63-いとおしい感情ととめられない衝動
目が覚めると見知らぬ天井が目に入る。目が覚めてやはり、異世界なんだなと、思うこともなくなった。今この世界が、自分が生活する世界と完全に自覚した証拠だろう。
「どこだここ?病院…治療院か?そっか、俺背中に深い傷を受けたか…」
葵が寝ていたのは治療院の個室のベッドであった。部屋に洗面台があったので、自分の姿を見る。包帯やガーゼで手当てされているが特に大丈夫そうだ。歯ブラシと歯みがき粉があったので、歯みがきをして顔を洗う。
「問題無さそうだ。あれだけの大怪我をして、なんともないんだから、さすが異世界!」
すると部屋のドアが開けられる。姿を現したのはマノーリアだった。
「葵くん!」
「マニー、し、心配かけたみたいだね…」
マノーリアは葵が目覚めた姿を見て駆け寄り抱きつく。その顔は不安と安堵が同居している、潤んだ瞳で葵を見つめている。春の風がマノーリアのサラサラの髪を揺らし、その愛おしい姿に葵はとっさにマノーリアの唇を奪う。
「この前できなかったから…」
「言わなくても…わかるから…」
「最高の特効薬だ!なんか元気出てきた」
「もう、バカ…心配したんだから…でも…ありがとう守ってくれて…」
マノーリアは、葵から目を反らし、頬を赤く染めて照れている。葵はその姿に内からなんとも言えない感情が込み上げてくる、できれば、おかわりしたい気分だが、してしまうと、自分が制御できなくなる事を確信しているのでこらえる。自分を律する為に当たり障りないことをマノーリアに尋ねる。
「俺、どのくらい寝てたの? たぶん今は朝だと思うけど…」
「一昨日からよ、昨日1日眠ったままだったから…戦った悪魔が、上位の魔族でサーベラスという悪魔だそうよ、ヒールでは葵くん傷は完治できずに、環さんとデイト様の癒しで完治させたの」
「かなり、手強い相手だったからな、そうだ信治は?」
「大活躍だったわ!本人も時間稼ぎしかって言っていたから、その後も製作室にこもって武器を作成しているみたい、柊さんもすぐに来てくれて、クーと咲ちゃん、花ちゃんも夜に駆けつけてくれたんだけど、急遽、隣の村に行っていたそうで戻って来た時には、解決してて、慌ててこちらに来たって言っていたわ」
「みんなに心配かけさせたな」
「それだけ皆、葵くんの事信頼しているのよ。わたしもすごく心配した。わたしがもっと上手く立ち回れば葵くんにケガさせずに済んだのだから…」
マノーリアがまた下を向いて、自分のミスを悔やんでいる。葵はマノーリアの肩をポンと叩いて声をかける。
「俺は無事で、マノーリアも無事だったんだ。気にしなくて良いよ、もし、あの時マノーリアを助けられなくて、マノーリアがケガをしていれば、俺が悔やんでいた。だから、魔族と戦う以上、それは付き物と思うしかない、もっと強くなってお互い無事であるようにするのが、一番の答えだよ」
「そうだね。もっと強い相手と戦うことや不意に戦闘になることもあるから、常に万全って言えないわよね。」
「だから、何が起きても良いように強くなろう!」
「うん…」
ふたりはそう言いながらお互いを抱きしめあい、お互いの温もりを感じあう。そんなふたりに部屋の入口付近から声がかかる。
「ふたりで愛を確かめあっているのかも知れないけど…まだ朝だし、特務騎士様の容態を確認しに来たんだけど良いかしら?」
葵は声の方を見ると、マノーリアにそっくりの女性がたっていた。ストレートの髪は赤毛で、うっすらと黄色がかっており、マノーリア同様に美女で、黄色の瞳で葵を見つめている。白衣のような物を羽織、ここが治療院である可能性が高いので、おそらくマノーリアの母親だろうと葵は思うが、母親であれば、初対面で娘を抱いている男は、さぞかし印象が悪いであろうと思う。葵は冷静を装い口を開く。
「マノーリアのお姉さんですか?」
マノーリアが一人っ子なのは知っている、しかし、年の離れた姉と言っても通用する若さだ。見た目は20代後半から30代前半に見える。まさか、18歳の娘がいるとは思えない若さだ。葵の発言にマノーリアもドアへと顔を向ける。
「お母様!お部屋に入る時はノックをしてください。」
