82-人魚姫の願い
ポルトベッロシティは、オーシャンガーディアンの湾岸エリアで、もっとも大きい都市である。陸上都市と海中都市が作られており、海洋人種と人種が共存し街を発展させてきた。この国を象徴するような街である。海もきれいだか、人気の景色は夜景である。海岸から見ると後方には、陸上都市そして海の中に海中都市の灯りが星のように見える、さらに天気が良ければ星空が広がり、まるで宇宙にいるような気分だ。マーレの父親であるこの街のポルトベッロ統治知事と元老院議員のシーブリムとの会談を終えて、環達は統治庁舎を出ようとしたその時に、目の前の通りの空気が歪むのを感じる。すると、見覚えのある馬車が現れその瞬間に、咲と花が飛び降り環を見つけ走りよる。
「た、環様!」
「咲さん花さん、どうしたんですか?デイト様の能力を使うとは火急の要件ですか?」
「アネモネ姫が!アネモネ姫が!」
「おちついて、咲さん」
馬車の2両目から葵に抱き抱えられたアネモネ姫が姿を現す。葵はそのまま目の前の海の浅瀬に入って行く、そして後ろにいた麻衣に声をかける。
「麻衣さんだっけ?姫が君を呼んでいる来れる?」
「うん」
麻衣の姿を見つけたアマナが麻衣に近寄る。
「麻衣!」
「アマナ…ア、アネモネが…アネモネが…」
その姿を見てハリーが環と白檀に声をかける。
「彼女がフォレストダンジョンで保護された日本人、霜月麻衣のようだ…」
ハリーとアマナは、この街に来て反政府組織とされる、元老院議員のシーブリムとポルトベッロ統治知事に会うことにしたが、そこで環達と鉢合わせし、行動を共にしていた。マノーリアがアネモネの容態を確認しながら、延命にしかならないと知りながら、ヒールをかける。岸からその様子を見ていた梔子に環が声をかける。
「首都で何が…?」
「何も…元老院議長もマニーとデイト様の説得で、武装解除を先程命令してたから、そのうち、こっちにも連絡が入ると思う…あたし達が行った時には、姫はもうあんな感じだった。タマちゃんの力で助けられない?」
「デイト様で厳しいのであれば…女神の代行者と言われていても無力ですね…」
アネモネが麻衣に声をかける。麻衣も海水に浸かり、アネモネの手を握り、アネモネを見つめ涙する。
「麻衣…泣かないで…あなたに出逢えた事をわたしは感謝している。あなたの歌には力があるわ、できれば、あなたの力になりたかったけど…わたしはここまでみたい…」
「アネモネ!そんな事言わないで!元気になってこの海でふたりで歌おうって約束したじゃない!」
「ごめんね…麻衣…約束は守れそうに…ないみたい…日本人はこの世界で生きるのは大変かもしれない…少しでもあなたの…力になりたい…サヨリ様…最後にわたしにお力をお貸しください、サヨリ様の代行者として最後までやりきれなかったわたしですが…麻衣に…麻衣にこの世界で生きる力をお与え下さい…」
デイトが少し感情の入った口調で海に水面に手をかざす
「サヨリあなたの代行者であり、民が自身の最後の力を彼女に与えたいと申している。わたし達は長い時を眠りについた、そろそろ目覚めて良い時間だぞ!サヨリ答えよ!」
環も海に入り女神の代行者として、眷属神サヨリに問いかける。すると、もうろうとしていたアネモネの目が見開く
「お久しぶりですね。デイト…鳳凰もいるのですか?」
「サヨリか?鳳凰もいるが大戦で体を失くし、今は民に降りている」
「そうですか、デイトあなたの力をお借りして、民の願いを叶えましょう。わたしでは転移者に力を与える事はできませんから」
「わかった…わたしに彼女の力を流して与えれば良いな」
「はい、今のわたしではここまでです。もし、深海神殿に来れるようであれば…覚悟を決めたのに話してしまうと、民達と過ごした日々を思い出してしまいますね。それでは、後はお願いいたします。デイト、そしてアマテウス様の代行者環さん、鳳凰もむりしないで下さいね」
「必ず、お前も目覚めさせてやる」
アネモネの体は力が抜けクタっとなり、本人の意識が浮上してくる。
「サヨリ様がわたしの願いを聞き入れてくださったのですね…デイト様よろしくお願いいたします。麻衣、元気でね。会えなくなるけど、わたしはあなたの中で生きることができるわ…そんな悲しい顔をしないで…麻衣…歌って…」
デイトはコクりとうなずき、麻衣は声がでないまま首を横にふる。デイトが麻衣の胸とアネモネの胸に手を当てて、何かを呟いている。葵はアネモネを抱きながら麻衣に声をかける。
「麻衣さん。姫の願いをかなえてあげな…君の歌を聞きたがっている」
マノーリアも涙を流しながら無理な笑顔を作り、麻衣に歌を歌うように促す。
「麻衣さん…アネモネ姫にあなたの大切な一曲を捧げてあげてください」
麻衣は涙を拭い、弱い気持ちを振りきるように水面を両手で叩く、そして、海の水で顔を洗う。目を軽く瞑り歌を歌い出す。麻衣が選んだ曲は、デビュー後3曲目にリリースした失恋ソングだ。麻衣この曲をそれまでは好きではなかった。何故なら失恋の経験もないのに、事務所の意向で無理やり作曲した。しかし、この曲が大ヒットして、麻衣は一躍スターの階段を駆け上がった。しかも、全世界でだ。たった1週間程しか一緒にはいなかったが、心を通わせお互いの歌に心が踊った。失恋ではないが一生の別れ、今なら自分の曲として、本当の自分の曲として、歌えると思ったのだ。アネモネが麻衣の歌声に反応して、優しい笑みを浮かべる。
「麻衣…ありがとう…あなたの歌…本当に好きだよ…」
周りも悲痛な悲しみにおおわれ、麻衣の歌声と波の音の中、アネモネは永遠の眠りについた。すると、アネモネの胸が淡く青く光り、デイトの体を通り、麻衣の胸に入り優しく消えていった。
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