80-オーシャンガーディアン
シルドビナスを日の出前に馬車は、オーシャンガーディアンの国境を越える。デイトが同行しているので、デイトの本来の歩数であれば、数分でオーシャンガーディアンの首都へ到着できると葵は考えたが、目的地がデイトが行ったことがあるか、デイトが知る者がいないと使用できなかった。神様にもできないことがあるんだなと葵は思った。マノーリアの支獣アリスと花のユニが引く馬車は、順調に街道の分岐の関所まで到着した。馬車へ兵士が検閲の為に停止させる。
「これは支獣…… だよな? ずいぶんと変わった馬車だな~ すまないが首都へは許可が必要なんだが…… 」
マノーリアが代表して兵士に名乗る。
「おはようございます。ロスビナス皇国で新設された、皇女直轄の守星調査隊です。わたしは騎士長の如月マノーリアと申します。許可はありませんが、皇女と皇国元老院議長連名の書簡を持って来ております。首都への通行許可をいただきたい」
「皇女様と元老院議長の連名だって…… 」
マノーリアは書簡と環と元老院議長のサインの入った、超法規的措置対応で至急書簡をアネモネ姫の手元へ届く対応をしてほしいと書いた書面を兵に見せる。兵は魔法具を書面にかざすと、その書面のサインが皇女と元老院議長の本物であることを証明する。そしてその魔法具をマノーリアにかざすとマノーリアの身元も証明された。この世界は、各国の要職に着くものは、本人である証明ができるように、守星連盟で管理されている。
「通行できますよね? 」
「む、無論です。どうぞ…… 」
「ありがとうございます」
兵士は困惑しながらも、自身の地位で判断できるものでもないので通行許可を出す。隣国の同盟国であり、最大の貿易国であり、何よりも皇女と皇国元老院議長の連名の書簡を持つ騎士団の幹部を無下に扱える兵士はいない、マノーリアが馬車内に戻り、馬車が走り出す。マノーリアがデイトに尋ねる。
「デイト様、先程の兵士はどうでしたか? 」
「おそらく、何も知らない可能性が高いですね。虚偽は感じませんでした。こういった兵士や騎士は多いかもしれませんね。上からの命令で事情を聞かされずに職務についている方が多いのでしょう」
「何も知らずに、同国の国民が戦うのは不憫でなりませんね」
「そうなる前に、解決させないとね」
「首都に着く前に朝食済ませておこうか」
「そうね」
皆が軽めの食事をとり、朝の9時前には首都に到着する。首都城門でも同様にマノーリアが対応するが、さすがに簡単に通してくれるわけもなく、兵が慌てて街の中へ走って行く。無論、ここで門前払いをされる事はない、隣国の皇女と元老院議長の使者を突き返すことは、この世界ではあり得ない、しかも、その使者が伝令役の一般騎士や文官でなく、騎士団幹部が訪れているのだ。30分ほど待たされたが、城門通行の許可がおり、この国の騎士先導で、元老院議事堂へ案内され、一室に通され元老院議長が来るのを待つように伝えられる。マノーリアがこの状況に声を漏らす。
「かなり警戒されているわね」
「いきなり、皇女と元老院議長の書簡持って来たら、普通でも慌てるでしょ」
梔子が返答する。
「うーん、それはそうなんだけど…デイト様何か感じられますか?」
「先導している騎士も何も知らないようですね。知らないというよりも、虚偽の情報を信じているようですね」
「虚偽の情報ですか?」
「反政府組織が本当に悪で政府が正義であることを信じているようです。先程の兵士よりは情報を得ているようです」
葵がデイトに尋ねる。
「反政府組織が何をして悪としているのか…アネモネ姫を軟禁する正当な理由がある。少なくとも一定の国民が納得できる理由があるわけですよね?まあ捏造でもなんでも…」
デイトが葵の質問に答える。
「民は自分の環境より他人の環境が良く見えるようですね。民衆を簡単に動かすのは、そういうことでしょう。海洋人種の暮らしの方が良い暮らしをしている。アネモネ姫は、代行者の地位を使って、海洋人種優位の政治体制を作り上げているなど、いくらでも言うことは可能でしょう」
マノーリアがデイトの話しにつけ足すように話す。
「オーシャンガーディアンは、海洋国家ですものね。当然、海中や湾岸の地域に国家予算のウェイトがかかるし、それを当然と考えていた。しかし、内陸の地上の国民は、何も恩恵を受けられない、その当然の常識をひっくり返して悪とした。というところでしょうか?」
梔子が尋ねる。
「内陸の街道に大きな街があるよね? 最初の予定だといく予定だったよね?」
マノーリアが答える
「確かに大きな街だけど、あくまでも街道の要所というだけで、あの街に大きな産業があるわけでもないのよ」
内陸の街道の街は、フォレストダンジョンとロスビナスをつなぐ南北に通る街道である。フォレストダンジョンの木材などの流通が盛んになり、街も発展した経緯がある。その為、フォレストダンジョンやロスビナスで何かが起きれば街道の流通が途絶えると、街も寂れるという潜在的不安があるのだ。梔子がマノーリアの説明に納得して、この国の産業を思い出す。
「確かに、オーシャンガーディアンの産業は海洋と湾岸ばかりだものね」
葵が尋ねる。
「この国の産業は何なの?」
マノーリアが答える。
「海洋資源ね。海洋人種の人達じゃないと、深海の資源は採れないから、ひとつは深海鉄という鉱石ね、錆びにくいので重宝されているわ、それと、海藻の一種で作られた生地ね。わたし達の魔装衣ほどの強度はないけど、水中でも陸上でも着るのに適しているわ、すぐに乾くからね。海洋人種の人達は、この生地の服を着ているわね。沿岸警備の隊はウチも魔装衣でなく、この生地の藻装衣を基本装備にしているわ、わたし達はあまり服としては着ることは少ないわね」
「確かに、水着くらいかな?」
葵は水着に軽く反応する。是非とも夏の慰安旅行を白檀に提案し団長の権力でごり押ししてもらう事を企てる。梔子が葵の心中を察したのか葵をつめる。
「葵、今、マニーの水着姿想像したでしょ? 」
「えっ」
マノーリアが意表を突かれたのか不意に声が漏れる。
「マニー、葵は変態だからね。気をつけないと」
「クー」
「何よ」
「確かに、マニーの水着姿を俺は想像した。しかし、今のクーの問いで、公平でないといけないと思い全員想像した」
「変態!」
葵の隣でマノーリアが下を向いて小声で呟く。
「別に、わたしの想像だけで良いじゃない…」
葵は聞こえない不利をし梔子とじゃれる。部屋のドアがノックされドアを開ける。
「お待たせ致しました。サーディン元老院議長がおいでになりました」
「お待たせして申し訳ありません。元老院議長のサーディンです」
線が細く痩せた金髪の中年男性が入室する。元老院議長との直接対決がはじまる。
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