62-時間稼ぎ
容姿が変わったわけではない、しかし、数日前までの同一人物とは思えない程の姿に見える。今の彼は、自信に満ちた表情をし、その自信は、今までの虚勢をはったような表面的なものでなく、自信を得た裏づけがしっかりとあり、それは錬金術をたった一日で、武器を作成できるまでに到達したことによるものだろう、しかし、今までの彼なら、その能力を過信しうぬぼれていた。自身の武器がまだまだ試作品であり、自身の求める武器まで到達していないことを理解している。そして、その欠点を補うために、葵やマノーリアに助力を求めている。先日の失敗を認め、目的の為に他人に助力を得ることもいとわない。彼の決意、覚悟、確信が本物であることの証明だろう。葵とマノーリアに声がかかる。
「葵くん！如月さん！アイツを倒すだけの力は僕にはない、けど、時間稼ぎはできる。ふたりは空から陽動をかけて欲しい」
「信治、わかった！頼むぞ！」
葵とマノーリアは自身の支獣に乗り空に飛び上がる。信治がグレネードランチャーに弾を込める。
「光属性の方が効果があるな！弾はあと…5個…もっと作っておけば良かった…確実に当てなきゃ」
信治は、葵とマノーリアが陽動している合間にセカンドトレンチへ向かう。かぶっているヘルムに後づけしたゴーグルを目に装着する。そして、グレネードランチャーをかまえ、３犬頭の悪魔の頭をとらえる。
「くらえ！マジックグレネード！」
信治は２発連射する、３犬頭の悪魔が気づき身体をそらすが、２発のグレネードはこうを描き悪魔の頭に命中する。信治は、４つ目の塹壕を魔法で作り移動する。葵とマノーリアも加護、助力の技能や魔法を駆使して、攻撃を与える。３犬頭の悪魔は怒りの咆哮を上げて、漆黒の炎をで自身の身体を囲み防御する。
「ダニどもふざけやがって、まだ、再生したばかりのこの身体では本来の力が出せぬか…」
信治は塹壕の中で弾を込める。
「やっぱり、２発の連射は次の発射まで、クールタイムが起こるか…後、３発…これは最後と思ったけど、今だな！」
信治は塹壕から顔出し葵とマノーリアに声をかける。
「ふたりとも一度下がって！」
葵とマノーリアが悪魔からはなれる。
「マジックグレネード！」
信治はグレネードを１発上空に打ち上げる。そして、３犬頭の悪魔の頭上から、光魔法のライトニングスピアとスタンの２つの魔法が同時に顕現し、無数の光の槍が悪魔の身体を貫き、さらに電撃が身体全体を焦がす。
「ウガガァァッー！！」
３犬頭の悪魔が身体をブルブルと震わせ、しびれている。身体からは煙のような物が立つ、しかし、悪魔が致命的なダメージではないようで、再び、漆黒の炎を身体にまとい、傷を癒している。信治が自身の持っている武器を見て、ため息をつく。
「はァー、やっぱり合成魔法はバレルの負担が大きい、連発よりもクールタイムが長い、これも課題だな～」
３犬頭の悪魔が信治を睨み付け吠える。
「許さんぞ！絶対に貴様を許さんぞ！」
３犬頭の悪魔が葵達の攻撃を無視して、信治に爪で襲いかかる。信治はすかさず、長方形の布が信治の前に現れ爪の攻撃を防ぐ、悪魔はニヤリと笑う。
「同じ手を食らうかものか、お前だけでも殺してやる」
そう言うと、両腕で防御の黒色布を抑えて、信治を真ん中の頭が噛みつこうとした、その瞬間、新たに岩の壁がそびえたと思った次の瞬間何かが、３犬頭の悪魔に何かが体当たりしたようで、３犬頭の悪魔が後ろに吹き飛ばされる。
「遅くなりました…良く耐えてくれました。３犬頭の悪魔…貴様も封印から覚めましたかサーベラス！」
デイトが加勢に加わったが、既にパワードスーツを見にまとっている。３犬頭の悪魔の名はサーベラスという悪魔だった。サーベラスが立ち上がりデイトを見る
「その姿、眷属神…」
さらにそこへ白檀が剣技で斬り込む。
「鉄火斬！」
サーベラスは両手の爪で防いで見せた。
「加護を得た人間…？いや、貴様も眷属神だと…」
「どっちだろうが、大したことないだろ？」
「分が悪いか」
「逃がしません！」
デイトと白檀が大剣と大太刀を大きく振りかぶる、突如漆黒の炎と煙が周りを多い尽くす。
「今日はここまでとしよう、眷属神どもが目覚めていることを得ただけで充分だ。貴様達もいずれ亡き者にしてやる。」
サーベラスの姿が霧散した。周辺の漆黒の炎と黒煙が光によって消えていく。環も到着したようだ。
「デイト様ありがとうございます。」
「あの悪魔は、さすがに葵さん達では今は厳しいでしょう。あのような悪魔まで目覚めるとは…先程のは高位魔族のサーベラスです。高位でも上から上位に位置する者になります。」
「高位魔族ですか…」
デイトと環が話していると、奥でマノーリアの悲鳴が聞こえる。
「あ、葵くん！しっかりして！ヒール！」
葵は意識を失い倒れており、マノーリア泣き崩れている。環達も近くに行き葵の容態を確認する。デイトがマノーリアに声をかける。
「マノーリアさん、下がって！サーベラスの爪をまともに受けたのであれば、ヒールでは完治しません。環さん女神の癒しをわたしも癒しを行います。」
環はデイトに言われるまま、金剛杵をかまえて癒しを行う。隣でデイトも癒しを行う。葵の傷が癒えていく。
「完治はしていませんが、悪化は防ぎました。２日は休ませましょう。」
「わかりました。マニーちゃんあなたのお母様の治療院に葵さんを連れていきましょう。」
「はい、葵くんは大丈夫なのですか？」
「命に別状はありません。ただし１日は眠っているかもしれません。マノーリアさん上位魔族は強敵です。葵さんは、加護と紫炎の力を使って行きながらえただけです。なければ死んでいたでしょう。無事で何よりでした。信治さんの加勢がなければ、わたし達の到着を待たずに危険だったかもしれません。」
白檀が信治の肩を抱えて労う
「信治！今日は思う存分威張れ！お前の活躍がなければこうはならなかった。よくやったな！」
「あ、ありがとうございます。でも、まだダメなんです。ここで過信したら、前と同じなんで！また、製作室に戻ります。すぐに試したいことあるので…」
「信治くん！ちょっと待って！」
「如月さん…何？」
「今日は本当にありがとう！助けてくれて…あなたが来てくれなかったら、葵くんもわたしも…」
「いや、これで街道のチャラってことで、僕、街道でたくさん迷惑かけたから」
「それでもよ！本当にありがとう」
信治の活躍により、ロスビナスシティの街の被害は最小限に抑えられた。しかし、守星大戦以降にロスビナスシティが魔族に襲われることがなかった為、世界的には大きなニュースとなった。そして、重症の葵はマノーリアの母親の如月治療院へと搬送されるのであった。
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冬童話2021投稿用に、連載中のSTRAIN HOLEの世界とキャラクターを使用して短編を書いてみました。
本編を読まなくても、完結するように書いておりますが、時期的なものや状況は本編とリンクさせておりますので、合わせてお読みいただければ、より楽しんでいただけるかもしれません。
【短編】姉妹のさがしもの
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