マノーリアの母親は肩をすくめて笑い歩みよりながらマノーリアに口を開く。
「奥手のマノーリアが、恋こがれるお相手よ、わたしだって気になるでしょう?環さんから聞いた時は、泣いて喜んだわ!わたしに隠す必要ないでしょう?それとも、独り身のわたしに、彼を取られるのが怖いかしら?」
マノーリアと違ってかなり攻撃的な母上らしい、娘の彼を寝とるとかスゲーなと葵は思う。しかし、マノーリアの母親の美貌なら、間違いが起きるかも知れないと、葵はこっそりと思う。治療師でマノーリアをエロくした感じの母親が、再婚できない理由があるとすれば、本人にする意志がないとしか思えない。母親が話しを続ける。
「改めて、神無月葵さん娘をよろしくお願いいたしますね!もし、自身の世界に帰る事があるとすれば、娘に未練が残らないようにしてくださいね。マニーも彼が彼の意思でなく元の世界に戻るかもしれない、それでも後悔しないようにしなさいよ!」
「わかりました。お義母さん」
「お義母さんはまだ早いかしら?それともそのつもりでいて良いかしら?」
「そうですね。でも、この世界で自立して生計を立てられるようになったら、改めてご挨拶しますね」
「既に、騎士様になられたので充分じゃないかしら?」
「あちらの世界では、学生で未成年としての生活しかしていないので、まだまだ未熟者なので、騎士としてやっていける確信も得たいので」
「気に入ったわ!葵さんマノーリアの事よろしくお願いね♪マニー?葵さんの事離さないようにね。後は、ふたりで愛を育みなさい。」
マノーリアの母親は、そう言って部屋を出ようとするので葵が尋ねる。
「診察は…?」
「問題ないわよ~」
そう言って部屋を出ていってしまった。マノーリアは顔を真っ赤にしてもじもじしている。
「あの、お母様あんな感じの人なので…き、気にしなくて良いからね…」
「気さくでいいひとだね。綺麗だし本当にマニーのお姉さんかと思った。」
また、ドアをノックされる。環、デイト、白檀、梔子、咲、花が部屋に入ってくる。環が葵に声をかける。
「葵さんお目覚めでしたか、具合はどうですか?」
「この通り元気ですよ」
デイトが続けて葵に声をかける。
「背中の傷痕は残ると思います。念のためもう一度癒しをしておきましょう。環さんも一緒に」
「承知いたしました。」
デイトと環が再度癒しを行う。葵が皆に尋ねる。
「信治と柊さんは?」
環が答える。
「信治さんは製作室にこもりきりで、柊さんは心配だと食事を持って行きました。唯一、信治さんを良い聞かせられるのは柊さんだけですからね。まぁ、信治さんの成長には驚きですが…」
「見違えるように変わったよなアイツ!」
白檀がそう言うと、全員が同意する。環が葵に声をかける。
「葵さん今日ゆっくり休んで、明日から調査隊室に来て下さい。マニーちゃん後よろしくね!」
梔子と咲がニヤニヤしてマノーリアを茶化す。
「お母様に意中の男性を紹介されてどうでしたか?」
マノーリアが顔を真っ赤にして、プイッとそっぽを向くノーコメントを決め込むようだ。環が笑みを浮かべながらしてやったりとご満悦の顔をしている。
「先程、お母様が葵さんを気に入ったと言っていたので、後はふたり次第でしょうね♪作戦成功と言ったところでしょうか」
葵はマノーリアの母親の治療院に運びいれた理由は、環の企てかとさとる。
「謀りましてね!環さん!」
「おふたりの幸せを願っての事です。」
こうして、葵はマノーリアの母親からも結婚の許可を半ば得た状況を環の陰謀により、想定よりも早く得ることとなった。
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冬童話2021投稿用に、連載中のSTRAIN HOLEの世界とキャラクターを使用して短編を書いてみました。
本編を読まなくても、完結するように書いておりますが、時期的なものや状況は本編とリンクさせておりますので、合わせてお読みいただければ、より楽しんでいただけるかもしれません。
【短編】姉妹のさがしもの
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