
「太平洋高気圧が弱まり…大陸からの空気が流れて日本の上空辺りが境で…日本に向かう台風の進路になる…だったか?」
思考する葵にマノーリアが気づいて声をかける。
「葵くんどうしたの?」
葵が自身の中で納得したにか、デイトに声をかける。
「デイト様あの嵐を魔海島に軌道を反らせないですかね?」
「軌道を反らす?」
「神の作った嵐でも、そのエネルギーの源が水温の高い海水だから、あまり大陸に接近してなかったと思うんです。今は海から嵐が進路を進みやすい、でも、過去に経験がないということは、季節的気圧変動で進路を決めているわけではない、基本的には水温の高い地域を移動していた、嵐自身の意志で……。今回、ここに向かってきたのは…」
「カーラスの意志…荒ぶる神となったやつが手を貸すと…」
「そこまではわからない。けど大気によって生み出された、嵐なら軌道を変えることは、この世界ならできるかな?くらいなので確証はないですけどね。嵐への準備はしたから、後は、軌道を変える為の準備すれば、ダメ元です」
魔族との戦いを目前にして、元眷属神カーラスが守星の為に放った、荒ぶる神の爪と対峙することとなった。
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